木崎原の戦い

木崎原の戦い（きざきばるのたたかい）は、元亀3年（1572年）に日向国真幸院木崎原（現在の宮崎県えびの市）で、伊東義祐と島津義弘の間で行われた合戦です。伊東軍の大軍勢に対し、島津軍が少数で勝利したことから、「九州の桶狭間」と呼ばれることもあります。しかし、桶狭間の戦いとは異なり、島津軍も甚大な損害を被り、ほぼ全滅に近い状態となりました。この戦いは、伊東氏の衰退を招き、後の「高城川の戦い（耳川の戦い）」の遠因ともなりました。

戦いの背景

1571年、島津貴久が亡くなると、大隅の肝付氏が島津領に侵攻を開始しました。これに乗じて、日向の伊東義祐は真幸院の完全支配を狙い、翌1572年5月に島津氏が治める飯野地区への大攻勢を開始しました。伊東義祐は事前に相良義陽に援軍を要請し、協力を取り付けました。

加久藤城攻防戦

1572年5月3日、伊東祐安を総大将とする伊東軍3,000余は、小林城を出発。飯野・妙見原に到着後、二手に分かれました。一軍は島津義弘の居城である飯野城の抑えとして妙見原に留まり、もう一軍は伊東祐信らが率いて、加久藤城を攻撃するため進軍しました。加久藤城には、義弘の妻子と約50人の守兵が籠っていました。

伊東祐信は、まず加久藤城周辺の民家を焼き払い、島津軍を挑発しました。この炎を見て、義弘は異変を察知しますが、事前に間者から情報を得ていたため、冷静に対応しました。義弘は狼煙を上げ、各地の城に急を知らせるとともに、兵を配置しました。

加久藤城救援：遠矢良賢に60人を与え、加久藤城の救援に向かわせました。
伏兵：五代友喜に40人を預け白鳥山野間口に、村尾重侯に50人を預け本地口の古溝に伏せさせました。
本隊：自ら130人を率いて、飯野城と加久藤城の間の二八坂に陣を張りました。

伊東軍は、加久藤城の搦め手へと進みましたが、暗闇の中で樺山浄慶の屋敷を誤って攻撃してしまいました。樺山浄慶父子は、屋敷から石を投げつけ、あたかも大軍がいるかのように見せかけ、伊東軍を翻弄しました。その隙に、加久藤城を守る川上忠智が城から打って出て攻撃、さらに馬関田、吉田からの救援軍や遠矢良賢の軍勢が加わり、伊東軍は退却を余儀なくされました。

池島川での攻防

退却した伊東軍は池島川まで下がり、鳥越城跡地で休息しました。兵の多さから油断し、多くの者が川で水浴びをしていたところ、島津軍の斥候からの報告を受けた義弘が、そこへ斬り込みました。大将の伊東祐信は、義弘との一騎打ちで討ち取られました。このとき、義弘の愛馬が祐信の槍を避けたという逸話が残っています。

義弘は一時退却し、伊東軍は本隊と合流。白鳥山を抜けて高原城へと退却を開始しました。

決戦

伊東軍が白鳥山に登ると、白鳥神社の僧侶たちが鉦や太鼓を打ち鳴らし、白旗を立てて伏兵を装いました。これに動揺した伊東軍に対し、義弘は鎌田政年に60人を預けて背後を攻撃させ、自らは正面から突撃しました。一旦は後退したものの、すぐに体勢を立て直し、再び伊東軍と交戦しました。

島津軍の迅速な立て直しに、伊東軍は虚を突かれました。さらに、背後からの鎌田隊、側面からの五代隊の攻撃を受け、伊東軍は総崩れとなりました。総大将の伊東祐安は、退却中に村尾隊の攻撃を受け、討ち死にしました。また、伊東祐安の嫡子や弟など160人は、反対方向へ逃げたところを新納忠元の軍勢に討たれました。

島津軍は、鬼塚原まで伊東軍を追い討ちし、追撃を中止しました。その後、義弘は戦場を巡視し、負傷者の手当てや戦死者の弔いを行い、戦勝を祝いました。また、激戦地となった三角田に六地蔵塔を建て、敵味方双方の戦没者を供養しました。伊東氏側も小林に伊東塚を作り、戦死者を弔いました。

戦いの結果

この戦いで、伊東軍は幹部クラスの武士128人を含む250人以上の士分と、560人以上の雑兵を失いました。一方、島津軍も150人の士分と107人の雑兵を失い、両軍ともに甚大な損害を被りました。戦死者の遺体は周辺の山々にも及び、4ヶ月経ってもすべてを片付けることができなかったと伝えられています。この戦いの敗北は、伊東氏の衰退を決定づけ、後の耳川の戦いへと繋がる遠因となりました。

補足

この戦いは、島津側からは「木崎原の戦い」と呼ばれますが、伊東側からは「覚頭（加久藤）合戦」と呼ばれています。
* えびの市歴史民俗資料館では、この戦いを再現したビデオを見ることができます。

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