有村町

有村町（ありむらちょう）

鹿児島県鹿児島市の東部、活火山である桜島の南東部に位置する有村町は、その歴史と自然環境において特異な存在です。過去の桜島の噴火により、集落が埋没するなど甚大な被害を経験しており、現在も火山活動の影響を受ける地域です。

地理

有村町は、桜島の南東部に位置し、北から東にかけて黒神町、西には古里町と東桜島町に接し、南は鹿児島湾に面しています。海岸線沿いには国道224号が東西に走っています。

特筆すべきは、町域のほぼ全域が桜島の火口から半径3km以内にあることです。特に北西部を含む2km圏内は、災害対策基本法に基づき警戒区域に指定され、立ち入りが制限されています。また、町全域が避難施設緊急整備地域に指定されており、火山活動に対する警戒が常に必要とされています。

過去には、2015年に噴火警戒レベルが引き上げられた際に避難勧告が発令され、2022年にはレベル5（避難）に伴い避難指示が発令されました。このように、有村町は常に噴火のリスクと隣り合わせの地域です。

町の中央部には有村溶岩展望所があり、ここからは鹿児島湾や開聞岳を一望できます。町域の大部分は、大正大噴火や昭和噴火で流れ出した溶岩によって形成された溶岩原です。展望所付近にはニセアカシアの群落が見られ、道路沿いにはネムノキなども点在します。また、有村海岸では、干潮時に砂浜を掘ると温泉が湧き出るという珍しい現象も見られます。地下には高濃度の二酸化炭素を含む温泉水が存在し、土壌からの二酸化炭素放出量が多いことも特徴です。

自然公園・自然保護地区

有村町全体が霧島錦江湾国立公園に指定されており、特別保護地区、特別地域、普通地域で構成されています。これは、有村町の自然環境が貴重であることを示しています。

河川

町内には、有村川と第一古里川が流れています。

町名の由来

有村という地名の由来には二つの説があります。一つは、平家の一族が流れ着き、それを発見した武士が「村がある」ことから名付けたという説。もう一つは、江戸時代に温泉地として有名だったため、島津氏の別荘である御仮屋があったことに由来するという説です。

降灰量

有村町は、桜島の火口の南東に位置するため、噴火時には大量の火山灰が降下します。1984年には、1平方メートルあたり59キログラムもの降灰が観測されました。これは、桜島の火山活動が有村町に大きな影響を与えていることを示しています。

歴史

中世の有村

有村という地名は、室町時代から見られ、当時は大隅国向島の一部でした。1442年には、島津氏によって本田氏に宛がわれた記録が残っています。

近世の有村と脇

江戸時代の有村は、大隅郡桜島郷に属し、島津氏の別荘である御仮屋が置かれていました。脇村も同様に桜島郷に属し、かつては瀬戸村を含んでいたとされています。安永8年の噴火では、有村・脇村ともに大きな被害を受け、有村では57名、脇村では34名の死者が出ました。この噴火で温泉も埋没しましたが、明治時代には再び有村温泉が開設されました。

東桜島村の発足から明治時代末期まで

1889年、町村制の施行により、有村と脇村を含む周辺の村々が合併し、東桜島村が発足しました。大字として「有村」と「脇」が設けられ、有村には村役場、郵便局、巡査駐在所が置かれ、東桜島村の中心地となりました。1907年には皇太子（後の大正天皇）が有村温泉に行幸しています。

大正大噴火による埋没と移住

1914年1月12日、桜島は大正大噴火を起こし、有村は壊滅的な被害を受けました。噴火の前兆として、有村では火山ガスの発生や地震が観測されていましたが、測候所からは異変なしとの回答でした。住民は避難を試みましたが、多くの人が取り残されました。噴火によって流れ出した溶岩は集落を埋め尽くし、有村の川原尋常小学校は廃校となりました。役場も埋没し、保管されていた書類も焼失。その後、役場は湯之集落に移転しました。有村と脇の住民は、種子島や佐多村などに移住しました。

昭和噴火の溶岩流出

1946年1月30日の昭和噴火では、溶岩が有村に流れ込み、海岸まで到達しました。この噴火で有村は再び大きな被害を受け、送電線が切断され停電も発生しました。

鹿児島市への編入

1950年10月1日、東桜島村が鹿児島市に編入され、有村と脇の区域は「有村町」として新たに設定されました。

昭和後期の桜島の爆発と集団移住

昭和50年代後半から60年代にかけて、桜島の活動が活発化し、有村町では噴石による被害が多発しました。1984年には大規模な爆発が発生し、住宅火災や停電が発生。住民は集団移住を決意し、1987年から星ヶ峯団地などへ移住を開始しました。これにより、有村町の人口は大幅に減少しました。

平成以降の有村

1990年には、有村溶岩展望所の遊歩道が整備され、避難壕として利用できるトンネルも作られました。2005年には、南岳の斜面に観測坑道が建設され、地盤変動の観測が行われています。

人口

有村町では、1987年以降、桜島の噴火による危険性から、住民の地区外への移転が進み、人口が減少しています。2020年時点では、11人となっています。

施設

公共

有村溶岩展望所：大正溶岩原に作られた展望所で、溶岩原と桜島の風景を堪能できます。歌碑やギャラリーも設置されています。
有村退避舎：避難施設として利用されます。

寺社

若宮神社：町内に鎮座する神社です。

産業

2015年の国勢調査によると、有村町では医療・福祉業、宿泊業・飲食サービス業に従事する人がいます。2014年の経済センサスでは、飲食料品小売業やその他の小売業の事業所が存在しています。

教育

かつては川原尋常小学校がありましたが、大正大噴火で廃校になりました。現在は、町内に学校施設はありません。

交通

道路

国道224号

路線バス

鹿児島交通が運行。

港湾

桜島港
有村地区（避難港）

参考文献

鹿児島県『桜島大正噴火誌』
桜島大爆震記編纂事務所 編『大正三年桜島大爆震記』
鹿児島市史編さん委員会『鹿児島市史』
「角川日本地名大辞典 ４６ 鹿児島県」
桜島町郷土誌編さん委員会『桜島町郷土誌』
井村隆介「史料からみた桜島火山安永噴火の推移」
山科健一郎「資料からみた1914年桜島大正噴火の開始と噴火に先立つ過程」
中央防災会議災害教訓の継承に関する専門調査会報告書
桜島大正噴火100周年事業実行委員会『桜島大正噴火100周年記念誌』

関連項目

有村（曖昧さ回避ページ）
火山噴火の歴史

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