蓬左文庫本源氏物語

蓬左文庫本源氏物語：多様な写本群が織りなす物語

名古屋市蓬左文庫は、尾張徳川家に伝来した膨大な書物を所蔵することで知られています。そのコレクションの中でも特に注目すべきは、複数組の源氏物語写本です。揃い本から零本まで多様な写本が含まれており、源氏物語研究において貴重な資料となっています。

蓬左文庫本源氏物語の写本

蓬左文庫には、以下の様な源氏物語の写本が所蔵されています。

1. 尾州家本源氏物語（河内本系統）

河内本系統の本文を持つ代表的な写本とされています。その本文の正確さと歴史的価値から、源氏物語研究において重要な資料となっています。

2. 鎌倉時代零本（4帖）

「松風」「竹河」「総角」「浮舟」の4帖からなる零本です。各帖の筆者や本文系統は異なっており、元から一組であったのかどうかは不明です。しかし、江戸時代には京都の烏丸家に、その後は国立歴史民俗博物館所蔵の中山本とともに存在していたと推測されます。明治30年代に烏丸家から流出し、平戸の松浦家を経て、大正末期に尾張徳川家に渡り、蓬左文庫に収蔵されることとなりました。「源氏物語別本集成」や「河内本源氏物語校異集成」にも収録されています。

3. 天正8年奥書本（34帖）

紹巴筆と伝えられる34帖本。天正8年（1580年）の奥書が存在し、その書写年代を裏付ける重要な資料となっています。

4. 天文2年奥書本（54帖）

青表紙本系統の本文を持つ54帖の揃い本。天文2年（1533年）の奥書があり、三条西家当主が書写した巻も含まれています。日本大学所蔵の三条西家本と非常に近い関係にあるとされています。寄合書きであるため、筆写目録2帖が付属し、合計56帖からなります。

蓬左文庫本源氏物語の翻刻

蓬左文庫本源氏物語は、岡野道夫氏によって詳細な翻刻が行われています。岡野氏は、日本大学商学研究会が発行する『総合文化研究』において、巻ごとに翻刻と解説を発表しています。翻刻された巻は以下の通りです。

柏木
空蝉
絵合
花宴
関屋
胡蝶
夢浮橋
蛍
梅枝
松風
鈴虫
紅梅
桐壺
蓬生
横笛
橋姫
朝顔
野分
藤袴
匂宮
御法
藤裏葉
早蕨
紅葉賀
若紫
薄雲
* 澪標

これらの翻刻は、源氏物語研究に大きく貢献しており、蓬左文庫本源氏物語の価値を高めるものとなっています。また、岡野氏は「研究ノート　蓬左文庫本『源氏物語』「橋姫巻」の本文について　蓬左文庫本と日大本の対比」において、蓬左文庫本と日大本の比較研究も行っています。

まとめ

蓬左文庫本源氏物語は、多様な写本と、それらに対する詳細な研究によって、源氏物語研究において極めて重要な位置を占めています。その価値は、単なる写本群の保存を超え、日本の文学史、書写史、そして文化史を理解するための貴重な資料となっています。今後も、蓬左文庫本源氏物語は、多くの研究者によって分析され、その全貌が明らかになっていくことでしょう。

もう一度検索