豊榮神社・野田神社

豊榮神社と野田神社

山口県山口市に隣接して鎮座する豊榮神社（とよさかじんじゃ）と野田神社（のだじんじゃ）は、東に豊榮神社、西に野田神社と並びますが、それぞれが別の宗教法人です。両神社は本殿や拝殿などの社殿を別々に持ちながらも、社務所などの施設を共有し、深い関係を築いています。ここでは、両神社を併せて詳しく解説します。

概要

両神社はともに、かつては別格官幣社に列せられ、現在は神社本庁の別表神社に指定されています。また、隣接地には山口県神社庁が置かれています。江戸時代後期から明治時代初期にかけて、藩祖を祀る神社が流行しましたが、両神社もその一つです。

豊榮神社

祭神

豊榮神社の祭神は、戦国時代に中国地方で勢力を誇り、後の長州藩毛利家の基礎を築いた毛利元就公です。

歴史

豊榮神社の起源は、慶長5年（1600年）の関ヶ原の戦いで敗れた毛利輝元が、安芸国から長門国へ移封された際に、萩江向村の春日神社境内に祖父である元就公の霊を祀ったことに遡ります。その後、春日神社は萩城三の丸へ遷座されましたが、宝暦12年（1762年）、長州藩主重就が萩城二の丸にあった土地神社を改造し、春日神社から元就公を遷座しました。同時に、毛利家の祖神とされる天穂日命を合祀し、神性霊社と号しました。明和7年（1770年）には、元就公を仰徳大明神として主祭神に据え、神社名も仰徳社と改称しました。

明治2年（1869年）、元就公が朝廷を尊崇した功績により、明治天皇から「豊栄」の神号が与えられ、山口市の多賀神社境内に仮殿を設けて仰徳社を移しました。この際、神社名も豊榮神社と改められました。明治4年には、岩倉具視が勅使として派遣され、剣一口が奉納されました。同年、現在の場所に社殿が造営され、遷座が完了しました。明治6年には県社に列格し、明治15年（1882年）には別格官幣社に昇格しました。

社殿・境内

本殿は三間社流造で、前方には梁間1間、桁行5間の釣屋が設けられています。この釣屋は切妻造ですが、奥寄りの2間目は左右に1間の張り出しがあり、十字型の平面をしています。前面は幣殿に接続しており、幣殿は桁行3間、梁間1間の入母屋造平入です。左右からは廻廊が伸びています。幣殿の前方には、方3間、入母屋造妻入の舞殿風の拝殿があり、その前方に神門が構えられています。屋根は全て銅板葺きです。

また、境内には平成9年（1997年）に「百万一心」の碑が建立されました。これは、毛利元就が吉田郡山城を増築する際に、人柱の代わりに「百万一心」と彫った石を埋めたという逸話にちなむもので、実際に城跡から発見された石の拓本が、境内の絵馬殿に展示されています。

文化財

重要文化財（国指定）

絹本著色毛利元就像 1幅（絵画、昭和44年（1969年）6月20日）
縦97センチ、横49.8センチの掛幅装で、大紋、侍烏帽子を着用し、扇を持ち、合口を差した元就の座像です。上部には、京都南禅寺の僧、仁如集堯による永禄5年（1562年）の賛が記されており、元就の長子である隆元が、66歳の父を描かせた寿像であることがわかります。当時、元就は中国地方10ヶ国を併呑しようとしていた時期であり、気魄ある老将の姿がよく描かれています。現存する元就像は数点ありますが、寿像はこれのみで、室町時代の寿像としても貴重なため、重要文化財に指定されました。現在は山口県立博物館に寄託されています。

野田神社

祭神

野田神社の祭神は、長州藩最後の藩主で明治維新の功労者である毛利敬親公です。また、敬親の養嗣子である毛利元徳公も配祀されています。

歴史

野田神社の起源は、明治6年（1873年）に有志が豊榮神社の境内に「敬親公」を祀る社を建て、敬親の諡号である「忠正」から忠正神社と称したことに始まります。翌年、鎮座地の地名から野田神社と改称し、明治9年に県社に列格しました。明治19年には現在地に遷座し、大正4年（1915年）には別格官幣社に昇格しました。

元徳公は、没後2年の明治31年（1898年）に野田神社境内に摂社として芳宜園神社が創建され、祀られていましたが、昭和11年（1936年）に本殿に合祀されました。

社殿・境内

社殿の構造は、本殿、釣屋、幣殿、拝殿など、ほぼ豊榮神社と同じです。

境内にある能楽堂は、元徳公の長男である元昭公によって昭和11年に寄進されたもので、平成3年（1991年）に山口市指定有形文化財に指定されています。

文化財

重要文化財（国指定）

太刀 銘□友（伝・助友）附 衛府太刀拵（工芸品、大正元年（1912年）9月3日）
長さ63.5センチ、反り1.9センチの鎬造の太刀です。銘は「友」の上の一字が判読不能ですが、平安時代の助友の作と伝えられており、その形状から武器ではなく儀式用の太刀と推定されています。刀身は反りの中心点が元寄りにある腰反りで、踏張りも見られます。大正元年に古社寺保存法に基づく国宝（旧国宝）に指定され、昭和25年（1950年）の文化財保護法施行に伴い重要文化財となりました。附（つけたり）指定の拵（こしらえ）は、柄（つか）を白鮫着せとし、鞘は金梨子地の蒔絵に螺鈿細工で紋を表しており、上品で華やかな美しさを持っています。こちらも豊榮神社所蔵の元就像と同様、山口県立博物館に寄託されています。

山口市指定有形文化財

野田神社能楽堂及び付属室（建造物、平成3年4月23日）
毛利元昭が明治維新70年記念として昭和11年に寄進したものです。総檜造りで、橋掛（はしがかり）、鏡の間、楽屋、控の間を備えた本格的な能楽堂です。西日本でも数少ない能楽堂の中でも、規模と質において優れていることから、市の文化財に指定されました。当初は現在地より西南の野田学園の運動場内に建てられていましたが、平成3年に移築されました。設計、建設は東京の小林建築事務所が担当しました。

交通

JR西日本山口線上山口駅から徒歩15分ほどです。

周辺

野田学園中学校・高等学校
山口市菜香亭
雲谷庵跡
瑠璃光寺
洞春寺、のむら美術館
常栄寺
山口県護国神社
今八幡宮

備考

大田市の豊栄神社

島根県大田市の石見銀山近くにも、毛利元就を祭神とする豊栄神社があります。この神社では、元就自身が自らの姿を彫ったとされる木像を神体としています。元々は曹洞宗の長安寺という寺院でしたが、慶応2年（1866年）に長州軍が石見に進駐した際、長安寺に元就の木像が祀られているのを発見したことに始まります。翌年、長州軍の隊士により長安寺境内に霊社が造営され、明治3年に明治天皇から与えられた神号を用いて豊栄神社としました。長安寺は廃寺となっています。

脚注

注釈

参照

参考文献

二六興信所編纂　山田米吉編『勤王事蹟別格官幣社精史』38〜41頁、92頁〜95頁　二六興信所　1935年（国立国会図書館デジタルコレクション）
『神道大辞典』第3巻、平凡社、昭和15年
安津素彦・梅田義彦編集兼監修者『神道辞典』神社新報社、1968年、43、46頁
白井永二・土岐昌訓編集『神社辞典』東京堂出版、1979年、252、269-270頁

関連項目

志都岐山神社

外部リンク

* 豊栄神社・野田神社 - 山口観光コンベンション協会

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