段部

段部（だん ぶ）とは

段部（拼音：Duàn bù）は、中国の西晋時代から五胡十六国時代にかけて遼西地方に存在した鮮卑の一つの部族です。

歴史

前史

段部の始祖である段日陸眷（だんじつりくけん）は、幼い頃に人買いに売られ、漁陽烏桓（ぎょよううがん）の大人（たいじん）である庫傉官（こじょくかん）の奴隷となりました。漁陽で大飢饉が起こると、庫傉官は段日陸眷が強壮であることから、遼西に移って糧食を集めるように命じました。段日陸眷はこれを機に庫傉官に叛いて自立すると、流亡の人々をかき集めてその勢力を強大化させ、かつて漢代に放棄された遼西郡令支県（りょうせいぐんれいしけん）にある城郭を根拠地としました。

段日陸眷の死後は弟の段乞珍（だんきっちん）が位を継ぎ、その死後は子の段務勿塵（だんむぶつじん）が継ぎました。段務勿塵は遼西の地を統べて西晋に臣従し、その部民は3万家余り、騎兵は4・5万にも及びました。

王浚（おう しゅん）に従属

303年12月、幽州刺史（ゆうしゅうしし）王浚は幽州での地盤確立の為に、娘の1人を段務勿塵に嫁がせました。これ以降、王浚とは親密な関係となり、王浚の上表により遼西公に封じられました。

304年8月、王浚が成都王司馬穎（せいとおうしばえい）討伐の兵を挙げると、段務勿塵は兵を派遣して援護しました。

309年9月、漢（後の前趙）の将軍石勒（せきろく）が常山に襲来すると、段務勿塵らは10万を超える騎兵を率いて飛龍山で迎え撃ち、大勝を挙げました。

310年10月、これらの功績により大単于（だいえんう）の印綬が授けられ、次子の段匹磾（だんひつてい）には左賢王（さけんおう）の印綬が授けられました。段務勿塵が亡くなると、長子の段疾陸眷（だんしつりくけん）が位を継承しました。

311年12月、西晋の并州刺史劉琨（りゅうこん）が幽州の民3万を略奪すると、段疾陸眷はこれを討伐して民を王浚に返還しました。

312年12月、王浚が石勒の本拠地襄国へ侵攻すると、段疾陸眷は従弟の段末波（だんばつは）・弟の段匹磾・段文鴦（だんぶんおう）らと共に従軍し、迎え撃って来た石勒軍の諸将を全て撃破しました。しかし、石勒の将軍の孔萇（こうちょう）より奇襲を受けて大敗を喫し、段末波が捕らえられました。石勒が段末波を人質として講和を求めると、段疾陵眷は鎧馬・金銀を送って段末波の弟3人を人質に差し出し、段末波と交換しました。また、石勒と同盟を結び、彼の養子の石虎（せきこ）との間に義兄弟の契りを結びました。段末波もまた石勒と父子の誓いを交わし、石勒を恩人として崇めるようになりました。これにより、王浚と段部の間には亀裂が入りました。

当時、中原が混乱により、大量の流民が段部の下へ身を寄せていましたが、段疾陸眷とその兄弟は武勇一辺倒であり、士大夫を礼遇しなかったので、多くが慕容部（ぼようぶ）に流れてしまったといいます。

分裂

313年、王浚は段疾陸眷と共に石勒を攻めようとしましたが、段疾陸眷は石勒より手厚い賄賂を受け取っていたので応じませんでした。4月、王浚は激怒し、代王拓跋猗盧（だいわいたくばついろう）・慕容部の大人慕容廆（ぼようかい）に段部を攻撃させましたが、段疾陸眷は拓跋部を返り討ちにしました。これにより慕容部も兵を退きました。

314年3月、石勒は薊城（けいじょう）を攻略して王浚を滅ぼしました。4月、薊城を守る寧朔将軍劉翰（ねいさくしょうぐんりゅうかん）が石勒に背き、段匹磾を迎え入れました。これにより、薊城は段部の支配下に入りました。王浚配下であった楽陵郡太守邵続（がくりょうぐんたいしゅしょうぞく）もまた一度は石勒に帰順しましたが、すぐに離反して段匹磾に帰順しました。怒った石勒が厭次（えんじ）を守る邵続を包囲すると、段匹磾は弟の段文鴦に救援させ、石勒軍を大破して多数の民を略奪しました。段匹磾は朝廷より正式に幽州刺史に任じられ、勃海公（ぼっかいこう）に封じられました。これ以降、段匹磾は段疾陸眷から離れ、次第に独自行動を取るようになりました。

316年4月、石虎が西晋の後将軍劉演（こうしょうぐんりゅうえん）の守る廩丘（りんきゅう）を攻撃すると、段匹磾は劉演に味方して邵続と段文鴦を救援に向かわせましたが、廩丘は陥落しました。

7月、段匹磾は西晋の大将軍劉琨と同盟を結ぶと、段疾陸眷・叔父の段渉復辰（だんしょうふくしん）・段末波へ、共に石勒を討つよう呼びかけました。しかし、段末波は石勒への旧恩から拒絶し、段疾陸眷・段渉復辰も応じなかったので討伐は中止となりました。

318年1月、段疾陸眷は病死すると、彼の子は幼かったので、段渉復辰が仮に継ぎました。薊城を統治していた段匹磾は喪に服す為に令支に向かいましたが、この時密かに段末波と段驎（だんりん、段務勿塵の従兄弟）を殺して国権を掌握しようと目論んでいました。しかし、彼の側近が段末波にこの事を密告したので、段渉復辰・段末波・段驎らは兵を発して段匹磾を攻撃し、全滅に近い大損害を与えました。段匹磾はかろうじて薊城へ逃れましたが、従軍していた劉羣（りゅうぐん、劉琨の嫡男）は捕らわれとなりました。この時、段末波もまた政権掌握を目論んでおり、隙を突いて段渉復辰を襲撃しました。これにより段渉復辰とその子弟を始め一派の者をみな誅殺すると、自ら単于を称して自立しました（段驎を単于に推戴したともいわれます）。

これ以降、段末波は段匹磾と互いに攻め合うようになり、段部は分裂して部衆は離散してしまう事となりました。

再び統一

319年4月、段匹磾の兵は食糧不足のために四散したので、薊を離れて上谷に拠点を移しました。しかし、代王拓跋鬱律（だいわいたくばつうつりつ）より攻撃を受け、段匹磾は邵続の統治する楽陵郡に身を寄せました。

12月、遼東を治める東晋の東夷校尉崔毖（とういこういさいひ）の呼びかけにより、段末波は慕容部討伐の兵を挙げ、宇文部（うぶんぶ）・高句麗（こうくり）もまた呼びかけに応じてそれぞれ軍を動かしました。三国連合軍は慕容部の本拠地棘城（きょくじょう）に攻撃を仕掛けましたが、慕容廆の離間工作に引っ掛かり、兵を退却させました。

320年1月、段末波は段匹磾を攻撃して撃破しましたが、段匹磾は邵続の支援を受けて反撃し、段末波の軍はほぼ全滅しました。段匹磾は勝ちに乗じて段文鴦と共に後趙領の薊城を攻撃しましたが、石勒はその隙をついて石虎に邵続の守る厭次を包囲させました。2月、邵続は出撃するも、石虎に敗れて捕らえられました。段匹磾は邵続が捕らわれた事を知ると、厭次に向かいました。途上で石虎が道を塞いだが、段文鴦の奮戦により無事入城を果たし、段匹磾は邵続の一族である邵緝（しょうしゅう）・邵存（しょうそん）・邵竺（しょうちく）・邵洎（しょうき）らと共に城を固守しました。6月、後趙の将軍孔萇は段文鴦の陣営を攻めましたが、段文鴦はこれに大勝しました。

321年3月、石虎は厭次に進軍して段匹磾と戦い、配下の将軍孔萇は領内の諸城を陥落させました。段文鴦は数十騎を率いて出陣し、多くの兵を斬ったが、後趙の兵が四方から包囲を縮めると、段文鴦はついに力尽きて捕えられました。これにより城内の戦意が消失し、邵洎は城を挙げて石虎に降りました。段匹磾は襄国へと護送され、やがて誅殺されました。これにより段部は再び統一されました。

慕容部との戦いと滅亡

325年3月、段末波は死去し、弟の段牙（だんが）が後を継ぎました。11月、段牙は令支から都を移したが、これに部族の民は大いに不満を抱きました。12月、初代大人段日陸眷の孫である段遼（だんりょう）は位を簒奪しようと画策し、独断で遷都した罪をもって段牙を攻撃し、殺害すると自ら位を継ぎました。段遼は東晋朝廷より幽州刺史・大単于に任じられ、331年2月には驃騎大将軍・幽州刺史・大単于に任じられ、北平公（ほくへいこう）に封じられています。

333年10月、慕容部の大人慕容皝（ぼようこう）の庶兄である建威将軍慕容翰（ぼようかん）が段部へ亡命すると、段遼は彼を厚遇しました。

11月、慕容皝の弟である征虜将軍慕容仁（ぼようじん）が反乱を起こして遼東を占拠すると、段遼は宇文部と共に慕容仁を支援しました。

338年1月、段遼は後趙領の幽州へ侵攻し、幽州刺史李孟（りほう）を易京へ撤退させました。同月、石虎は段部討伐の軍を起こしました。3月、慕容皝も石虎に呼応し、令支以北の諸城を攻撃して回りました。段蘭は総力を持って迎撃にあたったが、慕容皝に大敗を喫して数千の兵を失いました。また、石虎の侵攻により、段部勢力下の漁陽郡・上谷郡・代郡の諸太守は相継いで降伏しました。段遼は妻子親族及び豪族千戸余りを率いて密雲山へ逃走を図りましたが、石虎の将軍郭太（かくたい）・麻秋（ましゅう）より追撃を受け、3千の兵を失い、母と妻が捕らえられました。

12月、段遼は前燕に降伏の使者を派遣し、民と共に棘城へ送られました。その後、謀叛を起こそうとするも失敗し、配下の数十人と共に殺されました。これにより、段部はいったん滅びました。

一時的な復興

343年8月、段蘭もまた捕らえられて後趙へと送られましたが、石虎は罪を赦し、鮮卑五千人を与えて元々の段部の本拠地であった遼西郡令支県に駐屯させました。これにより、後趙の従属化にはあったものの、段部は復興する事となりました。段蘭は度々後趙に背いては石虎を煩わしたといいます。また、段末波の子である段勤（だんきん）もまた後趙に服属し、建義将軍に任じられました。

段蘭が死ぬと、子の段龕（だんかん）がこれに代わりました。

350年1月、後趙の武徳王李閔（ぶとくおうりびん、後の冉閔）の専横により国が乱れると、これに反旗を翻す者が相次ぎました。この混乱に乗じ、段龕は衆を率いて広固に割拠すると、斉王（せいおう）を自称しました。また、段勤は衆を率いて黎陽に移り、これを拠点とすると、趙王（ちょうおう）を自称して前燕に帰順しました。

355年12月、前燕の撫軍将軍慕容恪（ぶようかく）は段龕討伐の兵を挙げると、黄河北岸に到達しました。段龕の弟の段羆（だんひ）は敵が河を渡り切る前に迎撃するよう勧めたが、段龕は従わなかった。段羆は頑なまでに求めたため、段龕は怒って段羆を斬り殺しました。

356年1月、慕容恪が河を渡ると、段龕は迎え撃ったが、大敗を喫して数千の兵が捕虜となりました。段龕は広固に逃げ戻ると、慕容恪はそのまま軍を進め、広固を包囲しました。

2月、慕容恪は長期戦の構えを取った。また、段龕の治める諸城に降伏を促し、段龕配下の徐州刺史王騰・索頭部の単于薛雲らを帰順させました。

8月、段龕は東晋に救援を要請すると、穆帝は徐州刺史荀羨を救援に派遣したが、荀羨は前燕軍を恐れて進軍しませんでした。

10月、慕容恪が糧道を断ったので、広固城内では飢餓により共食いが発生する有様でした。追い詰められた段龕は城から打って出るも慕容恪に敗れ、かろうじて単騎で城内に逃げ戻ったが、取り残された兵は全滅しました。

11月、段龕は遂に降伏を決断し、面縛して出頭しました。段龕は目を潰された後に殺され、その配下3千人余りは生き埋めとなりました。これにより、段部は完全に滅亡しました。

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