禅昌寺 (下呂市)

龍澤山禅昌寺

禅昌寺は、岐阜県下呂市にある臨済宗妙心寺派の寺院で、山号を龍澤山と称します。本尊として釈迦如来、観世音菩薩、薬師如来を祀り、飛騨地方の戦国大名であった三木氏の菩提寺としても知られています。寺格は十刹に列せられる別格寺院です。

歴史

禅昌寺の創建には複数の説があり、その歴史は複雑です。有力な説としては、享禄元年（1528年）または天文元年（1532年）に、当時の桜洞城主であった三木直頼が、一族出身とされる杲天宗恵を開山として創建したとされています。この際、大雄山円通寺の住持であった明叔慶浚を開山に迎えたとされます。創建地についても、桜洞城の近辺とする説と、現在地である中呂とする説があります。また、創建から間もない天文23年（1554年）には、後奈良天皇から「十刹」の綸旨が与えられました。しかし、その後一時的に廃絶したとの説も存在します。

現在の禅昌寺は、慶安年間（1648年 - 1652年）に、中呂にあった大雄山円通寺の寺号を改称して成立したとされています。

円通寺の由来伝承

禅昌寺の前身とされる大雄山円通寺には、次のような伝承が残っています。

かつて御前山の中腹に、恵心僧都源信が開いたとされる寺が存在しました。そこには恵心僧都が作ったとされる観世音菩薩像がありました。南北朝時代末期の永和年間（1375年 - 1379年）、その観音菩薩の霊験を聞きつけた後円融天皇が、皇后の安産祈願のために勅使を派遣しました。しかし、寺は荒廃しており、観音像は岩屋に置かれていた状態でした。そこで、京都南禅寺派の名僧である竹処崇園を開山として寺を再興させ、「大雄山円通寺」の寺号と「天下十刹」の綸旨を授け、勅願所としました。

その後、円通寺は兵火によって荒廃し、「天下十刹」の綸旨も焼失しましたが、観音像は難を逃れました。現在、禅昌寺の円通閣に安置されている「岩屋観音」は、その時の観音像であるとされています。

ただし、恵心僧都に関する伝承は確証がなく、円通寺が永和3年（1377年）に創建されたことは史実として認められています。円通寺の創建地は、長年「萩原町桜洞」とされてきましたが、近年の研究で、現在の禅昌寺の場所である「萩原町中呂」に修正されました。

禅昌寺の由来に関する諸説

禅昌寺の創建年、創建地、円通寺との関係については、様々な説が存在しており、どれが正しいのかは確定していません。主な説としては、以下の4つが挙げられます。

（1）圓通寺桜洞創建・禅昌寺桜洞創建中呂移転説：
平安時代に恵心僧都が開いた寺があった。
永和年間に円通寺が桜洞に創建。
その後、兵火で廃寺。
享禄元年に三木直頼が円通寺を再建し、禅昌寺と改名。
天文年間に中呂に移転。
（2）圓通寺桜洞創建・禅昌寺中呂創建・一貫説：
平安時代に恵心僧都が開いた寺が桜洞にあった。
永和3年に勅命により再建され、円通寺と命名。
その後、兵火で焼失。
享禄元年に中呂に移し、円通寺を禅昌寺と改名。
（3）圓通寺中呂創建・禅昌寺中呂創建・一貫説：
永和3年に円通寺が中呂に創建。
その後荒廃し、享禄元年に禅昌寺と改名して再興。
寺号を禅昌寺とした後も円通寺は通称として使用。
江戸初期に寺号を禅昌寺に一本化。
（4）圓通寺中呂創建・禅昌寺桜洞創建・二寺並存説：
永和3年に円通寺が中呂に創建。
天文元年に禅昌寺が桜洞に創建。
1532年から1585年まで円通寺と禅昌寺が並存。
1585年の桜洞城攻防戦で禅昌寺は崩壊し、一時廃絶。
江戸初期に中呂の円通寺が禅昌寺と改名。

近年の研究では、円通寺は初めから中呂にあったとする説が有力視されています。また、「円通寺が火災に遭っていない」という点でも一致しています。

さらに、近年では、第3説を発展させた「寺号交互使用説」が提唱されています。

（5）寺号交互使用説:
永和3年に円通寺が中呂に創建。
その後荒廃し、享禄元年に三木直頼によって再興。
天文元年に円通寺を禅昌寺に改名。
天正13年に三木氏が敗北すると、円通寺の寺号を復活。
江戸初期に禅昌寺の寺号を復活。

禅昌寺による三木氏と東美濃の遠山氏との関係

禅昌寺の開山である明叔慶浚は三木直頼の義兄であり、遠山景前が再興した大圓寺の住持も務めていた縁から、三木直頼は岩村遠山氏とも親交がありました。禅昌寺には、三木直頼が岩村遠山氏と交流していたことを示す書状が残されています。また、遠山景前の三回忌の法要が禅昌寺で営まれ、その際の香語も残っています。

歴代住持

円通寺

1世：竹処崇園（円通寺開山）
2世：崇任？
（数代不明）
再興1世：桃雲宗源（円通寺再興開山）
再興2世：仁芳宗智
再興3世：明叔慶浚（禅昌寺開山）

禅昌寺

1世：明叔慶浚（禅昌寺開山）
2世：杲天宗恵（禅昌寺創建）
3世：仁谷智腆
4世：希菴玄密
5世：功叔宗輔
6世：玉雲宗麟
7世：香道超雲
（以下略）
現住職：第27世

末寺

禅昌寺には、郡内に11の末寺が存在します。

吉田山長谷寺
閑水山龍泉寺
諏訪山大覚寺
恵日山東禅寺
醫王山温泉寺
瑞泉山泰心寺
神護山慈雲院
金錫山地蔵寺
巌谷山阿弥陀寺
功明山東泉寺
神亀山万福寺

また、かつては玉龍寺も末寺でした。

要仲山玉龍寺

文化財

禅昌寺は、数多くの文化財を保有しています。

国指定：1件（天然記念物1）
禅昌寺の大スギ
県指定：6件（名勝1、重要文化財5）
禅昌寺庭園（名勝）
木造釈迦如来坐像（彫刻）
木造観世音菩薩半跏像（彫刻）
釈迦涅槃図（絵画）
白隠禅師筆絵画 4幅
白隠禅師書跡 7幅
市指定：44件
伝恵心僧都作・地蔵菩薩像（彫刻）
薬師如来坐像（彫刻）
釈迦三尊図（絵画）
伝雪舟筆絵画 2幅
大般若経408巻（典籍）
後円融天皇御宸筆 和歌色紙（書跡）
後奈良天皇御宸筆 和歌短冊（書跡）
後奈良天皇「天下十刹」御綸旨（書跡）
円通寺三牌（書跡）
その他多数

交通

東海旅客鉄道高山本線禅昌寺駅下車すぐ。

その他

位牌：三木重頼、三木直頼の位牌
五輪塔：伝三木氏各代の墓 5基
その他多数

参考文献

『飛州志』（1745年 長谷川忠崇）
『飛騨国中案内』（1746年 上村木曽右衛門）
『飛州志備考』（1909年 岡村利平）
『飛騨編年史要』（1935年 岡村利平）
『萩原町史』（2002年 萩原町）
『飛騨三木一族』（2007年 谷口研語）
『龍澤山禅昌寺由緒』（1830年 - 1844年 禅昌寺蔵）
『龍澤山禅昌寺略縁記』（1909年 禅昌寺蔵）
『益田郡誌』（1916年 益田郡役所）
『禅昌寺史』（1999年 禅昌寺）
『禅昌寺は桜洞にあったか』（2009年 吾郷武日）

外部リンク

下呂市指定の文化財
『禅昌寺は桜洞にあったか』

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