蘇峻の乱

蘇峻の乱

蘇峻の乱は、中国東晋初期の327年から329年にかけて、歴陽内史の蘇峻が起こした反乱です。この乱は、東晋の政治情勢と軍事構造に大きな影響を与えました。

背景

王敦の乱鎮圧で功績を挙げた蘇峻は、長江北部で強大な軍閥となりました。しかし、朝廷の許可なく罪人や亡命者を匿うなど、独断専行が目立つようになります。中央では、明帝の崩御後、幼い成帝が即位し、生母の庾文君が垂簾聴政を行うこととなり、外戚である庾氏一族の権勢が増大しました。

庾亮は厳格な法治主義で改革を推し進めましたが、陶侃や祖約といった地方の有力者との間に軋轢を生じさせます。特に蘇峻に対しては、その存在を危険視し、軍権剥奪を画策しました。温嶠を江州刺史として武昌に派遣し、蘇峻を牽制させます。

蘇峻の乱勃発

327年、庾亮は蘇峻の軍権を剥奪するため、彼を朝廷に召喚しようとします。王導や卞壼らは反対しましたが、庾亮は強行しました。蘇峻はこれを警戒し、参内を拒否しますが、朝廷は重ねて召喚を命じます。参軍の任譲の讒言もあり、蘇峻は自衛のため挙兵を決意しました。

蘇峻は祖約に協力を呼びかけ、祖約もこれに応じます。朝廷は、卞壼を尚書令に、王舒を揚州刺史に任命し、北方の蘇峻を警戒します。

東晋軍の抗戦

327年10月、蘇峻は挙兵し、阜陵県令の匡術らがこれに加わります。祖約配下の祖渙と許柳も合流し、蘇峻軍は勢力を拡大しながら建康へ進軍します。庾亮は、温嶠の進軍を認めず、陶侃との連携を危惧しました。また、孔坦と陶回が阜陵攻略を進言しましたが、庾亮はこれも受け入れませんでした。

12月には、蘇峻軍の韓晃に姑孰を襲撃され、塩米を奪われます。彭城王司馬雄と章武王司馬休が蘇峻軍に降伏し、戦局は悪化の一途を辿ります。庾亮はついに自ら指揮を執り、弟の庾翼を石頭城に入れました。郗鑒も援軍を送ろうとしましたが、庾亮は後趙への備えを優先し、劉矩に3,000の兵を与えて建康に送るに留まりました。

328年1月、慈湖の戦いで司馬流が敗れ、牛渚の戦いでも官軍は敗北します。2月には、蘇峻が建康の覆舟山に布陣し、都は危機に瀕しました。

建康陥落と蘇峻の暴政

朝廷は卞壼を都督に任命し、蘇峻を迎え撃たせますが、西陵の戦いで大敗を喫します。卞壼は戦死し、庾亮は温嶠の元へ落ち延びました。

建康を制圧した蘇峻軍は宮殿に乱入し、皇后や宮女に暴行を働き、宮人を虐待しました。国庫を暴き、財産を略奪します。蘇峻は自身を驃騎将軍とし、祖約を侍中、太尉に任命するなど、政権を掌握しました。呉国内史の庾冰を攻めさせ、庾冰は会稽へ敗走しました。

東晋官軍の反撃

温嶠は、蘇峻が人望を失っていることを知り、建康奪還を決意します。陶侃を大将に迎え、反撃の準備を進めます。郗鑒は夏侯長らを派遣し、温嶠と合流させます。

328年5月、陶侃の本隊が尋陽に入り、庾亮と和解します。陶侃を大将とする総勢4万の兵が建康へ向かうと、王舒、庾冰らが各地で義兵を挙げます。蘇峻は成帝を石頭城に移し、防備を固めます。陶侃らは水軍を率いて南下し、茄子浦では毛宝が蘇峻軍の輜重部隊を破ります。

白石塁の戦いと蘇峻の死

6月、東晋官軍は石頭城に迫りますが、堅固な守りの前に膠着状態となります。李根の献策により、白石塁を築き、庾亮率いる2,000の兵を入れます。蘇峻は白石塁を攻め立てますが、その隙に郗鑒らの水軍が京口を攻略します。郗鑒は京口に3つの塁を築き、蘇峻軍の補給路を遮断しました。

7月、後趙が寿春を攻略し、祖約は歴陽へ逃亡します。9月、蘇峻は温嶠らの攻撃を撃退しますが、糧道を断たれ、追い詰められます。大業塁を攻め立てますが、陶侃が石頭城へ向かったため、形勢は逆転します。陶侃の攻撃により蘇峻は落馬し、官軍によって討たれました。

乱の終結と影響

蘇峻の死後、蘇峻軍は瓦解し、329年2月には石頭城が陥落し、蘇峻の乱は鎮圧されました。蘇峻の一族は滅ぼされ、祖約は後趙で処刑されました。

この乱の結果、王導が再び朝政を主導し、庾亮は失脚しました。しかし、庾氏一族の権勢は維持されました。また、首都建康が荒廃しましたが、遷都は行われませんでした。

軍事的には、蘇峻と祖約という北方の軍閥が壊滅し、後趙の圧力が強まりました。東晋は陶侃と郗鑒の軍団を強化し、北府軍が北方防衛の要となりました。しかし、軍事力集中は、後の桓温の専横を招く要因にもなりました。

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