遠藤胤統

近江三上藩の第5代藩主であり、三上藩遠藤家の第10代当主を務めた遠藤胤統（えんどうたねのり）は、江戸幕府において若年寄などの要職を歴任し、激動の幕末期にも幕政に深く関与した人物です。

生涯

胤統は、寛政5年（1793年）11月22日、美濃大垣藩第7代藩主であった戸田氏教の三男として江戸の戸田家屋敷で誕生しました。享和元年（1801年）12月8日、近江三上藩第4代藩主の遠藤胤富の養子となり、遠藤家の家督相続者に迎えられます。文化6年（1809年）5月15日には将軍徳川家斉に拝謁を許され、将軍後嗣としての地位を固めました。

文化8年（1811年）6月23日、養父胤富が病のため隠居したことに伴い、家督を継いで三上藩主となります。同年12月11日には従五位下・但馬守に叙任されました。

藩主となった胤統は、幕府の様々な役職を歴任していきます。文化9年（1812年）2月3日には江戸城田安門番に就き、同年4月17日には日光祭祀奉行を担当しました。その後も、大坂城青屋口加番、江戸城馬場先御門守衛、大坂城雁木坂加番など、要所の守衛や担当を任されます。特に大坂城では玉造口定番を務めることになります。

天保8年（1837年）に発生した大塩平八郎の乱においては、胤統は大坂城玉造口定番の任にありました。京橋口定番は米倉昌寿でしたが、まだ現地に着任していなかったため、胤統が両口の守備を兼務し、大坂城代土井利位の指揮下で乱の鎮圧に貢献します。この功績により、大久保忠真、松平乗寛、水野忠邦といった有力な老中三名の連署による感状が贈られ、さらに将軍家斉からは褒美として鞍と鐙を下賜されるなど、その手腕が高く評価されました。

第11代将軍徳川家斉、そして続く第12代将軍徳川家慶の両方から厚い信頼を得ていた胤統は、天保12年（1841年）8月10日、江戸幕府の要職である若年寄に抜擢されます。この役職を嘉永4年（1851年）までの約10年間務め、幕政の中枢で活躍しました。

若年寄退任後も幕府の信任は衰えず、嘉永5年（1852年）12月25日には江戸城御勝手掛や西ノ丸造営奉行、海岸防御筋御用掛といった重要な任務を命じられます。これに伴い、2000石の加増を受けて領地は合計1万2000石となりました。

幕末の緊迫した情勢下においても、胤統は幕政に深く関与しました。徳川将軍家と諸大名家との婚姻に関する事務処理を担当し、重要な外交交渉にも携わっています。特にロシアとの領土交渉においては、安政6年（1859年）に東シベリア総督ニコライ・ムラヴィヨフ＝アムールスキーが軍艦を率いて江戸湾に来航し、樺太全島の領有を主張した際、幕府は外国事務掛であった胤統と酒井忠毗を通して、この要求を退けることに成功しました。また、第14代将軍徳川家茂と皇女和宮の婚姻を進める上でも中心的な役割を果たし、和宮の関東への御下向時には婚姻大礼御用掛としてその任に当たっています。

さらに安政元年（1854年）には内海台場築造用掛（お台場の建設担当）を拝命。万延元年（1860年）4月15日には異例の城主格に昇進し、本丸造営御用掛に就任しました。同年5月には国益主法御用掛、外国貿易筋御用掛も兼任するなど、幕府の喫緊の課題であった国内産業振興や外国貿易に関する政策にも深く関与しました。

万延元年（1860年）3月3日、桜田門外の変が発生し、大老井伊直弼が暗殺されるという未曽有の事態が起こります。襲撃犯の一人である有村次左衛門は、深手を負い逃走が困難となったため、図らずも遠藤家屋敷の門前で自決を図りました。有村は遠藤家の藩邸内に収容されましたが、同日中に息を引き取ります。この結果、井伊直弼の首級が遠藤家の手に渡ることになり、直弼に対して必ずしも友好的ではなかった胤統ら遠藤家側と、首級の返還を求める井伊家との間で、同日夕方まで返還を巡る押し問答が繰り広げられるという一幕がありました。

万延元年（1860年）7月、老齢を理由に諸役を免ぜられましたが、翌文久元年（1861年）4月16日には軍制用掛・陸海軍備向として再び幕政に復帰します。同年7月15日には従四位下に昇叙され、7月19日には民部大輔に任ぜられました。これらの官位は、1万石クラスの大名としては極めて異例な高位であり、胤統に対する幕府の信頼の厚さを示すものでした。

文久3年（1863年）10月7日、老齢を理由に隠居を許され、家督を三男の胤城に譲って第一線から退きました。しかし、隠居後も幕府の信任は続き、元治元年（1864年）12月19日には中務大輔に遷任されています。

明治3年（1870年）9月25日に死去。享年78でした。

家系・血筋

遠藤家は東氏の末裔とされる譜代格の大名家ですが、胤統自身は特別な血筋を有していました。彼は徳川家康から数えて男系の7世孫に当たります。具体的には、家康の十一男である徳川頼房に始まり、松平頼泰、頼福、頼明、武元、そして戸田氏教を経て胤統に至る系譜です。また、遠藤家と戸田家には、郡上藩時代の遠藤家に戸田氏信の娘が嫁いだことに始まり、氏信の子である戸田氏西が甥の遠藤常春・常久父子を後見し、常久の死後、氏西の次男戸田氏成の養子とした胤親を改めて遠藤家の養子として三上藩主家を再興するなど、多重にわたる縁が存在していました。

家族

実父は戸田氏教、実母は乾氏（側室）です。養父は遠藤胤富でした。

正室は養父胤富の娘である恭寿院、継室は藤堂高嶷の娘である連です。

側室には小谷氏や平松氏がいました。

子女としては、側室小谷氏との間に三男の胤城、遠藤亀若、遠藤欽哉が生まれました。また、恭寿院との間に遠藤胤昌の正室、最上義昶の正室が生まれ、他に花風院、唯楽院といった娘がいました。

養子には松平義和の四男である遠藤胤昌がいます。

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