樊崇

樊崇（はん すう）

樊崇（生年不詳 - 27年）は、中国の新代から後漢時代初期にかけて活躍した武将で、字は細君といい、徐州琅邪郡の出身です。彼は、新代末期に発生した大規模な農民反乱である赤眉軍の指導者として知られています。ただし、後漢の大司徒を務めた鄧禹の配下にも同姓同名の人物（驍騎将軍）がいますが、この人物とは別人です。

事績

泰山での蜂起

呂母の乱から数年後、樊崇は莒（琅邪郡）で100人余りの兵を率いて挙兵し、泰山郡に進出して「三老」を自称しました。当時の青州と徐州は深刻な飢饉に見舞われており、各地で盗賊が頻発していましたが、彼らは樊崇の勇猛さに惹かれ、その傘下へと集まりました。その結果、わずか1年ほどの間に樊崇の軍勢は1万人を超える規模に膨れ上がりました。さらに、琅邪郡出身の逄安や、東海郡の徐宣・謝禄・楊音なども合流し、軍勢は数万に達しました。

当初、樊崇軍は莒を攻略しようと試みましたが失敗し、代わりに姑幕（琅邪郡）を攻撃し、地皇2年（21年）には探湯侯田況の軍を打ち破りました。その後、樊崇軍は青州で略奪を重ねた後、泰山に引き返しましたが、この頃から、それまで盗賊の寄せ集めだった樊崇軍は、徐々に軍隊としての組織と規律を整え始めました。

赤眉軍の出現と三輔進攻

地皇3年（22年）、王莽は樊崇を討伐するため、更始将軍・平均公廉丹・太師王匡の軍を派遣しました。この時、樊崇らは敵軍との識別を容易にするため、自軍の兵士の眉を赤く染めるように命じました。これが「赤眉軍」と呼ばれるようになった由来です。赤眉軍は廉丹・王匡の軍を撃破し、さらに無塩（東平郡）まで追撃して廉丹を討ち取りました。その後、赤眉軍の一部は河北へ分散し、樊崇の軍は各地を攻略しながら陳留郡に入り、魯城（魯郡）を攻め落とし、濮陽（東郡）に侵入しました。

更始元年（23年）10月、洛陽に遷都した更始帝（劉玄）は、使者を派遣して樊崇に降伏を勧めました。樊崇は将帥20数名だけを連れて洛陽を訪れ、列侯に封じられました。しかし、樊崇らは領地を与えられず、養えなくなった部下の兵士が逃亡し始めたため、樊崇らは洛陽から逃亡して再び自軍の下に戻りました。赤眉軍は潁川に入り、軍を2つに分け、一軍を樊崇・逄安が率い、もう一軍を徐宣・謝禄・楊音が率いました。樊崇軍は長社（潁川郡）・宛（南陽郡）を攻略し、徐宣軍は陽翟・梁（潁川郡）を攻略して河南太守を斬りました。

赤眉軍は連戦連勝を重ねる一方で疲弊し、兵士たちは故郷への帰還を望むようになりました。しかし、樊崇らは東へ戻れば軍が瓦解すると判断し、あくまで長安への進攻を目指しました。更始2年（24年）冬、樊崇軍は武関から、徐宣軍は陸渾関から、それぞれ三輔へと侵入し、更始3年（25年）1月には弘農郡で両軍が合流しました。

劉盆子擁立と長安支配

赤眉軍はさらに更始軍を撃破し、華陰（弘農郡）に到達しました。ここで、従軍していた巫女がトランス状態の中で劉氏宗族を天子に立てるよう進言し、更始帝に殺害された方望の弟である方陽が、劉氏宗室の人物を擁立することで軍の正統性を確保することを勧めました。赤眉軍の将軍たちは協議の結果、最も血筋が近い3人の中から籤引きで皇帝を選ぶこととし、同年6月、劉盆子を皇帝に擁立し、「建世」と改元しました。樊崇は勇猛さをもって軍を率いてきましたが、読み書きや計算ができなかったため、学問の素養があった徐宣に丞相の地位を譲り、自身は御史大夫に就任しました。

同年9月、赤眉軍は更始帝に反逆した張卬らの手引きによって長安を攻め落とし、更始帝を降伏させてその政権を滅ぼしました。しかし、樊崇らの支配は乱脈を極め、長安やその周辺で略奪や狼藉を繰り返しました。建世2年（26年）春、食糧が尽きてしまったため、長安を放棄して西進しましたが、安定郡で隗囂と戦い、大雪に見舞われて多くの死傷者を出し、結果的に東へ引き返すこととなりました。この間、光武帝（劉秀）配下の大司徒鄧禹は長安を一時的に占領しましたが、戻ってきた赤眉軍によって再び撤退を余儀なくされました。主力が不在となった隙を突いて鄧禹が長安を襲撃しましたが、謝禄がこれを撃退しました。しかし、杜陵（京兆尹）では、逄安率いる主力部隊が延岑・李宝に撃破されてしまいました。食料が不足し、同年12月、樊崇らは東へ帰還することを決断しました。

後漢への降伏と最期

建世3年（27年）、樊崇らは鄧禹の軍を各地で破りながら懸命に東へ逃走しましたが、崤底（弘農郡黽池県）で馮異率いる漢軍に大敗を喫しました。樊崇らは宜陽（弘農郡）へ逃れましたが、ここで光武帝らが率いる漢の大軍に正面を阻まれ、ついに徐宣以下30人と共に上半身を肌脱ぎにして降伏しました。

その後、樊崇は洛陽に妻子と共に居住しましたが、同年夏、逄安と共に謀反を企てたとして処刑されました。

脚注

参考文献

『後漢書』列伝1劉盆子伝、劉玄伝
同本紀1上光武帝紀上
同列伝3隗囂伝
同列伝6鄧禹伝
『漢書』巻99下列伝69下王莽伝下

関連項目

新末後漢初
* 赤眉軍

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