綿貫観音山古墳

綿貫観音山古墳：古代の息吹を伝える古墳

綿貫観音山古墳は、群馬県高崎市綿貫町に位置する前方後円墳です。この古墳は綿貫古墳群を構成する一つであり、その出土品の価値から、国の史跡「観音山古墳」として指定され、出土品は国宝として大切に保存されています。

古墳の概要

古墳は高崎市の市街地から東へ約6km、井野川の西岸に位置し、北向きに築造されています。墳丘長は97メートル、後円部径は61メートル、高さは9.6メートル、前方部幅は64メートル、高さは9.4メートルと、整然とした形態が特徴です。二段築成で、二重の馬蹄形の周堀が巡らされています。古墳の形態や出土した須恵器の特徴から、6世紀後半の築造と考えられています。墳丘上には埴輪が配置されていますが、葺石は見られません。

形象埴輪：首長権継承の儀礼

横穴式石室の開口部から前方部にかけての中段テラスには、形象埴輪が整然と配列されています。これらの埴輪は、当時の首長権継承儀礼を表現していると考えられています。具体的には、あぐらをかいて座る男性に容器を差し出す女性、そのそばに立つ3人の女性、靫を背負う3体の男性などが中心的な集団を構成しています。さらに、皮袋を持つ女性、威儀を正した女性、盛装した男性、甲冑を身につけた武人、農夫、盾を持つ人々などが続いています。前方部には飾り馬が並べられ、後円部頂上には複数の家形埴輪や鶏などの動物埴輪、器財埴輪が立てられています。

石室の構造

後円部中段には、両袖型の横穴式石室があります。石室は西南に向かって開口しており、内部はほぼ築造当時の状態を保っています。石室の規模は群馬県内で最大であり、全長は12.65メートル、玄室の長さは8.12メートル、幅は奥が3.95メートル、前が3.16メートル、羨道の長さは4.53メートル、幅は奥が2.40メートル、前が1.34メートルです。壁石にはブロック状に加工された角閃安山岩が使用され、天井石には牛伏砂岩と呼ばれる石が使われています。天井石の重さは最大で22トンにもなります。発掘当時、奥から2つ目の天井石と壁石が崩落しており、調査は難航しましたが、それが幸いして盗掘を免れることとなりました。

石室内では棺は使用されず、被葬者の遺体は間仕切石より奥の3.9メートル×3メートルほどの区画を屍床として、横置きに安置されました。このような遺体を直接屍床に安置する葬法は、6世紀の関東地方の横穴式石室でよく見られます。

副葬品：東アジアとの交流

玄室からは、2枚の銅鏡、金製・銀製・ガラス製の装身具、大刀、小刀、刀子、矛、鉄鏃、冑、挂甲などの武具、金銅製の轡、鞍、鐙、雲珠などの渡来系および在来系の馬具、国内他地域製も含んだ須恵器の大甕、壺、坏、土師器の壺、高坏、銅製の水瓶などの容器類が出土しており、副葬品の総数は500点を超えます。特に注目されるのは、中国北斉様式の銅製水瓶、百済の武寧王陵出土品と同笵鏡である獣帯鏡、新羅産の装飾馬具、伽耶系の突起付冑などです。これらの品々は、被葬者がヤマト王権の対外交渉に関わっていたか、またはそれらを与えられる地位にあったことを示唆しており、当時の東アジアとの交流を物語る貴重な資料となっています。

これらの武具や装飾品は、埴輪にもその姿が再現されています。突起付冑の場合、同形式の伽耶地域出土品から、突起部分に金銅製飾りが装着されていたことがわかっており、埴輪の武人が着用している冑がその本来の姿であったと考えられています。

文化財としての価値

綿貫観音山古墳の出土品は、その学術的価値の高さから、国宝に指定されています。これらの資料は、日本の古代史、特に古墳時代の社会や文化、国際交流を研究する上で、欠かすことのできない重要な資料群です。また、古墳自体も国の史跡として保護されており、その歴史的景観を今に伝えています。

綿貫観音山古墳は、古代日本の息吹を感じることができる貴重な文化遺産です。古墳を訪れ、その歴史に触れてみてはいかがでしょうか。

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