琴引浜

琴引浜（ことひきはま）

琴引浜は、京都府京丹後市網野町に位置する、丹後天橋立大江山国定公園の一部をなす海岸です。この砂浜は、その特異な性質から「鳴き砂」の浜として知られ、日本国内でも最大級の規模を誇ります。砂が乾燥した時期に歩くと、「キュッキュッ」または「ブブゥブブゥ」という音が聞こえるのが特徴です。その昔は琴曳浜、琴弾浜とも表記されていました。

概要

琴引浜は、日本海に面した花崗岩質の白い砂浜で、白砂青松の美しい景勝地です。その幅は約70～80メートル、全長は約1.8キロメートルですが、鳴き砂として知られる砂浜は約1キロメートルに及びます。1987年に網野町の指定文化財となり、2007年には国の天然記念物および名勝に指定されました。さらに、日本の白砂青松100選、日本の渚百選、残したい日本の音風景100選にも選ばれています。

2002年には、琴引浜の魅力を発信する琴引浜鳴き砂文化館が開館しました。ここでは、琴引浜の鳴き砂だけでなく、世界各地の鳴き砂の展示や、環境問題に関する啓蒙活動が行われています。

鳴き砂の音は、砂に含まれる石英同士が摩擦することで発生します。しかし、砂の表面が汚染されると摩擦が減少し、音が鳴らなくなってしまいます。そのため、琴引浜では、美しい砂浜を守るための保全活動が積極的に行われています。2001年には、世界初の禁煙ビーチとなりました。また、「琴引浜の鳴り砂を守る会」が清掃活動を行っています。琴引浜鳴き砂文化館では、漂流物や過去の重油被害の写真などが展示され、環境問題に対する意識を高める場となっています。毎年開催される「はだしのコンサート」は、ビーチ清掃を広めるための環境イベントです。

夏には、多くの海水浴客で賑わいます。海開きには安全祈願祭が執り行われます。

地名の由来

琴引浜という名前は、鳴き砂の音を琴の音色に例えたことに由来します。琴弾浜とも書きます。地形学的には、「小峠」が「寿」に、そして「琴弾」に転訛したという説もあります。かつては掛の浜、掛津の浜と呼ばれていました。琴引浜という名前が文献に現れるのは江戸時代以降です。

博物誌『雲根志』には「琴曳濱」として記録され、砂の色や音について詳細に記述されています。また、地誌『丹哥府志』には、太鼓浜についての記述があり、歩くと微妙な音がすると記されています。

地理

地形・地質

琴引浜は、約7万年前に形成された古砂丘と、約5千年前に形成された新砂丘からなる「網野砂丘」の一部です。これらの砂丘の下には、約1300万年前の地層「網野累層」があります。海岸の東側には飛砂防止堤が延び、掛津川が浜辺を流れています。浜の中央には、枯れることのない白滝があり、かつては白滝大明神が祀られていました。

海岸の中央から西にかけては、陸繋砂州（トンボロ地形）が見られます。波で洗われた砂は摩擦が大きく、乾燥すると音が鳴ります。拳で叩くと太鼓のような音がする場所は太鼓浜と呼ばれています。この浜は、第三紀層堆積岩の上に海浜礫が重なり、さらに海成の砂層が重なった地質構造をしています。かつて海底だった場所が隆起し、波で浸食されてできた岩盤が、現在の琴引浜の一部となっています。

浜の一画には源泉が湧き出る場所があり、「琴引温泉」として利用されています。食塩を含む硫黄単純泉が湧き出ています。

砂の特徴

琴引浜の砂は、宮津花崗岩由来の粗い白い砂で、砂鉄を多く含んでいます。主成分は石英で、約6100万年前のマグマが冷え固まってできたと考えられています。この石英は高温で生成されたため丸みを帯びており、摩擦係数が大きく、スティックスリップ現象により独特の音を奏でます。琴引浜の砂の約70％が石英で、平均粒径は約0.6ミリメートルと、他の鳴き砂の浜よりも大きいのが特徴です。

鳴き砂は、砂の表面が汚染されていないきれいな環境で生成されます。琴引浜の鳴き砂は、浜だけでなく周辺の海域がきれいであることが重要です。

自然

植生

琴引浜には砂丘が発達しており、クロマツ群落が広がっています。海岸から内陸にかけて、オカヒジキ、ハマヒルガオ、コウボウムギ、ハマボウフウ、ハマナスなど様々な植物が生育しています。特に5月から6月にかけては、ハマヒルガオが一面に咲き誇り、美しい景観を作り出します。これらの植物群落と松林の緑陰、鳴き砂の白さから、白砂青松100選に選ばれています。

珍しい種

琴引浜には、トウテイラン、エビネ、トキワイカリソウ、ハマナス、リンドウ、ハマウツボ、ハマベノギク、ササユリ、コオニユリ、ノハナショウブ、シュンラン、ハマボウフウ、スナビキソウ、ナミキソウ、ウンラン、カセンソウ、ネコノシタ、イソスミレなど珍しい植物が生息しています。

動物

琴引浜は、人工的な構造物がなく、環境変化に弱い生物が多数生息しています。渡り鳥のシロチドリやコチドリ等の飛来地としても知られ、京都の自然200選に選定されています。また、オオミズナギドリの集団飛行が見られ、セグロセキレイが生息しています。さらに、絶滅危惧種のイソコモリグモも確認されています。

指標生物

微小貝は、琴引浜に約900種類も生息しており、その種類の多さは日本で他に類を見ません。また、有孔虫も100種類以上が生息しており、これらはきれいな海の象徴とされています。磯には、カサガイ、マツバガイ、ウシノアシガイ、アラレタマビキ、ヒザラガイなどが生息し、海底にはサクラガイやヒバリガイが生息しています。

保全と利活用

保全活動と琴引浜鳴き砂文化館

琴引浜の鳴き砂を保全するためには、ゴミによる汚染を防ぐだけでなく、古砂丘の砂が浜に流出しないようにすることが重要です。1976年に遊歩道の建設計画が持ち上がったことをきっかけに、鳴き砂の保護に対する意識が高まりました。1987年には「琴引浜鳴り砂を守る会」が設立され、保全活動が活発化しました。2002年には、琴引浜鳴き砂文化館が開館し、情報発信や環境教育が行われています。

鳴き砂の音に影響を与える要因として、水、海水由来の塩類、シルトや粘土などが挙げられます。特にシルトや粘土の混入は人為的な影響が大きいと考えられ、対策が必要です。琴引浜の砂は、背後の砂丘や掛津川から供給されていますが、河川改修により流入量は減少しています。

採砂鉱山

琴引浜の鳴き砂を形成する新砂丘の砂は採取禁止ですが、古砂丘の砂は洗浄することで鳴き砂と同じ性質を取り戻すことができます。琴引浜の南にある古砂丘は、企業の採砂鉱山となっており、採集された砂は洗浄され、高純度の珪砂として、鋳物砂や建築材料などに活用されています。

海底熟成酒「龍宮浪漫譚」

「龍宮浪漫譚」は、琴引浜の沖合に酒を沈めて熟成させる取り組みです。水温が安定した環境と波の揺らぎで、酒の熟成が促進されます。2014年から始まり、地元の漁師や酒販店、酒蔵が協力して行われています。海底から引き上げられた酒瓶には、フジツボなどが付着しています。

琴引浜が登場する作品

琴引浜は、古くから景勝地として知られ、多くの文人が訪れ、文献や歌に記録されています。与謝野晶子・与謝野寛の歌碑が建立されています。

文学

細川幽斎、細川ガラシャ、野田泉光院、与謝野寛、与謝野晶子など多くの文人が琴引浜を題材とした歌や句を詠んでいます。二階堂黎人の小説『東尋坊マジック』でも琴引浜が物語の舞台となっています。

楽曲

神津善行作曲の「砂が鳴いている」は、琴引浜のテーマソングとして知られています。また、京丹後市立島津小学校の「琴引浜によせて」は、環境保全を呼びかける歌として、はだしのコンサートで合唱されています。

映像作品

琴引浜は、多くの映画やテレビドラマのロケ地としても使用されています。『超高速!参勤交代』、『天地明察』、『バルトの楽園』、『隠し剣鬼の爪』、『千年の恋～ひかる源氏物語～』、『釣りバカ日誌5』、『動天』、『花笠道中』、『炎上』などの映画が琴引浜で撮影されました。

琴引浜に関する伝承

白滝神社の棘のないサザエ伝説

白滝神社には、大物主命がサザエの殻に乗って漂着したという口伝が残っています。琴引浜のサザエには棘がないと言い伝えられています。また、ご神体は流木で、かつては男体と女体の2体がありましたが、現在は女体のみが残っています。

この伝説は、朝来市の赤淵神社、新温泉町の宇都野神社にも類似の伝承が残っています。

丹波国浦掛水門・掛津比定説

日本書紀に登場する丹波国浦掛水門は、網野町掛津であるとする説があります。掛津の語源は、砂丘の崖のような地形「崖津」であるという考察もあります。

文化財指定、選定等

琴引浜は、国指定天然記念物及び名勝、日本の白砂青松100選、日本の渚百選、京都の自然200選に選ばれています。鳴き砂は、京丹後市指定文化財、残したい日本の音風景100選に選ばれています。

現地情報

施設

琴引浜には、キャンプ場と駐車場、琴引温泉があります。

琴引温泉は、食塩を含む硫黄単純泉で、湯量が豊富です。かつては天然のかけ流し混浴浴場がありましたが、現在は利用状況が不明です。

アクセス

京都丹後鉄道宮豊線網野駅または峰山駅から、丹後海陸交通バスで「琴引浜」バス停下車。

周辺

夕日ヶ浦海岸（日本の夕陽百選）、海蔵寺（鳴き砂保護を祈願して建立された仏像がある）があります。

琴引浜は、その美しい景観と独特の鳴き砂、豊かな自然、歴史と文化が織りなす魅力的な場所です。

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