李矩

李矩（り く）

李矩（生年不詳 - 325年）は、西晋末期から五胡十六国時代にかけて活躍した人物です。字は世迴（せかい）。平陽（現在の山西省臨汾市付近）の出身。

生涯

若き日

李矩は若い頃から勇猛で剛毅な性格であり、策略にも長けていました。彼は、幼い頃から人をまとめ、計画を立てて指示を出すなど、大人びた一面を見せていました。成人すると平陽県の官吏となり、297年頃には、元の平陽県令を長安まで送り届ける任務に就きました。長安に到着すると、関中を鎮守していた梁王司馬肜に見出され、その配下である牙門に抜擢されます。

299年1月、氐族の指導者である斉万年が関中を荒らし回ると、李矩は積弩将軍孟観の討伐に参加し、大きな功績を挙げました。その功績により、東明亭侯に封じられます。その後、平陽に帰還して督護に任じられますが、平陽郡太守の宋冑は、自分の信任する呉畿にその職を譲りたいと考えていました。それを知った李矩は病と称して辞職します。呉畿は李矩の復職を恐れて暗殺を企てますが、李矩を救う者が現れたため、難を逃れます。

307年、東海王司馬越の命により、汝南郡太守袁孚と共に、洛陽の千金堨（せんきんがい）を修復しました。これにより、水路輸送が円滑になり、物資の流通が促進されました。

塢主（うしゅ）として

308年7月、漢（後の前趙）の皇帝劉淵が平陽に侵攻すると、多くの民は逃げ惑いました。しかし、李矩は日頃から郷里の人々からの信頼が厚かったため、彼らに推戴されて塢主となり、その集団を率いて滎陽（けいよう）に駐屯しました。その後、新鄭（しんてい）に移ると、司馬越から汝陰郡太守に任じられます。

311年6月、漢軍の攻勢により洛陽が陥落し（永嘉の乱）、中原は大飢饉に見舞われました。盗賊の侯都（こうと）らは人々を連れ去り、食料としていました。太尉荀藩（じゅんぱん）・衛将軍華薈（かけい）らは洛陽から逃亡する途中でしたが、多くの部下が侯都らの犠牲となりました。李矩は侯都を討伐して荀藩らを救出し、彼らのために住居を提供し、食料を供給しました。荀藩は密県に行台（臨時政府）を立てると、李矩を滎陽郡太守に任じました。李矩は離散した兵士や民を保護し、多くの人々が彼を頼って集まりました。飢饉や疫病が蔓延する中、李矩は難民の救済に尽力し、民衆から深く慕われました。

并州刺史劉琨（りゅうこん）が任じた河南尹魏浚（ぎしゅん）が荀藩らと今後の方針について協議するため軍議を開くと、李矩も招かれました。出発前、諸将は魏浚を信用できないとして夜間の訪問を諫めますが、李矩は「忠臣の心は一つである」として、魏浚の陣営を訪れました。そこで、荀藩や魏浚らと議論を交わし、親睦を深めました。

10月、漢の鎮東大将軍石勒（せきろく）が大軍を率いて侵攻してくると、李矩は老人や弱者を山に避難させ、牛馬を放ち、伏兵を設けて敵を待ち受けました。石勒の兵士たちは牛馬を奪い合いますが、そこで李矩は伏兵を出撃させ、敵軍を打ち破りました。石勒は撤退を余儀なくされました。

荀藩は琅邪王司馬睿（後の東晋の元帝）に李矩の功績を報告し、李矩は冠軍将軍（かんぐんしょうぐん）に任じられ、軺車（しょうしゃ）・赤幢（せきどう）・曲蓋（きょくがい）の使用を許可されました。また、陽武県侯（ようぶけんこう）に封じられ、河東郡・平陽郡太守を兼任しました。

当時、長安を荒らしていた盗賊が東へ進出し、略奪を繰り返していました。李矩のいる新鄭にも賊が到来すると、李矩は兵を派遣して賊を討伐し、捕らえられていた婦女千人余りを救出しました。諸将は人員不足を補うために彼女らを留めようとしましたが、李矩は「彼女らは国家の臣民である」として、彼女らを長安に帰しました。

郭黙（かくもく）の救援

314年6月、劉琨が任じた河内郡太守郭黙が漢軍に包囲され、李矩に救援を求めました。李矩は甥の郭誦（かくしょう）を派遣して迎え入れようとしますが、郭黙は漢軍を恐れて進むことができませんでした。その後、西晋の首都長安が漢軍に攻撃されると、劉琨は参軍張肇（ちょうちょう）に鮮卑（せんぴ）の騎兵を率いて救援に向かわせますが、郭黙が包囲されていたため進むことができず、邵続（しょうぞく）の下へ向かおうとします。その途中、張肇は李矩の陣営を通りかかり、郭黙の窮状を伝えました。李矩は「黙は劉公（劉琨）が任命したものではあるが、国家のためには見過ごすことはできない」として、郭黙救援を決意しました。匈奴屠各種（きょうどとかくしゅ）は鮮卑を恐れていたため、李矩は張肇に援護を要請し、張肇もこれに応じました。李矩が救援に駆けつけると、漢軍は鮮卑兵を見て戦わずして逃走しました。

劉暢（りゅうちょう）撃破

317年2月、漢の将軍劉暢が歩兵と騎兵3万を率いて李矩討伐に向かい、李矩の陣営から7里の距離にある韓王の古砦に駐屯し、使者を派遣して李矩に降伏を勧めました。劉暢軍は突然の来襲であったため、李矩は防御の準備が間に合わず、使者を送って偽りの降伏をすると共に、精鋭兵を隠し、老兵や弱兵のみを見えるように配置しました。劉暢はこれを信じて油断し、配下の将校と共に宴会を開き、みな酔いつぶれてしまいました。李矩は夜襲を計画しますが、配下の兵は敵の大軍を恐れていました。そこで李矩は郭誦に命じ、鄭の宰相子産の祠へ参らせ、「神兵が協力する」と言わせました。将兵はこれを聞くと勇み立ち、先を争って進軍しました。李矩は郭誦と督護楊璋（ようしょう）らに勇士を与え、劉暢の陣営を夜襲させました。これにより数千人を討ち取り、劉暢は命からがら逃げ延びました。

劉粲（りゅうさん）撃破

318年3月、漢の皇太子劉粲は将軍劉雅（りゅうが）を始めとする歩騎10万を率いて趙固討伐に向かいました。劉粲は小平津（しょうへいしん）の北岸に駐屯し、劉雅に兵を与えて洛陽を攻撃させました。趙固は抗しきれずに陽城山（ようじょうざん）に逃亡し、弟を派遣して李矩に救援を要請しました。李矩は郭黙・郭誦を派遣して洛口に駐屯させ、劉粲軍を打ち破りました。

東晋の元帝（司馬睿）は李矩の功績を称え、都督河南三郡諸軍事・安西将軍・滎陽郡太守に任じ、修武県侯に封じました。その後、さらに都督司州諸軍事・司州刺史に昇進し、平陽県侯に改封されました。

後趙（こうちょう）との抗争

319年6月、後趙の将軍石生（せきせい）は陽翟（ようでき）の郭誦を襲撃しましたが、郭誦は伏兵を設けてこれを破りました。その後も石生は郭誦を攻撃しましたが、敗北を喫しました。

320年2月、前趙の弘農郡太守尹安（いんあん）らは洛陽を占拠していましたが、互いに不和を生じていたため、李矩は郭黙と共に兵を洛陽へ侵入させました。その後、尹安らが後趙に降伏の使者を送ると、石生が洛陽へと到来したので、李矩らの兵は撤退しました。その後、尹安らは後趙にも背き、李矩に使者を派遣して救援を乞うと、李矩は郭黙に兵を派遣して洛陽へ入らせました。

324年1月、後趙の司州刺史石生は陽翟を襲撃しましたが、郭誦はこれを大破し、石生を康城（こうじょう）に撤退させました。後趙の汲郡内史石聡（せきそう）は石生の敗戦を聞いて救援に向かい、李矩・郭黙はこれを迎え撃ちましたが敗れました。

郭黙が豫州刺史祖約（そじゃく）を攻撃しようとすると、李矩はこれを止めようとしましたが、郭黙は従わずに出兵して祖約に敗れました。

最期

325年5月、後趙の将軍石生が洛陽に駐屯すると、河南の地を大々的に掠奪しました。李矩・郭黙はこれに幾度も敗れて食糧難に陥ると、郭黙は再び前趙に降るよう李矩を説得しました。遂に李矩は郭黙の計に従う事を決断し、前趙皇帝劉曜（りゅうよう）の下へ使者を送りました。

その後、李矩は南方へと逃れて東晋に帰順しようとしましたが、その兵は道中で散り散りとなってしまい、郭誦ら100人余りだけが付き従いました。しかし、魯陽県に至ったところで、李矩は落馬して亡くなりました。襄陽の峴山（げんざん）に葬られました。

参考文献

『資治通鑑』「晋紀」巻87 - 巻93
『晋書』巻63　列伝第33

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