水車小屋

水車 小屋：水力を動力に変える歴史的建造物

水車小屋、または水車場とは、水車を動力として利用する施設の総称です。水車が回転することで、穀物の製粉、製材、織物生産、金属加工など、様々な機械的作業を可能にしてきました。英語では「watermill」と呼ばれ、直訳すると「水力のひき臼」となりますが、必ずしも水車が必須ではなく、また小屋である必要もありません。

水車 小屋の歴史

水車小屋の歴史は古く、古代ギリシャやローマ時代にまで遡ります。初期の水車小屋には、垂直型の水車と水平型の水車があり、それぞれ異なる仕組みで動力を得ていました。

紀元前1世紀頃、ギリシャ人が水車と歯車を発明し、ローマ帝国時代には、下射式、上射式、中射式の水車小屋が実用化されました。紀元前80年頃の文献には、水汲み[[水車]]の螺旋機構が記述され、プトレマイオス朝エジプトの壁画にもその様子が描かれています。また、古代ギリシャの地理学者ストラボンは、紀元前71年以前に水力製粉所が存在したことを記録しています。

古代ローマの技術者ウィトルウィウスは、紀元前40年から紀元前10年頃に、下射式水車を動力源とする水車小屋について記述しました。また、古代ローマの博物学者プリニウスは、紀元70年頃にイタリアで水力駆動のハンマーが使われていたと記述しています。2世紀には、南フランスに16台の上射式水車を備えた水車小屋があり、1日に約4.5トンの穀粉を生産していました。これは、当時の住民の食糧を賄うのに十分な量でした。

3世紀には、ヒエラポリスで石切り用水車場が建設され、クランクやコネクティングロッドといった機械要素が使用されました。4世紀には、詩人アウソニウスがドイツにあった大理石の石切り用水車場について記録しています。

中世

西ローマ帝国崩壊後も、水車小屋は重要性を保ち、中世前期にはその数が増加しました。6世紀のガリアには10基の水車があったとされ、カロリング朝時代には「無数にある」と表現されるほどでした。ドゥームズデイ・ブック（1086年）には、イングランドだけで5,624の水車小屋が記録されています。1300年頃には、その数は10,000から15,000にまで増加しました。

潮の満ち引きを利用した潮力水車も、6世紀頃から登場しました。アイルランドでは、6世紀の垂直型水車を使った潮力水車や、7世紀の水平型水車を使った潮力水車の遺跡が見つかっています。

中国

中国では、紀元前3世紀から水車が使われ、ハンマーや石臼を回転させる動力源として利用されました。前漢時代には、水力を利用した製鉄用の鞴が作られ、後漢時代にはクランクなどの機械要素を使った水排が作られました。488年には、数学者の祖沖之が水碓磨(水力によるひき臼)を作成し、隋代には数百の水車場が運用されていたと記録されています。

唐代には、水車小屋に関する法律が制定され、水路を妨害しないように規制されました。748年には、高力士が5台の水車を持つ水車場を所有し、1日に300斛もの小麦粉を生産していたという記録も残っています。

インドとイスラム世界

イスラム世界では、東ローマ帝国やサーサーン朝の遺産を受け継ぎ、水車を広く利用しました。製粉、籾すり、製材、製鉄、製糖など、様々な用途に利用され、11世紀までにはほぼ全ての集落に水車小屋が建設されました。イスラムの技術者は、クランクシャフトやタービン、歯車を用いて水車の出力を高め、ダムを建設して水のポテンシャルエネルギーを利用しました。

水車 小屋の仕組み

水車小屋は、水路や導水管を通して水車に水を供給します。水流の力で水車が回転し、その回転力を利用して他の機械を動かします。水車には、水平型と垂直型があり、垂直型にはさらに下射式、上射式、中射式があります。

水平型の水車は、水流の中に羽根車を沈め、その回転力を直接利用します。垂直型の水車は、水平な軸を回転させ、歯車機構を使って回転軸を垂直に変換したり、回転数を上げたりします。上射式水車は、水車の上部から水を供給し、水の重みと衝撃で回転力を得ます。この方式は、下射式よりも効率が高く、19世紀にはペルトン水車などの新しい水車も登場しました。

潮力を使った水車小屋は、湾の入口に防波堤を築き、潮の満ち引きを利用して水車を回転させます。また、橋脚の間に水車を設置することで、水流を有効活用する方法も存在しました。

水車 小屋の用途

水車小屋は、以下のような様々な用途に使われていました。

製粉: 穀物をひいて粉にする。
精米: 玄米を搗いて白米にする。
製糖: サトウキビを圧搾して汁を絞り出す。
縮絨: 毛織物の仕上げ工程。
製材: 木を切断して木材にする。
紡績: 綿花から木綿糸を作る。
機織り: 糸から織物を作る。
火薬製造: 黒色火薬や無煙火薬を製造する。
金属加工: 高炉の鞴を操作したり、刃物を研磨したり、金属を圧延したりする。
製紙: 紙を製造する。
鉱石粉砕: 鉱石を粉砕する。
針製造: 針を製造する。
油搾り: 菜種油やごま油などを搾る。
発電: 発電機の技術向上により、近年では発電用としても再評価されている。

現代の水車 小屋

20世紀初頭には、電力が普及したことで水車小屋は衰退しましたが、1960年代頃までは一部で運営が続けられました。現在では、観光用として残されているものがほとんどですが、開発途上国では今も製粉に水車小屋を使っている地域があります。ネパールには25,000箇所、インドには200,000箇所の水車小屋があるとされています。

水車小屋は、その歴史的価値や景観の美しさから、世界各地で保存や復元が進められています。日本では、遠野ふるさと村、府中市郷土の森博物館、日本民家園などで見ることができます。水車小屋は、かつて人々の生活に欠かせない存在であり、その歴史と技術は現代にも受け継がれています。

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