永正の錯乱

永正の錯乱

永正の錯乱（えいしょうのさくらん）は、永正4年（1507年）に室町幕府管領・細川政元が暗殺されたことから始まった、細川京兆家の家督争いです。この争いは、室町幕府の権力構造にも深く影響を与え、長期にわたる内乱へと発展しました。

背景

争いの背景には、細川京兆家を支えてきた内衆と呼ばれる勢力と、政元の養子の一人である細川澄元を擁する阿波の三好氏との対立がありました。さらに、将軍・足利義澄に対抗して復権を目指す前将軍・足利義稙の思惑も絡み合い、事態は複雑化しました。

経緯

細川政元の養子

細川政元は、明応の政変で足利義材を廃立し、足利義澄を擁立しました。しかし、実子がいなかったため、九条政基の子・澄之、阿波守護家から澄元、野州家から高国の3人を養子に迎えました。これが、後の家督争いの火種となります。

政元暗殺（細川殿の変）

永正4年（1507年）6月23日、奇行が多かった政元は、湯屋で内衆に唆された祐筆によって暗殺されました（細川殿の変）。その後、内衆は澄元を近江に敗走させ、澄之を擁立して家督を継がせました。

しかし、もう一人の養子・細川高国は、一族の細川政賢や畠山義英らと結び、澄元を支持しました。そして、三好之長が近江から京に戻り、澄之を討ち、澄元が家督を継ぎました。この一連の戦いは、家督争いというよりも、細川氏とその家臣団の対立という側面が強かったと見られています。

澄元と高国の対立

明応の政変で将軍職を追われた足利義尹は、大内義興を頼っていました。政元暗殺後、幕府は義尹の動きを警戒し、義興追討の綸旨を出しました。しかし、義興は義尹を擁して上洛軍を起こし、高国と結びました。

永正5年（1508年）4月、澄元と足利義澄は近江に逃れ、高国が入京しました。義尹は将軍に返り咲き、高国が細川家の家督を継承しました。この1年の間に、細川京兆家の家督はめまぐるしく入れ替わりました。

両細川の乱

永正の錯乱をきっかけに、細川京兆家の家督と室町幕府将軍の座を巡る内戦「両細川の乱」が勃発しました。細川高国・大内義興・畿内の反三好勢力と、細川澄元・その子晴元・三好氏ら阿波勢との間で、20年以上にわたる抗争が繰り広げられました。

高国政権

永正6年（1509年）、細川澄元・三好之長が京都に侵攻するも、高国・義興によって撃退され、阿波に逃亡しました。

澄元の巻き返しと船岡山合戦

永正7年（1510年）、澄元方は二手に分かれて本州に上陸し、高国方を破って京に侵攻しました。高国・義興は丹波に撤退しましたが、次第に勢力を盛り返し、京に迫りました。そのような状況下で、澄元方の足利義澄が病死し、高国・義興軍は船岡山合戦に勝利しました。

三好之長の進撃

永正14年（1517年）、澄元方の三好之長は淡路を掌握しました。永正16年（1519年）には、大内義興が周防に帰国し、高国は最大の軍事力を失いました。永正17年（1520年）、高国は澄元・之長に敗れ、将軍義稙は高国を見限り、澄元側に通じました。

高国の復権と澄元の死

高国は近江に逃走しましたが、六角定頼らの支援を得て京に侵攻し、澄元・之長を破りました。之長は自害に追い込まれ、澄元は摂津に追放されました。永正18年（1521年）、澄元は病死し、高国は足利義晴を擁立しました。

堺公方の成立と高国の死

大永6年（1526年）、高国は香西元盛を謀殺したことがきっかけで、波多野元清・柳本賢治らが挙兵しました。高国は将軍義晴を擁して近江に逃亡し、晴元・元長は足利義維を擁して堺に進出しました（堺公方）。享禄3年（1530年）、高国は三好元長に敗れて自害しました。

晴元と元長の対立

高国を失った晴元陣営は、内部対立が再燃しました。晴元は三好元長を攻めさせ、元長は自害しました。その後、天文の錯乱が勃発しました。

結末

永正の錯乱は、細川京兆家の勢力争いから、室町幕府の権力構造を揺るがす大乱へと発展しました。この戦乱は、畿内における戦国時代の幕開けを告げる出来事となりました。

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