細川政権 (戦国時代)

細川政権：京兆専制の時代

細川政権は、明応2年（1493年）から天文18年（1549年）にかけて存在した、戦国時代の武家政権です。室町幕府の権威が著しく低下する中、細川氏の宗家である京兆家が管領の地位を独占し、幕府の実権を掌握しました。足利将軍家を擁立しつつも、政治の実権は細川京兆家が握り、「京兆専制」と呼ばれる政治体制を確立しました。

クーデターによる政権奪取

応仁の乱の混乱の中、細川京兆家の当主であり、管領として強大な権力を持っていた細川勝元が死去しました。その後を継いだ嫡男の政元は、幼少であったため、当初は後見役である細川政国（典厩家）が政務を主導しました。政元は、長享3年（1489年）に9代将軍足利義尚が死去し、後継者問題が発生すると、足利義澄を推しましたが、政争に敗れ、足利義材が10代将軍に就任しました。

延徳3年（1491年）に足利義視が死去すると、幕政は畠山政長によって壟断されるようになりました。明応2年（1493年）2月、畠山政長は将軍足利義材を擁して河内へ出兵しますが、この隙をついて細川政元はクーデターを敢行します（明応の政変）。日野富子や伊勢貞宗と結託した政元は、足利義澄を新たな将軍として擁立し、政権を掌握しました。このクーデターによって、畠山政長は自害に追い込まれ、足利義材は幽閉されることとなり、ここに細川政権が成立しました。

政元による専制政治

足利義材の逃亡は、政元にとって誤算でした。義材は、越中守護代の神保長誠の助けを得て京都を脱出し、各地の大名に支援を求めました。明応8年（1499年）には、義材に呼応した大名らの攻撃を受けましたが、政元はこれを撃退し、義材は周防の大内義興のもとへ逃れました。細川氏は、畠山氏や斯波氏といった有力守護大名の勢力を削ぎ、管領職を独占することで、幕府の実権を掌握し、細川氏の全盛期を築き上げました。

しかし、政元は将軍を傀儡として擁立したことで、内部にも問題を抱えることになりました。政元は、明応の政変で活躍した上原元秀を重用しましたが、他の家臣たちの反感を買い、元秀は殺害されてしまいます。さらに、山城守護職の地位を巡って、細川氏の分家である阿波守護家の細川義春と幕府政所執事の伊勢貞陸が対立すると、政元は伊勢貞陸を支持したため、細川氏内部の不満が高まりました。

政元は修験道に傾倒し、政務を家臣に任せることもありましたが、安富元家や薬師寺元長といった優秀な家臣団に支えられ、政務が大きく乱れることはありませんでした。しかし、政元の奇行や後継者問題が家臣たちの反発を招き、永正元年（1504年）には、摂津守護代の薬師寺元一と赤沢朝経による反乱が起こりました。

後継者争いと永正の錯乱

政元には実子がなかったため、関白九条政基の子である細川澄之を養子に迎えましたが、細川氏と血縁関係のない澄之を後継とすることに反発する勢力が現れました。そのため、政元は分家の阿波守護家から細川澄元を、さらに野州家から細川高国を養子に迎えましたが、これが後継者争いを激化させることとなりました。

永正4年（1507年）6月23日、政元は澄之を支持する薬師寺長忠や香西元長らによって暗殺されました（永正の錯乱）。政元暗殺後、長忠らは澄元をも暗殺しようとしましたが、澄元は家臣の三好之長の助けを得て近江へ脱出しました。こうして、長忠らは澄之を擁立しましたが、澄元は近江で勢力を盛り返し、京都へ侵攻して澄之を自害に追い込みました。

高国政権と両細川の乱

澄之を滅ぼした澄元は、細川京兆家の家督を継承しましたが、周防に逃れていた足利義尹（後の義稙）が大内義興の支援を受けて上洛を開始しました。澄元は高国に義興との和睦を命じましたが、高国は義興と内通し、澄元を裏切りました。永正5年（1508年）、義興と高国に攻められた澄元は、京都を放棄して近江へ逃亡し、足利義尹が再び将軍に復帰しました。高国は京兆家の家督を継承し、管領として政権を掌握しましたが、その政権基盤は脆弱でした。

その後、澄元は京都奪還を目指して挙兵しましたが、高国に敗れ、永正8年（1511年）には船岡山合戦で敗北し、摂津へ敗走しました。永正15年（1518年）に大内義興が周防へ帰国すると、高国は単独で政権を維持しましたが、その強権的な政治手法は、各地で反発を招きました。

永正17年（1520年）、澄元は再び挙兵し、高国を近江へ追いやりましたが、高国はすぐに勢力を立て直し、京都へ侵攻して澄元を破りました。澄元は最終的に阿波で病死し、高国は再び政権を掌握しました。

晴元政権の成立と崩壊

高国の死後、澄元の子である細川晴元が、三好元長に擁立されて細川京兆家の家督を継承しました。晴元は、三好元長を重用しましたが、後に元長を誅殺し、堺幕府と決別しました。晴元は、足利義晴を傀儡として擁立し、幕政を主導しましたが、その政治基盤は脆弱であり、各地で反乱が相次ぎました。

天文17年（1548年）、三好長慶が細川氏綱に寝返ると、晴元は劣勢となり、天文18年（1549年）には江口の戦いで長慶に敗れて近江へ逃亡し、ここに細川政権は終焉を迎えました。その後、三好長慶による三好政権が成立し、戦国時代の新たな局面を迎えることとなりました。

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