游邃

游邃（ゆう すい）

游邃（生没年不詳）は、西晋末期から五胡十六国時代にかけて活躍した人物です。広平郡任県（現在の河北省一帯）を本貫とする漢人であり、西晋では昌黎郡太守を務めていました。

生涯

311年に起こった永嘉の乱により中原が混乱に陥ると、游邃は魏郡出身の黄泓や、かつて昌黎郡太守であった逄羨・宋奭（宋晃の父）らと共に、比較的安定していた幽州の薊（現在の北京市）へ避難しました。

その後、游邃は黄泓と共に、遼西地方に割拠していた慕容部の大人、慕容廆（ぼよう かい）に帰順しました。慕容廆は游邃らを客人の礼をもって手厚く迎えました。

313年4月、游邃は慕容廆から腹心として重用されるようになります。318年3月には龍驤長史に任じられ、慕容部における儀式の作法や制度の制定に携わりました。321年12月、慕容廆が東晋から遼東公に冊封されると、游邃は裴嶷（はい ぎょく）と共に改めて長史に任じられました。

その後の游邃の動向については、詳しい記録が残っていません。

逸話

当時、幽州を統治していた司空の王浚（おう しゅん）は、游邃の兄である游暢（ゆう ちょう）に何度も手紙を送り、幕僚として招聘しようとしました。游暢はこれに応じて王浚の下へ赴こうとしましたが、游邃は王浚の政治手腕を疑問視し、その治世は長くは続かないだろうと反対しました。

しかし、游暢は「王浚は残忍で猜疑心が強く、民衆からの信頼も薄い。もし王浚の誘いを拒めば、私だけでなくお前にも災いが及ぶだろう。今は乱世であり、一族が別々に生き延びる方が子孫を残しやすい」と述べ、王浚に仕えることを決意しました。游暢の危惧した通り、彼は後に王浚と共に石勒（せき ろく）によって殺害されました。

広平游氏

游邃の家系である広平游氏は、始祖の游述（ゆう じゅつ）が三国時代の魏で河南尹・大長秋を歴任した名門でした。王浚の司馬であった游統（ゆう とう）や、石勒の主簿であった游綸（ゆう りん）は游邃と同族であり、游暢・游邃と共にその名を知られていました。

游暢の子である游泓（ゆう こう）は、游邃と同じく慕容部（後の前燕）に仕え、居就県令に任じられました。広平游氏は北魏の時代まで繁栄を続け、尚書游明根（ゆう めいこん）、その子で尚書右僕射游肇（ゆう ちょう）、同族の散騎常侍游雅（ゆう が）など、多くの高官を輩出しました。

游邃の生涯は、五胡十六国という激動の時代における、漢人豪族の生き残りをかけた苦悩と選択を象徴していると言えるでしょう。

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