秋山謙蔵

秋山謙蔵：日中関係史と琉球貿易史研究の先駆者

秋山謙蔵（1903年2月1日 - 1978年3月5日）は、日本の歴史学者であり、特に日中関係史と琉球貿易史の研究において重要な貢献をしました。号は一石。

生涯と学歴

1903年、広島県に生まれた秋山謙蔵は、旧姓を江木といいました。第七高等学校造士館を経て、東京帝国大学文学部国史学科に進学し、1928年に卒業。その後、同大学院に進みました。大学院在学中から史学会委員として活動し、中山久四郎や高野辰之といった著名な学者との交流を通じて、その才能を開花させました。特に高野辰之からは「近年国史学界の生んだ鬼才」と評され、三上参次からもその俊才を愛されていたと伝えられています。

研究活動と論争

秋山は、マルクス主義の影響も受け、講座派の服部之総らとも親交を深めました。『史学雑誌』に羽仁五郎の論文を掲載するなど、幅広い視野を持っていました。また、1931年には「庚午会」を結成し、1932年には歴史学研究会（歴研）を設立するなど、歴史学の研究活動を活発に行いました。

秋山謙蔵の研究は、琉球貿易史研究の先駆けとして高く評価されています。特に『日支交渉史研究』（1939年）は、古琉球期の対外交易史に関する研究における到達点を示す作品とされています。彼が琉球貿易史研究を志したきっかけは、1924年に沖縄を訪れた際に、荒廃した首里城を目にしたことでした。この経験から、かつてこの地で繰り広げられた華やかな対外交渉の歴史を深く探求するようになったのです。

秋山はまた、学術的な論争にも積極的に参加しました。16世紀のポルトガル語史料に登場する「ゴーレス」と呼ばれる人々について、それまで日本人研究者の間で通説とされていた日本人説を否定し、琉球人説を主張しました。この主張は、前嶋信次、岡本良知、藤田元春らとの間で「ゴーレス論争」を引き起こしました。また、『隋書』に見られる「流求国」についても、沖縄説の立場から、台湾説を主張する和田清と論争を繰り広げました。さらに、日宋貿易をめぐり森克己とも論争しました。

戦時中の活動と公職追放

戦時中、秋山謙蔵は言論活動を活発に行い、大日本言論報国会の理事を務めました。しかし、この戦時中の活動が原因で、戦後、公職追放の対象となりました。戦後は、女子美術大学教授や東京女学館短期大学教授を歴任し、文学研究にも従事しました。

清沢洌は、秋山を「大東亜戦争に導いた民間学者」の一人として批判しました。秋山は、元寇と神風の話を繰り返し語っていたとされています。戦時中は、その言論活動から「売れっ子」として全国各地を講演して回ったといいます。

晩年と評価

1978年3月5日、秋山謙蔵は直腸癌のため東京都新宿区の病院で亡くなりました。彼の研究業績は、今日でも高く評価されています。特に、琉球貿易史研究における貢献は、後の研究者たちに大きな影響を与えました。

主な著書

『日支交渉史話』（1935年）
『日支交渉史研究』（1939年）
* 『東亜交渉史論』（1944年）

これらの著書は、彼の研究成果を今に伝える貴重な資料となっています。

秋山謙蔵は、その学問的業績だけでなく、激動の時代を生き抜いた知識人として、後世に大きな影響を与えた人物です。

もう一度検索