苻暉

苻暉（ふ き）：前秦の皇族、その生涯と悲劇

苻暉は、五胡十六国時代の前秦の皇族であり、第3代君主である苻堅の子として生まれました。彼は、第4代君主となる苻丕や皇太子苻宏といった兄たち、そして広平公苻熙、鉅鹿公苻叡、河間公苻琳、中山公苻詵といった弟たちと共に、苻堅の血を分けた一族の一員でした。

平原公として

357年6月、父である苻堅が天王位に即くと、苻暉は平原公に封じられました。これは、彼が皇族として重要な地位を与えられたことを示しています。

洛陽鎮守という重責

380年8月、苻暉は都督豫洛荊南兗東豫揚六州諸軍事、鎮東大将軍、豫州牧に任じられ、洛陽の鎮守を任されることになりました。この時、彼は3千2百戸の氐族を統治下に置かれました。洛陽は戦略的に重要な拠点であり、その防衛を任されたことは、苻暉に対する苻堅の信頼の厚さを示しています。

翟斌の反乱と苦境

しかし、苻暉の洛陽鎮守は、困難の連続でした。383年12月、丁零である翟斌が河南で反乱を起こし、苻暉の守る洛陽を攻めようとしました。さらに、慕容鳳、前燕の旧臣の子である王騰、遼西段部の末裔である段延らが翟斌の挙兵を聞き、各々部曲を率いてこれに帰順しました。苻暉は武平侯毛当に兵を与えて翟斌討伐を命じましたが、慕容鳳率いる丁零軍に大敗を喫し、毛当は戦死してしまいました。丁零軍は洛陽城内の陵雲台へ侵攻し、これを攻略すると、1万を超える兵を捕らえました。これにより、苻暉は洛陽において苦境に立たされることになります。

慕容垂の離反

事態を重く見た苻堅は、慕容垂に洛陽救援と翟斌の討伐を命じました。しかし、慕容垂もまた自立を目論んでいたため、兵が少ないことを理由に河内に留まり、募兵を行いました。苻暉は慕容垂のもとへ使者を派遣して到着が遅いことを詰り、速やかに赴くよう命じましたが、慕容垂は副将である苻飛龍を奇襲して殺害すると、その兵を尽く生き埋めにしました。384年1月、慕容垂はようやく洛陽へ赴きましたが、苻暉は既に慕容垂が苻飛龍を殺したことを知っていたので、門を閉ざして拒みました。そのため、慕容垂は翟斌の勢力と合流すると、滎陽に拠点を構えて大将軍・大都督・燕王を称して正式に自立しました。これにより、苻暉は洛陽において完全に孤立することになります。

長安への撤退と防衛戦

7月、相次ぐ諸部族の反乱により関東は大混乱に陥り、遂に苻暉は洛陽を放棄し、洛陽・陝城の兵7万を率いて長安へ退却しました。その後、苻暉は使持節・散騎常侍・都督中外諸軍事・車騎大将軍・司隷校尉・録尚書事に任じられ、5万の兵を率いて、長安へ侵攻してきた慕容沖を迎え撃つことになりました。河間公苻琳が苻暉の後続となりました。苻暉らは鄭西に進駐しましたが、慕容沖により攻撃を受けて大敗を喫しました。その後、長安は慕容沖により包囲されてしまい、苻暉はこれと争うも幾度も敗戦を重ねました。

憤死という悲劇

385年2月、苻堅は連敗続きであった苻暉を叱責して「汝は我の才子であるぞ。それが大軍を擁しているのに、白虜の小児と戦って幾度も敗れようとは。どうして生きていられるのか！」と怒声を上げました。3月、苻暉は憤恚の余り自殺しました。彼は、父である苻堅の期待に応えようと懸命に戦いましたが、相次ぐ敗戦と叱責により、精神的に追い詰められてしまったのです。

苻暉の生涯は、前秦の皇族として生まれながらも、激動の時代に翻弄され、志半ばで命を落とした悲劇的なものでした。彼の死は、前秦の衰退を象徴する出来事の一つとして、歴史に刻まれています。

参考文献
『晋書』載記第13　苻堅載記上　載記第14　苻堅載記下
『資治通鑑』巻100-106
* 『十六国春秋』巻41

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