武江年表

『武江年表』：江戸・東京の歴史を編纂した貴重な史料

『武江年表』（ぶこうねんぴょう）は、江戸時代後期の文人、斎藤月岑（さいとう げっしん）によって著された地誌です。「武江」とは武蔵国江戸を意味し、この書は徳川家康が江戸城に入城した天正18年（1590年）から明治6年（1873年）に至るまでの、江戸・東京における市井の出来事を年代順に記録したものです。

概要

『武江年表』には、火災や地震などの天災、気象情報、町や村の変遷、幕府の布告、著名人の死去、開帳などのイベントや流行、そして社会情勢といった、多岐にわたる情報が網羅されています。これらの記録は、江戸・東京の歴史を研究する上で、非常に重要な史料となっています。また、靖国神社の祭りの様子についても詳細な記述が見られるなど、当時の文化や風俗を知る上でも貴重な資料です。

刊行の経緯

『武江年表』は、江戸時代末期と明治時代の二度にわたって刊行されました。

正編

正編は全8巻からなり、嘉永元年（1848年）に脱稿されました。その後、前4巻が翌年、後4巻が翌々年に出版されました。著者の斎藤月岑が45歳の時です。巻頭では、読者に対して記述の誤りや漏れを指摘するよう呼びかけ、第8巻末には前4巻の訂正が加えられました。また、読者の指摘に応じる形で、喜多村信節による『武江年表補正』や、関根只誠による注釈付きの写本『武江年表書入』が作られ、後世に伝えられています。

続編

正編刊行から3年後、黒船来航により江戸・東京は幕末の動乱期、そして明治維新という激動の時代を迎えます。斎藤月岑はこれに対応するため、一旦明治6年までの出来事をまとめ、明治11年（1878年）に脱稿しましたが、刊行されることなく同年亡くなってしまいました。その後、月岑の遺志を継ぎ、甫喜山景雄（ほきやま けいゆう）が明治15年（1882年）に『我自刊我書』として、続編全4巻を上下巻に分けて刊行しました。また、喜多村信節の『武江年表補正』は、明治42年（1909年）に注釈を抜き出したものが『武江年表補正略』として国書刊行会『続燕石十種』第一巻に収録されました。

後世の研究・刊行

大正元年（1912年）には、国書刊行会から、朝倉無声（あさくら むせい）による補校が加えられた『増訂武江年表』が刊行されました。この増訂版では、『武江年表補正』と『武江年表書入』の内容も取り入れられましたが、書名の趣旨に合わないとして、第12巻の明治部分が削除されています。大正6年（1917年）には、江戸叢書の最終巻として『武江年表・同補正略』が収録されました。

戦後の昭和43年（1968年）には、金子光晴（かねこ みつはる）が校訂した東洋文庫版『増訂武江年表1・2』が出版され、大正元年の版を基に第12巻も収録されました。さらに、平成15年（2003年）には、東洋文庫版に今井金吾（いまい きんご）が校訂を加えた『定本武江年表上・中・下』がちくま学芸文庫から刊行されています。

構成

『武江年表』は、正編8巻と続編4巻、合計12巻で構成されています。本文は一年ごとに章立てされ、その中で出来事が日付順に記述されています。元号の変わり目には、その年間の概略や、年数を特定できない事柄がまとめられています。構成は、同時期に刊行された『大江戸春秋』を参考にしたとされています。

正編の構成

巻之一：天正18年（1590年）～寛永13年（1636年）
巻之二：寛永14年（1637年）～寛文12年（1672年）
巻之三：延宝元年（1673年）～宝永7年（1710年）
巻之四：正徳元年（1711年）～寛保3年（1743年）
巻之五：延享元年（1744年）～明和6年（1769年）
巻之六：明和7年（1770年）～天明8年（1788年）
巻之七：寛政元年（1789年）～文化14年（1817年）
巻之八：文政元年（1818年）～嘉永元年（1848年）

続編の構成

巻之九：嘉永2年（1849年）～安政2年（1855年）
巻之十：安政3年（1856年）～文久元年（1861年）
巻之十一：文久2年（1862年）～慶応3年（1867年）
巻之十二：明治元年（1868年）～明治6年（1873年）

脚注

『武江年表』は、江戸時代から明治時代にかけての社会、文化、人々の生活を知る上で、欠かすことのできない重要な資料です。この書を通じて、当時の出来事を追体験し、歴史に対する理解を深めることができます。

関連項目

斎藤月岑
靖国神社

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