苟萇

苟萇（こう ちょう）

苟萇は、五胡十六国時代の前秦に仕えた軍人であり、生没年は不明です。武都郡の出身で、前秦の勢力拡大に大きく貢献しました。

生涯

苟萇は前秦に仕え、屯騎校尉に任じられました。370年4月、王猛に従って前燕討伐に参戦し、同年9月には王猛が壷関を占拠した際、その守備を任されました。その後、使持節・武衛将軍に昇進しました。

376年5月、苻堅の命により、苟萇は左将軍毛盛、中書令梁熙、歩兵校尉姚萇らと共に歩騎13万を率いて前涼討伐に向かいました。秦州刺史苟池、河州刺史李弁、涼州刺史王統も三州の兵を率いて後続しました。前涼君主張天錫は龍驤将軍馬建に2万の兵を与え、前秦軍を迎え撃たせました。

同年8月、苟萇は石城津から渡河し、梁熙らと合流して纒縮城を攻略しました。馬建は恐れて楊非から清塞まで撤退しました。張天錫は征東将軍常據に3万の兵を与えて洪池（現在の甘粛省武威市天祝県）へ派遣し、自身も5万の軍で金昌城へ出征しました。

苟萇は姚萇に兵3千を与えて先鋒とし、馬建軍1万を破って馬建を降伏させました。これにより、他の前涼兵も逃散しました。さらに、苟萇は洪池に進み、常據軍を破りました。常據は自害し、軍司席仂も戦死しました。苟萇は清塞まで侵攻し、張天錫は司兵趙充哲、中衛将軍史景に勇軍5万を与えて迎撃させましたが、前秦軍は赤岸で趙充哲を破り、3万8千の兵を討ち取り、趙充哲と史景を戦死させました。張天錫は恐れて数千騎を率いて姑臧へ撤退しました。

苟萇は揚武将軍馬暉、建武将軍杜周に騎兵八千を与えて西へ向かわせ、逃亡した張天錫を追撃させ、姑臧城で合流する手はずとなりました。しかし、馬暉らは沢を進んでいる時に水によって進路を遮られ、期日通りに到着できませんでした。そのため、死罪となり、有司が上奏しましたが、苻堅は「水というものは春冬は枯渇し、秋夏には増水する。今回の事は苟萇の計が適切でなかったためであり、暉等の罪ではない」として、彼らを罪に問いませんでした。

前秦軍が姑臧に進軍すると、窮した張天錫は降伏を決意し、自らを縛り上げて棺を伴い、素車・白馬を用いて苟萇の軍門に降りました。苟萇はその戒めを解いて棺を焼き払い、張天錫を長安へ送致しました。これにより、涼州の郡県はみな前秦へ降伏し、前涼は滅亡しました。

378年2月、尚書令苻丕が歩騎7万を率いて朱序が鎮守する東晋の襄陽を攻めると、苟萇もこれに従軍しました。苻丕は襄陽を急攻しようと考えましたが、苟萇は「我が軍は敵の十倍であり、兵糧も豊富です。漢・沔の民を許・洛に移し、その糧道を塞ぎ、外援を絶てば、攻めずとも自滅するでしょう」と反対し、苻丕はこれに従いました。

これ以後、苟萇の行跡は史書に記載されていません。

人物・逸話

張天錫は夢を見ました。その内容は、緑色の犬が現れ、城の東南から侵入して張天錫を喰らわんとするものでした。後に苟萇が姑臧を攻略した際、地は緑一面に染まり、苟萇は錦袍を着て東南門より入城しました。これは夢の通りであったと伝えられています。

参考文献

『晋書』巻86、113
『資治通鑑』巻102、104
* 『十六国春秋』巻29、36、74

もう一度検索