肩車 (柔道)

肩車 (Kata-guruma)

肩車は、柔道の投技である手技16本の一つで、投の形の手技の3本目に位置づけられています。講道館や国際柔道連盟 (IJF) での正式名称であり、IJF略号はKGUです。別名として絹担（きぬかつぎ）とも呼ばれます。

概要

肩車は、相手の重心を崩しながら、相手の前にもぐりこんで行います。釣り手側の脇の下、または引き手側の脇の下に頭を入れ、片方の手を相手の両足の間に入れ、もう片方の手を引いて相手を肩に担ぎ上げます。そして、重心を移動させながら反対側に転がして投げます。

レスリングの技であるファイヤーマンズキャリー（飛行機投げ）とほぼ同じ形ですが、早く引き込みすぎると崩しが不十分になることがあります。腰を曲げて背中に乗せてしまうと落とすことが難しく、そもそも「肩」車とは言えません。そのため、膝を曲げ腰に力を集中させ、背筋を伸ばすことが重要です。

背負投の連携技として使うとリスクが大きいですが、双手刈や朽木倒などの技とは相性が良いとされています。かつては日本国内で使用する選手は少なかったものの、1995年頃から86 kg級の世界チャンピオンであった中村佳央が積極的に用いるようになり、その後は軽量級、中量級の選手を中心に使われるようになりました。

神道六合流では、相撲の腕捻りの様な技である肩落の別名を「肩車」としています。

変化

肩車には様々な変化形が存在します。

持ち上げる前に片膝をつく肩車：膝を着く側は釣り手側の場合もあれば引き手側の場合もあります。
一本背負投の様な肩車：右組で相手を持ち上げた後、体を左に開いて、右手を相手の右袖に持ちかえ一本背負投の様に投げ落とします。
真後ろに反り投げる肩車：相手を持ち上げた後、自身の真後ろに体を反らせて捨てながら相手を落とします。玉嶺生は、1948年の講道館機関誌『柔道』で、後ろに反り倒す肩車は相撲では撞木反りにあたると述べています。
真前に落とす肩車：相手を持ち上げた後、前屈し自身の真前に相手を落とします。
立ったまま反り投げる肩車：立ち上がらず相手を持ち上げないで、自身の真後ろに体を反らせて捨てながら相手を落とします。玉嶺生は、1948年の講道館機関誌『柔道』で、後ろに反り倒す肩車は相撲では襷反りにあたると述べています。
横捨身技としての肩車：2004年の書籍『柔道技の見極めハンドブック』によると、右手で相手の左袖を取り相手の左腋下に頭を突っ込み右手で左内腿を取り肩車の様に相手の上体を極めながら、右脚を伸ばしての横捨身技は講道館では浮技としていますがIJF主催大会では「肩車」としてることが多いとされています。

スタンディング肩車

スタンディング肩車は、立った状態から仕掛ける肩車です。右手で相手の左袖を持ち頭部を相手の左腋下に突っ込み、後ろに立ち姿勢のまま、反り投げるか、左手で相手の左袖を取り右手で相手の左腋下辺りを持って、左手を相手の左内腿に持ち変え、相手を持ち上げ落とします。

グランプリ・ザグレブ2021でアンジェロ・パンターノ（イタリア）が一本をとり、IJF柔道アワード2021ベスト一本となった技はIJF柔道アワード2021の際は「スタンディング肩車」とされましたが、IJF公式の決り技は裏投となっています。自身が倒れ込んで投げており、相手の脚に触らないでも可能な肩車です。

ラーツ・ドロップ

ラーツ・ドロップは、右自然体から左手を相手の左袖に持ちかえ、頭部を相手の左腋下に突っ込んで自身の右側に捻り落とす肩車です。1990年代前半に活躍していたベルギーのラーツ兄弟が得意にしていたことから、欧米ではそう呼ばれていました。脚掴み禁止のルールでも使用可能な肩車です。ジョージアのゲオルギ・ワザガシビリも同様の技を度々使用していました。脚を掴まないスタイルの肩車は、横落や谷落と見なされる場合もあります。

ランニング肩車

ランニング肩車は、頭部を相手の腋の下に突っ込んだ後、前方に走ってから捻り落とすラーツ・ドロップです。右自然体から左手を相手の左袖に持ちかえ、頭部を相手の左腋下に突っ込んで前に走って相手の左足が下がったタイミングで相手を自身の右側に捻り倒します。2024年パリオリンピックの柔道混合団体決勝戦でジョアン＝バンジャマン・ガバ（フランス）が阿部一二三（日本）にこの技で勝利しました。

向返

向返は、双手刈の様に相手の両膝裏を両手で持ち、頭部を相手の右腋下に出して、右肩を相手の腹に当て、後方に立ち姿勢のまま反り投げる肩車です。自身も倒れ込むと裏投となります。相撲の居反りの様な技です。

歴史

嘉納治五郎が相撲の技を参考にしたり、西洋の技を取り入れたりして肩車を編み出したという説があります。神田久太郎が戸塚楊心流や起當流の「絹担」を導入し肩車を改良したという説もあります。幕末に久冨鉄太郎が「衣カツギ」という肩車と同様の乱取技を記しています。また、1902年の書籍『日本相撲伝』では肩車と同様の相撲技「絹かつぎ」を紹介しています。

国際柔道連盟は2009年にルール改正し、肩車の使用に制限が加えられました。脚取り禁止の新ルールに抵触しないように、脚を取らずに相手の懐に潜り込む変則の肩車がよく使用されるようになりました。

大相撲の決まり手として

大相撲の決まり手としては、絹担ぎ（きぬかつぎ）が柔道の肩車に相当するとされ、類似した名称で技の内容もこれと同様あるいは類似したものと思われる衣被き（きぬかずき）、きぬぞり（絹反り）、きぬうりについても解説しますが、これらはいずれも現行の公式決まり手体系に含まれておらず、公式決まり手では前述のように撞木反り、襷反り、居反りなどの反り技に相当するとされます。

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