箱館丸

箱館丸：幕末に建造された日本の洋式帆船

箱館丸は、幕末の箱館奉行所によって建造された西洋式帆船で、日本における初期の洋式船建造の重要な一例です。姉妹船である「亀田丸」と共に「箱館形」と称され、同型船には大野藩所有の「大野丸」がありました。箱館丸は、その実用性の高さから、箱館奉行の交代や日本各地の測量に利用され、「亀田丸」は海外交易にも用いられました。

建造の経緯

黒船来航後、安政元年（1854年）の日[[米和親条約]]によって箱館港が開港されると、幕府は箱館の警備体制を強化しました。箱館奉行の竹内保徳と堀利煕は、蒸気船の配備を幕府に上申し、君沢形2隻の交付と箱館での同型船建造が認められます。しかし、君沢形の到着を待つ時間が惜しまれたため、箱館奉行所は独自の洋式帆船設計を決意しました。

箱館奉行は、船大工の続豊治を異国船応接方従僕に任命し、洋式船の調査を行わせました。続豊治は以前、外国船の構造を無断で調査しようとして捕縛されたことがありましたが、その熱意が認められたのです。続豊治は役人として外国船を訪れて調査を行い、安政2年（1855年）には和洋折衷構造のボートを試作し、その良好な性能が認められたことから、本格的な洋式船建造の担当を任されました。

こうして、箱館の築嶋でスクーナー「箱館丸」の建造が始まり、安政4年（1857年）に竣工しました。進水式には奉行の堀利熈も出席し、続豊治は箱館御用船大工棟梁に昇進しました。

構造

「箱館丸」と「亀田丸」は、2本のマストに縦帆を張った二檣スクーナーという形態の洋式帆船です。君沢形と基本は同じですが、箱館形は前部マストの最上部に横帆を備えている点が異なり、特にトップスル・スクーナーと呼ばれます。帆の総数も8枚から9枚と多くなっています。

「箱館丸」の要目については複数の記録があり、[勝海舟]]によれば長さ18間]・幅4[間]、城澤朝吉の記録では長さ24[間余(約44m)・幅5間余(約9m)とされています。トン数は56トンです。姉妹船の「亀田丸」は設計が異なり、46トンと小型化されています。大野藩用の「大野丸」は、勝海舟の記録と同じ長さ18[[間]・幅4[間]・深さ3[間]とされています。

「箱館丸」の乗員数は、江戸への航海時に船頭以下27人という記録があります。城澤朝吉の記録によると、乗船定員は36人です。船体は黒・赤・白の縞模様に塗り分けられ、ボート3隻が搭載されていました。

「箱館丸」の設計は、ロシア人の指導による君沢形とは異なり、外国人の直接的な協力を得ずに行われました。続豊治による外国船調査のデータや、箱館の商人である渋田利右衛門所蔵の洋書も参考にされたと言われています。

運用

箱館形2隻は、箱館奉行所の下で航海練習船や輸送船、測量船として使用されました。操縦法は、続豊治の息子である福士成豊が外国船員から筆談で学び取ったり、寄港する外国船船員から指導を受けたりして習得しました。その後は、長崎海軍伝習所や築地軍艦操練所で教育を受けた者も乗船しました。運用には、箱館奉行配下の諸術調所教授役だった武田斐三郎が中心的な役割を果たしていました。

「箱館丸」は、竣工後に津軽への試験航海を行い、江戸へ帰る奉行の堀利煕が試乗し、その性能を高く評価しました。2番船の「亀田丸」も、竹内保徳の江戸帰還に使用されたほか、交代の新任奉行の派遣にも使われました。また、測量航海では日本各地を長期間かけて巡り、前島密も測量役として7ヶ月の日本一周航海を経験しました。

箱館形は交易用としても用いられ、測量や練習航海の際には蝦夷地の特産品を各地で売り払い、収益を整備費用に充てていました。「亀田丸」は塩引き鮭を積んで出帆し、仙台で米に買い替えて江戸で売却したところ、一航海で大きな利益を得たという記録があります。

特に「亀田丸」は海外への輸出貿易に使用され、ニコラエフスクに寄港して絹や醤油などを販売しました。また、イギリス人に貸与されて広東への交易に出たこともありました。

その後

「箱館丸」は明治維新後も北海道周辺で使用されていましたが、明治2年（1869年）に樺太で暴風雨に遭い大破し、焼却処分されました。

復元船

1988年（昭和63年）の青函トンネル開通記念博覧会に際し、「箱館丸」の復元船が制作され、現在は函館港西埠頭で陸上展示されています。2022年には、日本船舶海洋工学会の認定する「ふね遺産」に認定されました。

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