高力士

高力士（こう りきし）

高力士（690年 - 762年）は、唐代の宦官であり、玄宗皇帝の腹心として、その権勢を振るいました。彼の生涯は、唐王朝の盛衰と深く関わっており、多くの逸話が残されています。

生い立ち

高力士は、馮元一という名で生まれました。彼の家系は、隋末の群雄であった馮盎に遡ります。祖父は潘州刺史の馮智玳、父は馮君衡という家柄でした。母は麦鉄杖の曾孫娘であり、高州良徳県霞洞の出身です。

少年時代に去勢され、「力士」と名付けられました。その後、「金剛」という名の少年と共に、嶺南安撫討撃使の李千里により武則天に献上されました。二人は聡明で容姿も整っていたため、武則天に重用され、給事として仕えました。

武則天の時代には、小さな過ちによって宮廷を追放され、宦官の高延福の養子となり、高姓を名乗るようになりました。高延福が武三思の屋敷に仕えていたことから、武三思との交流も持つことになりました。その後、再び武則天に召し返され、宮廷に復帰しています。

身長は当時で6尺5寸あり、勤勉で綿密な性格であったため、詔勅の伝達役として重宝され、宮闈丞に任命されました。

玄宗の股肱として

景龍年間に皇子時代の李隆基（後の玄宗）と親交を深め、彼の信任を得ました。710年の韋后討伐の際には、内部から協力し、朝散大夫・内給事に任じられました。玄宗の即位後も、太平公主派の鎮圧に貢献し、その功績により、銀青光禄大夫・行内侍省同正員に任じられました。開元年間に入ると、右監門衛将軍・知内侍省事に昇進し、内外の多くの事務を任され、大きな権勢を持つようになりました。

玄宗の内廷の臣として、各地からの上奏文は全て高力士が目を通してから玄宗に届けられました。小さな事柄は自ら判断し、決済しました。宮中から自宅に帰ることはほとんどなく、宮殿で寝泊まりするほどでした。玄宗は、「高力士がいるからこそ、安心して眠れる」と語っていたと伝えられています。

高力士は、公事だけでなく、玄宗の私事にも相談役として仕え、その信頼は絶大でした。726年には、張説が宇文融に弾劾された際、玄宗にとりなし、事態を収拾させました。

730年には、政敵であり、傲慢な態度で多くの問題を起こしていた王毛仲の排除を進言し、翌年に王毛仲は左遷された後、自殺を命じられています。

宇文融、李林甫、李適之、蓋嘉運、韋堅、楊慎矜、王鉷、楊国忠、安禄山、安思順、高仙芝らは、高力士と親交を深めることで、その才能が認められ、高位に引き立てられました。

738年、皇太子李瑛が廃嫡された後、新たな皇太子の選出で玄宗が迷っていた際、宰相李林甫が李瑁を推薦したのに対し、高力士は年長の李璵（後の粛宗）を推挙し、李璵が皇太子となりました。

天宝初期には、冠軍大将軍・右監門衛大将軍・渤海郡公に任じられました。この頃、玄宗が天下の事を李林甫に任せ、自身は道教の修行に専念しようとした際、高力士はこれを諫めたため、玄宗の怒りを買い、自宅に帰ることとなりました。しかし、後に許され、再び宮廷に復帰しています。

748年には、驃騎大将軍に任命され、巨万の富を蓄えていたと言われています。しかし、温厚で勤勉であり、過ちも少なかったため、玄宗からの信頼は変わらず、士大夫からも嫌われることはありませんでした。

752年、王鉷の弟である王銲と邢縡が反乱を企てた際には、禁軍を率いて邢縡を斬り、反乱を鎮圧しました。また、楊国忠の専横についても、玄宗を諫めたことがあったと言われています。安禄山が不穏な動きを始めた後も、高力士は朝廷と彼との調停役として活動しました。

安史の乱後

安史の乱が勃発すると、玄宗に従って長安を脱出しました。途中で禁軍が楊国忠を殺害し、楊貴妃の死を要求した際、高力士は玄宗を説得し、楊貴妃を縊死させました。その後、蜀の地の成都まで同行し、斉国公に封じられました。

しかし、粛宗が即位し、玄宗が上皇として長安に帰還すると、実力者となった李輔国によって、玄宗が捕らえられそうになった際、高力士は李輔国を叱りつけ、玄宗を救いました。しかし、その後、李輔国によって陥れられ、巫州に流されました。

762年、恩赦により帰還する途中、朗州にて玄宗の死を知り、慟哭のあまり血を吐いて死去しました。高力士の死は、唐代の宦官の隆盛を象徴する出来事であり、彼以降、宦官の権勢はさらに拡大していったと言われています。

エピソード

玄宗の即位後間もなく、玄宗に節倹を勧めたという逸話が残っています。
名前は仏像「金剛力士」に由来し、共に献上された「金剛」という少年もいましたが、その後の消息は不明です。
幼い頃に母と別離しましたが、玄宗の即位後に再会を果たしました。胸の7つのほくろが母の目印になったと言われています。
玄宗は高力士を「将軍」と呼び、時には親しみを込めて「我が家の老奴」と呼んだそうです。また、高力士は玄宗を「大家（旦那様）」と呼んでいました。
皇太子李璵は高力士を「兄」と呼び、他の皇族は「翁」、皇女の婿たちは「爺」と呼んでいたそうです。
楊貴妃を玄宗に勧めたのは高力士だったと言われています。また、楊貴妃が玄宗と仲違いをした際、とりなしたのも高力士でした。
李白が玄宗に召された際、酔っていた李白は高力士に靴を脱がせたと伝えられています。これが原因で讒言を受け、李白は官職を得られなかったと言われています。
天宝年間には、宝寿寺を造成し、鐘を鳴らすごとに多額の銭を徴収しました。また、長安の西北に水車を5つ設置し、毎日300石の小麦粉を挽いたと言われています。
同じく玄宗の信任を得ていた袁思芸という宦官は、非常に傲慢で士大夫に恐れられていましたが、玄宗が長安を脱出した後、安禄山に降伏しました。
玄宗が長安を脱出した際、高力士は玄宗に追ってくる朝臣の名を問われ、張説の子である張均・張垍兄弟は代々重用されているので来るだろう、房琯は冷遇されているので来ないだろうと答えましたが、実際に来たのは房琯でした。
巫州に流された際、その地で食べられていなかった、なずなを詩に詠み、羹にして食べたという逸話があります。

伝記資料

『旧唐書』巻184 列伝第134 宦官「高力士伝」
『新唐書』巻207 列伝第132 宦者上「高力士伝」
『資治通鑑』
郭湜『高力士伝』

外部リンク

高力士 - コトバンク

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