藤原教長

藤原教長：平安時代の歌人、公卿、そして能書家

藤原教長（ふじわら のりなが）は、平安時代後期から末期にかけて活躍した、稀代の公卿にして歌人、そして能書家でした。藤原北家難波家・飛鳥井家の祖であり、大納言藤原忠教の次男として誕生します。正三位・参議にまで上り詰めた彼の生涯は、華麗な宮廷生活と激動の時代を生き抜いた証となっています。

華麗なる宮廷キャリアと保元の乱

元服後、教長は崇徳天皇に仕え、左少将や五位蔵人などを歴任。順調に昇進を重ね、参議に任ぜられ公卿の地位を得ます。右中将や丹波国、越前国、阿波国の国司を兼任するなど、朝廷内での影響力を強めていきました。
しかし、保元元年（1156年）に勃発した保元の乱において、教長は崇徳上皇・藤原頼長側に加担します。『保元物語』では、源為義への説得工作で重要な役割を果たしたとされていますが、その真偽は定かではありません。上皇方の敗北後、教長は出家し恭順の意を示しましたが赦されず、常陸国信太の浮島（現在の茨城県稲敷市浮島）に配流されました。
乱後6年、都に召還された教長は高野山に入り、その後は鹿ケ谷の陰謀や安元の大火といった騒乱の際には、崇徳上皇や頼長の祟りを鎮めるべきだと主張したと伝えられています。

歌人としての卓越した才能

教長は崇徳朝の代表的な歌人として知られています。出家後も、多くの歌合に参加し、その才能を遺憾なく発揮しました。勅撰歌人として、『詞花和歌集』以下、37首もの歌が勅撰和歌集に採録されていることは、彼の高い評価を示しています。自身も『貧道集』という歌集を編纂したほか、『詞花集』に対抗する『拾遺古今』（散逸）も編んだと伝えられています。さらに、『古今和歌集』の注釈書である『古今集註』も著しており、和歌への深い造詣を窺い知ることができます。

能書家としての名声

教長の才能は歌に留まりません。彼は能書家としても著名で、藤原忠通の書の師範を務めたほどの実力者でした。藤原佐理の書風を好み、寺社の扁額を数多く制作したとされ、その書は京都のみならず地方にも流行したと言われています。現存する蓮華王院の門額は、彼の筆跡を知る貴重な資料です。書道の口伝書『才葉抄』も残されています。『今鏡』や『古事談』には、教長の書に関する興味深い逸話が記されています。特に、宋に渡った重源が教長の作品を宋の人々に見せたところ、感嘆されたという逸話は、教長の書が国際的にも高く評価されていたことを示唆しています。ただし、教長と伝わる多くの作品は、実際には大甥の飛鳥井雅経の筆跡である可能性が高いとされています。これは、若い頃の雅経が教長の書を熱心に学んだため、両者の書風が酷似していたことが原因だと考えられています。

深い仏教信仰

教長は深い仏教信仰を持っていました。朝廷に仕えていた頃からすでに強い出家願望を抱いており、在俗の身でありながら聖人然とした振る舞いだったと伝えられています。

まとめ

藤原教長は、公卿、歌人、能書家として多方面で才能を発揮した人物でした。保元の乱という激動の時代を生き抜きながらも、その芸術的才能と仏教信仰によって、平安時代文化に大きな足跡を残しました。彼の作品や逸話は、現代においても人々を魅了し続けています。

もう一度検索