若森県庁

若森県庁は、かつて茨城県つくば市若森に置かれていた若森県の行政機関です。現在の県庁跡は、史跡として指定されており、桜川右岸の台地上に位置しています。その景観は、城跡を彷彿とさせます。

概要

若森県は、常陸国と下総国の旧天領や旗本領の村々を統合して発足しました。具体的には、常陸国の6郡（茨城、多賀、鹿島、新治、筑波、真壁）と下総国の3郡（結城、豊田、岡田）に属する約560の村々を管轄し、人口は約15万人、石高は約29万石でした。初代知県事には、元広島[[藩]]士の池田種徳が任命されました。

しかし、若森県はわずか2年9ヶ月で新治県と茨城県に統合され、その短い歴史に幕を閉じました。

県庁跡は標高約25mの場所に位置し、北から東にかけて水田が広がり、西側には谷津がある天然の要塞のような地形です。この地は、県庁が設置される以前は城跡でした。県庁には約20名の役人が勤務していましたが、県内の多くの人々が訪れたため、若森村は大変賑わいました。しかし、県庁廃止後は経済が急速に衰退し、庁舎は売却され、その面影はほとんど残っていません。

県庁舎

県庁舎の敷地面積は約4町歩（39,668平方メートル）と小規模でした。建坪については諸説あり、約120坪（約397平方メートル）、125坪（約413平方メートル）、140坪（約463平方メートル）のいずれかとされています。職員数は約20名または55名で、会計局、社寺局、租税局、断獄局、聴訴局などの役所がありました。最盛期には55もの建物が連なっていたとされています。

庁舎は、館之山と向山の2つの地区に分かれていました。館之山には本庁舎、牢舎、お供の者の控え室、10棟の長屋が、向山には13棟の長屋が建てられていました。庁舎の建設は、周囲の村人を動員した突貫工事で行われ、その費用は県内の各村から石高100石あたり2両半を徴収することで賄われました。

歴史

若森城・若森陣屋から県庁へ

若森の地は、南北朝時代に小田治久が小田城の防衛のために若森城を築いた場所です。元亀年間には、下妻城主の多賀谷政経が若森城を築きました。江戸時代には旗本の堀田氏が二の丸跡に陣屋を構えましたが、文久3年（1863年）に取り壊されました。取り壊しの理由は不明ですが、その際、多くの荷物が江戸に運ばれたと伝えられています。陣屋跡はその後、村の共有地として利用されました。

明治2年（1869年）1月、常陸知県事の池田種徳が県庁の設置場所を検討し、筑波郡神郡村、新治郡玉取村、そして新治郡若森村の3つを候補に挙げ、各村に絵図の提出を求めました。同年2月3日、若森村に県庁を建設し、新県の名称を若森県とすることが発表されました。若森村が選ばれた背景には、庄屋の大久保弥助らによる誘致活動があったとされています。また、『大穂町史』によれば、幕末から空き地であったことも選定理由の一つとされています。

県庁の設置と若森の賑わい

明治2年2月9日、若森県が正式に発足し、若森村に県庁が設置されました。これは、当時の「府県施政順序」に基づいたもので、葛飾県や品川県などと同時に設置されました。県庁が業務を開始したのは、2月20日です。若森県庁は、県民表彰、村役人の選挙、政治への意見上申の奨励、貧困救済、新産業振興など、幕[[藩体制]]下とは異なる革新的な政策を推進しました。しかし、明治政府の神仏分離政策に従い、廃仏毀釈を断行したことも事実です。

県庁が設置されたことで、若森村は多くの人々で賑わいました。県庁に用がある人々が集まり、「郷宿」と呼ばれる宿泊・休憩施設や、料理を提供する「茶漬屋」が相次いで開業しました。しかし、客の奪い合いが発生したため、郷宿10軒と茶漬屋19軒の間で、それぞれの役割を規定した「議定」が結ばれました。明治4年7月14日に第1次廃[[藩置県]]が実施されましたが、若森県は現状維持となりました。

県庁の廃止とその後

常総地方には人口1万人に満たない県が6県ありましたが、若森県の人口はその中でも多い方でした。しかし、明治4年11月13日の第2次廃[[藩置県]]により、若森県は茨城県と新治県に分割されました。若森県知県事の池田種徳は、新治県の初代知事に就任しました。若森県廃止に際して、県内の全村から存続の嘆願書が提出されましたが、認められませんでした。

県庁が廃止された若森村では、生活困窮者が増加し、明治5年7月には新治県庁へ嘆願書が提出されました。その中で、県庁が若森村に移転するのであれば、必要な土地と移転のための人馬を無償で提供する意思を示しましたが、願いは叶いませんでした。若森県庁の建物は、明治5年に個人や吉沼小学校などに分割され譲渡されました。

遺構

県庁跡地は、現在つくば市若森に位置し、若森南バス停から徒歩10分の場所にあります。現地には土塁が残っており、私有地として個人宅や栗畑として利用されています。樹木が繁茂しており、当時の面影はほとんど残っていません。

建物の一部は払い下げられ現存していますが、私有地のため見学はできません。移築された民家には、菊花紋章入りの鬼瓦が残っています。また、一部は吉沼小学校の校舎として移築され、その後、村役場や中学校の校舎として利用されましたが、1953年に取り壊されました。

脚注

注釈

出典

参考文献

茨城県地域史研究会編『茨城県の歴史散歩』歴史散歩⑧、山川出版社、2006年1月25日、285pp. ISBN 4-634-24608-2
茨城地方史研究会編『茨城の史跡は語る』瀬谷義彦・佐久間好雄監修、茨城新聞社、平成元年12月30日、317pp.
大穂町史編纂委員会編『大穂町史』つくば市大穂地区教育事務所、平成元年3月31日、445pp.
佐野春介『大穂町の昔ばなし』ふるさと文庫、筑波書林、1980年9月15日、76pp.
つくば書店レポート部編『つくばレポート vol.2』つくば書店、2007年3月1日、91pp. ISBN 978-4-902451-01-6

関連項目

府[[藩県三治制]]
都道府県庁所在地
大穂町

外部リンク

* つくばに県庁があった

もう一度検索