鄭衆 (大司農)

鄭衆（てい しゅう）

鄭衆は、後漢初期に活躍した儒学者・政治家であり、字は仲師と称しました。彼は古文の経典研究に励み、特に『周礼』の注釈においてその名を知られています。大司農の官職を務めたことから、鄭司農とも呼ばれました。後世の学者である鄭玄と区別するために、鄭衆を先鄭、鄭玄を後鄭と呼ぶこともあります。

生涯

鄭衆の父である鄭興は、古文経学の学者として知られ、王莽の時代には劉歆に才能を認められました。その後、更始帝、隗囂、光武帝に仕え、太中大夫にまで昇進しました。後漢における『春秋左氏伝』の学は、主に鄭興と賈逵によって発展し、「鄭賈の学」と称されました。

鄭衆は12歳で父から『春秋左氏伝』を学び、三統暦や『詩』、『易』にも通じていました。馬融によれば、鄭衆は杜子春から『周礼』を学び、その注釈を著しました。

永平8年（65年）、北匈奴が後漢に和親を申し入れた際、当時越騎司馬であった鄭衆が匈奴への使者として派遣されました。鄭衆は単于に対して拝礼を拒否したため、幽閉され服従を強要されましたが、刀を抜いて屈しないことを誓い、解放されました。

この時、鄭衆は南匈奴の須卜骨都侯が北匈奴と密かに連絡を取り合っていることを察知し、その情報を上奏しました。この上奏が認められ、度遼営が設置されることとなりました。

帰国後、鄭衆は北匈奴の和親申し入れが南匈奴を漢から離反させるための計略であると主張しましたが、明帝はこれを聞き入れず、再び鄭衆を使者として派遣しようとしました。鄭衆は以前の派遣で単于の恨みを買っているため、再び行けば殺されるだろうと訴えましたが、許されませんでした。匈奴へ向かう途上でも再三にわたり反対の上奏を行ったため、投獄されました。その後、釈放され官職を失い、故郷に戻りました。

その後、明帝は匈奴からの使者との謁見の際、鄭衆が単于に屈しなかった勇敢さが蘇武にも劣らないと匈奴で話題になっていることを知り、再び鄭衆を軍司馬に任命しました。鄭衆は虎賁中郎将の馬廖と共に車師を攻撃し、敦煌で中郎将となりました。後に武威太守、左馮翊と昇進し、建初6年（81年）には大司農の官職に就きました。

鄭衆は『費氏易』、『毛詩』、『周礼』、『春秋左氏伝』などの注釈を著しましたが、いずれも早くに失われました。しかし、鄭玄の『周礼』注には鄭衆の説が多数引用されており、その学説の一端をうかがい知ることができます。また、『国語』の注も書いており、韋昭が引用しています。

後漢末の鄭泰・鄭渾は鄭衆の玄孫にあたります。

評価

鄭衆が匈奴に屈しなかった故事は広く知られており、『蒙求』にも蘇武と並んで「蘇武持節、鄭衆不拝」と記されています。日本の『十訓抄』にも忠臣の代表として取り上げられています。

馬融は『春秋左氏伝』の注を著すにあたり、先行する鄭衆と賈逵の注を読みましたが、「賈逵は詳しいが広くなく、鄭衆は広いが詳しくない。（両者を読めば）詳しくてかつ広いものが既にあるのに、自分が何を付け加えることがあろうか」と言って注釈を止めたと伝えられています。

また、馬融によれば、『周礼』の注は賈逵のものが有名で鄭衆のものは普及していませんが、鄭衆のほうがより正確であると評価しています。

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