谷田部海軍航空隊

谷田部海軍航空隊とその変遷

谷田部海軍航空隊は、その歴史の中で大きく二つの時代に分けることができます。初期は搭乗員の初歩訓練を担い、後に戦闘機操縦訓練へと移行しました。さらに、関連する神ノ池海軍航空隊、神町海軍航空隊についても、その設立経緯や活動内容を掘り下げて解説します。

初代谷田部海軍航空隊

昭和7年、茨城県筑波郡谷田部町に霞ヶ浦海軍航空隊の補助飛行場が建設されたことを契機に、予科練と連携した練習機専修の分遣隊が設置されました。これが谷田部海軍航空隊の前身です。昭和14年12月には霞ヶ浦海軍航空隊から独立し、正式に開隊。陸上機の操縦教育を継続して行いました。

初代谷田部海軍航空隊の主な出来事

- 昭和14年（1939年）12月1日: 霞ヶ浦海軍航空隊谷田部分遣隊から独立し、開隊。第十一連合航空隊に編入。陸上機の操縦教育を開始。
- 昭和17年（1942年）12月: 予科練卒業生の受け入れを開始。
- 昭和19年（1944年）7月頃: 甲飛第13期生500名が大量入隊。
- 昭和19年（1944年）11月頃: 戦闘実用機訓練隊の教官にフィリピン進出の命令。
- 昭和19年（1944年）12月5日: 練習生教程の甲飛13期生500名を神町海軍航空隊に移転。同日をもって初歩訓練を山形県に移し、谷田部飛行場は神ノ池海軍航空隊の戦闘機搭乗訓練隊に譲渡。

初代谷田部海軍航空隊の主力機種

歴代司令

- 荒木敬吉大佐：1939年12月1日 - 1941年3月10日
- 森玉賀四大佐：1941年3月10日 - 1942年1月25日
- 山県駿二大佐：1942年1月25日 -
- 堤政夫：1942年8月15日 -
- 松原雅太後備大佐：1943年2月25日 -
- 山県駿二：1943年4月10日 -
- 露木専治：1943年6月1日 -
- 荒木保：1943年10月1日 -
- （兼）三木森彦少将：1943年11月15日 -
- 佐藤清茂：1944年2月1日 - 神町移転後も留任

神町海軍航空隊

神町飛行場は、海軍が自力で設置した飛行場の一つです。昭和17年頃から土地収用を開始し、谷田部海軍航空隊の移転までに完成しました。谷田部から移転した初歩練習部隊は、ここで新たな訓練を開始しました。

神町海軍航空隊の主な出来事

- 昭和19年（1944年）12月15日: 神町海軍航空隊が開隊。第十一連合航空隊に残留。
- 昭和20年（1945年）5月5日: 第十一連合航空隊解散、第十航空艦隊直卒に編入。
- 昭和20年（1945年）6月20日: 奥州海軍航空隊（乙飛行隊）が開隊、神町に司令部を設置。
- 昭和20年（1945年）8月5日: 第十航空艦隊に第十五連合航空隊が新設、編入。
- 昭和20年（1945年）8月13日: 機動部隊艦載機が神町飛行場を襲撃。

終戦後解隊。

戦場から遠い神町飛行場も、終戦間際には機銃掃射を受ける状態にありました。戦後は自衛隊が利用していましたが、昭和39年に民間空港として再生し、山形空港が開港しました。

神町海軍航空隊の主力機種

歴代司令

- 佐藤清茂（谷田部空司令より留任 - 終戦後解隊）

神ノ池海軍航空隊

戦闘機専修隊としては筑波海軍航空隊が存在していましたが、大量のパイロットを養成するために、新たな飛行場と施設が必要とされました。そこで、昭和19年に茨城県鹿島郡鹿島町に神ノ池飛行場が開設され、戦闘機の練成隊が設置されました。

神ノ池海軍航空隊の主な出来事

- 昭和19年（1944年）2月15日: 開隊。第十一連合航空隊に編入。
- 昭和19年（1944年）11月7日: 第七二一海軍航空隊が百里原から転入。
- 昭和19年（1944年）12月15日: 谷田部飛行場に転出。

神ノ池海軍航空隊の主力機種

- 零式艦上戦闘機（零式練習戦闘機）

歴代司令

- 岡村基春：1944年2月15日 -
- 福田太郎：1944年5月2日 - 谷田部移転後も留任

二代谷田部海軍航空隊

神ノ池飛行場が桜花や一式陸上攻撃機に占有されたため、神ノ池海軍航空隊は谷田部飛行場に移転せざるを得なくなりました。一方で、初歩訓練部隊を神町に移すことで、訓練施設を確保しました。

二代谷田部海軍航空隊の主な出来事

- 昭和19年（1944年）12月5日: 神ノ池から戦闘機搭乗員訓練生が移転。
- 昭和20年（1945年）1月31日: 甲飛12期の訓練完了。
- 昭和20年（1945年）2月10日: 関東にB-29が襲来。第二五二海軍航空隊・第三〇二海軍航空隊・陸軍第十飛行師団の迎撃に協力。
- 昭和20年（1945年）2月16日: 関東に敵機動部隊が襲来（ジャンボリー作戦）。迎撃に協力し、5機を喪失。
- 昭和20年（1945年）3月1日: 第十航空艦隊に編入。
- 昭和20年（1945年）3月26日: 「天一号作戦」発令。「神風特別攻撃隊・昭和隊」と制空隊は九州進出準備開始。
- 昭和20年（1945年）4月2日: 先遣隊が九州に到着。
- 昭和20年（1945年）4月8日: 本隊第一陣が九州に到着。
- 昭和20年（1945年）4月11日: 本隊第二陣16機が出撃するも、機体不調で14機が離脱。
- 昭和20年（1945年）4月12日: 「菊水二号作戦」発動。防空隊26機が出撃し、14機を喪失。
- 昭和20年（1945年）4月14日: 第一昭和隊12機が出撃し全機を喪失。第二昭和隊8機が鹿屋飛行場に到着。
- 昭和20年（1945年）4月16日: 「菊水三号作戦」発動。第二昭和隊が出撃準備中、敵機襲来により6機が地上撃破。
- 昭和20年（1945年）4月17日: 3個昭和隊が大村海軍航空隊や第七二一海軍航空隊と共に出撃し、4機を喪失。
- 昭和20年（1945年）4月22日: 「菊水四号作戦」発動。制空隊が全力出撃。
- 昭和20年（1945年）4月23日: 増援8機が鹿屋に到着。
- 昭和20年（1945年）4月25日: 残りの昭和隊員が第七二一航空隊に編入。
- 昭和20年（1945年）5月5日: 練成中の紫電18機と要員が筑波海軍航空隊に編入。以後、鹿屋派遣隊は九州防空、谷田部残留隊は練成に従事。

終戦後解隊。

二つの航空隊が使用した谷田部飛行場は、終戦とともに農地に転用されましたが、コンクリート構造物が残っていたため、開墾には困難を伴いました。その後、高度経済成長とともに農地としての価値が下がり、跡地の大部分は農林水産省が占有し、研究所が設立されました。

二代谷田部海軍航空隊の主力機種

- 零式艦上戦闘機（練習用の零式練戦や邀撃用の五二型など）
- 紫電（邀撃用。故障が多く稼働率は低かった）
- 雷電（邀撃用・練習用。離着陸時の前方視界が悪く、練習機としては敬遠された）

歴代司令

- 福田太郎：神ノ池空司令より留任 -
- 梅谷薫大佐：1945年1月15日 -
- 船木守衛：1945年5月1日 - 終戦後解隊

まとめ

谷田部海軍航空隊は、初歩訓練から戦闘機操縦訓練へと変遷し、太平洋戦争末期には特攻作戦にも参加しました。その歴史の中で、神ノ池海軍航空隊や神町海軍航空隊と密接に関わりながら、多くの搭乗員を育成しました。終戦とともに解隊となりましたが、その歴史は今も語り継がれています。

参考文献

- 『日本海軍編制事典』（芙蓉書房出版 2003年）
- 『航空隊戦史』（新人物往来社 2001年）
- 『日本海軍航空史2』（時事通信社 1969年）
- 『戦史叢書海軍航空概史』（朝雲新聞社 1976年）
- 『等身大の予科練』（ウェブ魚拓常陽新聞サイト）
- 『連合艦隊海空戦戦闘詳報別巻1』（アテネ書房 1996年）

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