旧開智学校

旧開智学校は、長野県松本市にある明治時代初期の擬洋風建築の校舎です。1876年（明治9年）に建てられ、当初は松本市本町に位置していましたが、後に現在地の松本市開智に移築されました。この建物は、文明開化時代の小学校建築を代表する存在として広く知られており、2019年には近代の学校建築として初めて国宝に指定されました。現在は松本市立博物館の分館として一般公開されており、多くの人々が訪れています。

歴史

創立

開智学校は、藩校崇教館を起源とし、明治維新を経て筑摩県学へと引き継がれた、地域で最も歴史のある小学校でした。1873年（明治6年）5月6日、学制に基づき「第二大学区筑摩県管下第一中学区第一番小学開智学校」として正式に創立されました。「開智」という校名は、学制発布の前日に公布された太政官布告に由来し、「智を開く」という教育理念が込められています。県内の学校としては唯一、英学（洋学）が導入されたことでも特筆されます。

建設

開校当初、開智学校は旧藩主戸田氏の菩提寺であった全久院の建物を仮校舎として使用していました。その後、1876年（明治9年）4月に全久院跡地に新校舎が建設されました。これが現存する旧開智学校校舎です。建設は筑摩県権令の永山盛輝の主導で行われ、総工費は約11,000円（現在の価値で2～3億円相当）に及びました。その大部分は松本町全住民の寄付で賄われ、残りは特殊寄付金や廃寺の古材売却益で調達されました。上棟式や開校式には多くの人々が訪れ、その関心の高さが伺えます。

設立後

1876年（明治9年）7月には、敷地内に「第17番中学変則学校」が併設され、これが現在の長野県松本深志高校の前身となりました。開智学校の校舎写真は、1884年のニューオーリンズ万国博覧会と1893年のシカゴ万国博覧会に出品され、国際的にも注目を集めました。その後、小学校令の実施に伴い「開智尋常小学校」となり、数度の改称を経て「松本市立開智小学校」となりました。1961年（昭和36年）には、明治時代の擬洋風学校建築として初めて重要文化財に指定されました。約90年間使用された後、校舎は解体され、1964年に現在の場所に移築・復元されました。

移転後

移築後の1965年（昭和40年）から、旧開智学校は教育博物館として公開され、年間約10万人が訪れる人気スポットとなっています。また、1987年と2005年には、それぞれ愛媛県西予市の開明学校と静岡県賀茂郡松崎町の岩科学校と姉妹館提携を結びました。1991年には、隣接地に明治時代の洋式住宅である旧司祭館が移築されました。2019年には、校舎が国宝に指定され、2021年から耐震・防災工事のため休館していましたが、2024年11月9日に再開館しました。

建築概要

旧開智学校校舎は、「旧開智学校校舎1棟」として国宝に指定されており、建築関係資料（文書56点、図面7枚）も附指定されています。設計・施工を担当したのは地元出身の大工棟梁、立石清重です。彼は東京や横浜で最新の建築技術を視察し、その知識を基に和風建築の技術と融合させた独特のデザインを生み出しました。立石が残した「東京出府記」と「営繕記」は、当時どのような建物を参考にしたかを明らかにする貴重な資料であり、擬洋風建築の中でも特に重要な建物とされています。

校舎は木造2階建てで、寄棟造、桟瓦葺きの構造です。当初は教室棟が付属する逆L字型の平面構成で、32の教室を備えた大規模な建物でした。外壁は漆喰塗で、1階の腰部は石積み風に、四隅はコーナーストーン風に見せるなど、洋風のデザインが取り入れられています。正面には車寄が設けられ、龍の彫刻や天使の像など、和洋折衷の装飾が施されています。また、建物中央には八角塔屋があり、和風の唐草文様の彫刻が施されています。内部は東西に中廊下が通り、1階には教室、教員控室、小使部屋などがあり、2階には講堂や教室が配置されています。講堂は開放的な作りで、クイーンポストトラスを模した小屋組が特徴です。この建物は、車寄や塔屋などの洋風な要素と、唐破風や龍の彫刻といった和風な要素が見事に融合した、明治初期の擬洋風建築の代表例と言えるでしょう。

開智学校のデザインは、周辺の学校建築にも影響を与えました。山辺学校を手がけた棟梁の佐々木喜十は、開智学校建設時に立石の下で働いており、その構成やデザインを参考にしています。また、諏訪市の高島学校や埴科郡坂城町の格致学校にも、開智学校の影響が見られます。

出身者

開智学校は、多くの著名な人物を輩出してきました。主な出身者には、木下尚江、澤柳政太郎、高山正雄、堀江正章、水崎基一、吉武栄之進、渡邊嘉一などがいます。

交通手段

バス

松本周遊バスタウンスニーカー北コース：「旧開智学校」下車
岡田線・アルプス公園線・北市内線：「鷹匠町（松本駅行きのみ）」または「蟻ヶ崎高校前」下車、徒歩

鉄道

JR大糸線北松本駅から徒歩約20分

関連項目

松本市立博物館の分館
松本市の名所・旧跡
松本市の歴史

出典

参考文献

北原広子 (2013). 浪漫あふれる信州の洋館. 信濃毎日新聞社. ISBN 9784784072149
藤森照信 (1990). 日本近代思想大系. 19 都市建築. 岩波書店. ISBN 4002300196
藤森照信 (1995). 信州の西洋館. 信濃毎日新聞社. ISBN 4784095101
米山勇 (2010). 日本近代建築大全. 東日本篇. 講談社. ISBN 9784062160278
文化庁. “旧開智学校校舎”. 文化遺産オンライン. https://web.archive.org/web/20150413121039/http://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/156180 2015年1月3日閲覧。
[松本市]]立博物館 (2013a). “施設案内 > 博物館施設 > 旧開智学校 > プロフィール”. 松本市公式ホームページ. 松本市. [https://web.archive.org/web/20150103132344/http://www.city.matsumoto.nagano.jp/shisetsu/bunka/hakubutu/kyuukaichi/profile.html 2015年1月3日閲覧。
[松本市]]立博物館 (2013b). “施設案内 > 博物館施設 > 旧開智学校 > 姉妹館”. 松本市公式ホームページ. 松本市. [https://web.archive.org/web/20150103132347/http://www.city.matsumoto.nagano.jp/shisetsu/bunka/hakubutu/kyuukaichi/simaikan.html 2015年1月3日閲覧。
新まつもと物語プロジェクト (2006年1月16日). “県宝 [松本市]]旧司祭館”. 新まつもと物語. [https://web.archive.org/web/20150327135628/http://www.shinmatsumoto.com/heritage_old_priest_house.html 2015年6月4日閲覧。

外部リンク

* 旧開智学校　松本市公式ホームページ

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