逆コース

逆コースとは



逆コースとは、第二次世界大戦後の日本において、「日本の民主化・非軍事化」という占領初期の政策の流れに逆行する動きを指す言葉です。この言葉は、1951年読売新聞が連載した特集記事「逆コース」に由来します。

背景



1945年、日本はポツダム宣言を受諾し、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の占領下に置かれました。当初、GHQは日本の民主化と非軍事化を推進していましたが、1947年二・一ゼネストに対するGHQの中止命令をきっかけに、アメリカ政府の対日政策は大きく転換します。アメリカは、共産主義の拡大を恐れ、日本を共産主義に対する防波堤と位置づけ、反共政策へとシフトしました。この政策転換は、アメリカ対日協議会の圧力も影響したとされています。

逆コースの具体例



逆コースは、様々な政策や出来事を通じて具体化しました。以下に主な例を挙げます。

治安体制の強化: 廃止された特別高等警察に代わり、公安警察が設置され、秘密警察が復活しました。また、デモ規制を目的とした公安条例が全国の自治体に広まりました。
労働運動への規制: GHQは、二・一ゼネストを中止させ、公務員のストライキを禁止するなど、労働運動への規制を強化しました。さらに、東宝争議にも占領軍が介入し、労働争議を規制しました。
再軍備の動き: GHQは、日本の限定的な再軍備を容認するロイヤル答申を出し、警察予備隊が設置されました。その後、保安隊、現在の自衛隊へとつながる軍備増強が進められました。旧軍の将校が警察予備隊に多数入隊し、海上警備隊も旧海軍軍人主導で創設されました。
公職追放の解除とレッドパージ: 公職追放指定者の処分解除が進む一方で、共産党員や労働運動家が公職から追放されるレッドパージが行われました。これにより、保守勢力の勢力が拡大しました。
戦前・戦中指導者の復権: A級戦犯容疑者として収容されていた岸信介が釈放されるなど、戦前・戦中の指導者層の社会復帰が進みました。
反共プロパガンダ: 下山事件三鷹事件松川事件といった国鉄三大ミステリー事件を利用して、共産党や労働組合関係者の関与が宣伝され、反共・反労働運動のプロパガンダに利用されました。
情報機関の復活: 法務府が法務庁となり、特別審査局(後の公安調査庁)が設置され、情報機関が復活しました。
治安法制の整備: 破壊活動防止法が公布され、治安法制が整備されました。
保守合同と55年体制: 社会党再統一に対抗して保守合同が進められ、自由民主党が結党されました。アメリカ中央情報局(CIA)の支援もあり、中央保守政権の基盤が強化され、いわゆる「55年体制」が形成されました。
内務省復活の動き: 自治庁や建設省を統合する内政省設置法案が提出されるなど、戦前に存在した内務省の復活を目指す動きも見られました。

逆コースの影響



逆コースは、戦後日本の政治、経済、社会に大きな影響を与えました。再軍備や反共政策は、その後の日本の外交や安全保障政策に大きな影響を与え、冷戦構造の中でアメリカとの関係を深めることになりました。また、レッドパージや労働運動への規制は、国内の政治対立を激化させ、社会運動の発展を阻害しました。さらに、内務省復活の動きは、戦前の国家体制を想起させ、民主主義の発展を妨げる可能性が指摘されました。

関連作品



逆コースをテーマにした作品としては、以下のような映画があります。

カルメン純情す』(1952年): 再軍備派と反対派の対立を描いています。
女の園』(1954年): 再軍備で利益を得る資本家と、それに反発する学生たちの姿を描いています。


まとめ



逆コースは、戦後日本の転換期における重要な出来事であり、その影響は現代にも及んでいます。この動きを理解することは、戦後日本の歴史を理解する上で不可欠です。

参考資料



安藤良雄『昭和史への証言 5』原書房、1993年
NHK報道局自衛隊取材班『海上自衛隊はこうして生まれた―「Y文書」が明かす創設の秘密』日本放送出版協会、2003年
神一行『自治官僚』講談社、1986年
永野節雄『自衛隊はどのようにして生まれたか』学研プラス、2003年
荻野富士夫『戦後治安体制の確立』岩波書店、1999年
荻野富士夫『特高警察』岩波書店、2012年
東京護憲弁護士団 編『公安条例』三一書房、1967年
憲法教育研究会 編『検証・日本国憲法―理念と現実』法律文化社、1987年
平田哲男『大学自治の危機―神戸大学レッド・パージ事件の解明』白石書店、1993年
防衛庁「自衛隊十年史」編集委員会 編『自衛隊十年史』1961年
歴史学研究会 編『占領政策の転換と講和』青木書店、1990年
毎日新聞社社会部 編『官僚にっぽん』毎日新聞社、1956年
* 読売新聞戦後史班 編『「再軍備」の軌跡―昭和戦後史』中央公論新社、1981年

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