歩騭

歩騭（ほ しつ）

歩騭は、中国三国時代の呉に仕えた武将・政治家であり、字を子山といいました。徐州臨淮郡淮陰県（現在の江蘇省淮安市淮陰区）の出身です。彼の生涯は、戦乱を避けて江南へ移住することから始まりました。

生涯

貧困の中で、歩騭は瓜を栽培して生計を立てながら、夜には学問に励みました。広陵の衛旌という人物と苦楽を共にし、会稽の豪族である焦矯に仕えざるを得ない状況もありましたが、焦矯の侮辱的な態度にも冷静に対応したと伝えられています。

後に孫権に仕え、主記や海塩県令を歴任。孫権が徐州牧になると、治中従事となり茂才に推挙されました。また、董襲・凌統・蔣欽らと共に、鄱陽の反乱を鎮圧するなどの軍事的な功績も挙げています。

210年には鄱陽太守に任命され、その後、交州刺史、立武中郎将として赴任。当時の交州は、呉巨と士燮の一族が割拠していましたが、歩騭は呉巨を策略によって排除し、士燮一族を服属させました。交州刺史の張津が殺害された後、残党を討伐し、交州全域を平定。その手腕は高く評価されました。

220年、呂岱と交代して長沙に向かう際、交州の人々から慕われ、多くの人々が彼に同行を願い出たと言われています。夷陵の戦い後には、武陵の異民族を牽制し、不服従民を平定。223年には右将軍・左護軍に任じられ、臨湘侯に封じられました。また、雍闓が士燮を通じて呉に帰順を求めてきた際には、孫権に取り成し、その服従を認めさせました。

226年には節を与えられ、長沙の漚口に駐屯。229年に孫権が皇帝に即位すると、驃騎将軍・冀州牧に任じられ、陸遜の後任として西陵都督も兼務しました。しかし、呉蜀同盟が再締結されたため、冀州牧は罷免されています。

軍勢強化のために私兵を募ることを孫権に提案しましたが、潘濬に警戒され、許可されませんでした。また、張奮を推挙した際には、張昭の不興を買ったとされています。

孫権の太子の孫登から荊州の人物について意見を求められた際には、諸葛瑾・陸遜・朱然・呂岱・潘濬など、多くの有能な人物を挙げ、賢人を用いるよう忠告しました。

呂壱のような酷吏が重用されるようになると、顧雍・潘濬・諸葛瑾・陸遜らと共に、孫権に忠言を傾聴するよう進言。その結果、孫権は呂壱を処刑し、群臣に謝罪しました。その後も、孫権に上奏し、埋もれていた人材を発掘するなど、その功績は大きかったと言えるでしょう。

241年の芍陂の役にも参戦し、諸葛瑾と共に荊州方面に出撃し、柤中を占拠。呉軍の進路を確保しました。

243年頃から、太子の地位を巡って孫和と孫覇が争うようになると、全琮や呂岱らと共に孫覇を支持したとされています。

245年に陸遜が亡くなると、その後を受けて246年に丞相に就任。質素な生活を送りながらも、学問と教育に励みましたが、妻子には贅沢をさせていたため、批判も受けました。西陵での駐屯期間は20年に及び、その威信は蜀にも敬意を払われたと言われています。

247年に亡くなると、子の歩協が後を継ぎましたが、272年に歩闡が晋に降伏し反乱を起こしたため、一族は滅亡の憂き目に遭いました。

人物評

歩騭は博学多才で、冷静沈着な性格であり、人当たりも良かったと評されています。人物眼にも優れ、孫権に多くの有能な人物を推挙しました。韋昭は、歩騭を「広く哲学や諸芸をきわめて、深く通達しておらぬ方面はなかった。性格は鷹揚で沈着であって、謙虚に人を受け入れることができた。度量が大きく、喜怒の感情を表に出さなかった」と評価しています。裴松之も、歩騭の器量と模範となる行動を高く評価しました。

逸話

魏の降伏者から、魏が長江を砂袋でせき止めて呉を攻める計画があると聞いた際、孫権に上奏しましたが、一笑に付されたという逸話が残っています。

三国志演義

小説『三国志演義』では、赤壁の戦いの際に降伏を主張する家臣の一人として登場し、諸葛亮に論破される場面や、夷陵の戦いの際に陸遜の才能を過小評価し、その登用に反対する場面が描かれています。

このように、歩騭は呉の発展に大きく貢献した人物であり、その功績は歴史に名を刻んでいます。

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