野方村

野方村（のがたむら）

野方村は、かつて鹿児島県囎唹郡に存在した村です。その領域は、現在の鹿児島県大崎町の一部、志布志市有明町の一部、そして曽於市大隅町の一部に分かれています。ここでは、野方村の歴史、地理、産業、地名、そして現代に至るまでの変遷について詳しく解説します。

地理

野方村は、鹿児島県庁から東へ約65km、宮崎県庁からは都城経由で約70kmの位置にありました。東西は約4km、南北は約8kmの範囲に広がっており、全体的に起伏に富んだ地形が特徴です。平坦な土地は荒佐野地区にわずかに見られる程度でした。菱田川水系の大鳥川が東に流れ、大隅町月野や西志布志村伊崎田との境界を形成していました。

明治初期の土地利用状況を見ると、田が約78町、畑が約755町と、畑地が圧倒的に多く利用されていました。畑地はシラス台地に位置しており、灌漑も行われていましたが、干ばつには弱い土地でした。

人口

1880年頃の野方村の人口は1,973人（男性1,017人、女性956人）、世帯数は440世帯でした。そのうち士族は278人（64世帯）を占めていました。1891年の自治体としての野方村成立時の人口は約1,800人でした。その後、人口は増加を続け、以下のように推移しました。

1911年12月末：3,191人（659世帯）
1920年10月1日：3,834人
1925年10月1日：4,032人（919世帯）
1930年10月1日：4,423人
1935年10月1日：4,734人
1946年4月26日：5,672人（1,084世帯）

産業

1880年頃には、ほぼすべての世帯が農業に従事していました。また、牛馬の売買を行う世帯も20戸ありました。

地名

『日向地誌』によると、明治初期（1880年頃）の野方村には以下のような字地がありました。

鍋：野方村の東に位置し、6世帯。
山重：鍋から北西に約600m、13世帯。現在の志布志市有明町山重。
平野：山重から北西に約800m、23世帯。現在の志布志市有明町山重の一部。照日神社の旧所在地。
上別府：平野から西に約900m、12世帯。
大迫：上別府から北西に約500m、8世帯。
荒谷：大迫から北西に約1.2km、38世帯。現在の曽於市大隅町荒谷。
水ノ谷：荒谷から南西に約1.5km、48世帯。
塗木：水ノ谷から南西に約1.2km、8世帯。
中組：塗木から南東に約1.4km、30世帯。戸長役場が置かれていた。
仮屋ヶ谷：中組から南東に約1.7km、20世帯。
篠谷：仮屋ヶ谷から南に約1.4km、18世帯。
鎌ヶ宇土：篠谷から西に約1.4km、7世帯。
荒佐野：鎌ヶ宇土から西に約1.4km、57世帯。照日神社（旧伊勢神社）の所在地。
福岡：荒佐野から西に約1.8km、14世帯。
立小野：福岡から南に約4km、40世帯。
黒石：立小野から東に約2km、11世帯。

隣接していた村

野方村は、以下の村と隣接していました。

東：諸県郡志布志郷月野村（現曽於市大隅町）、諸県郡志布志郷伊崎田村（現志布志市有明町）
北：曽於郡恒吉郷大谷村（現曽於市大隅町）
北西：曽於郡市成郷諏訪原村（現鹿屋市輝北町）
西：肝属郡百引郷平房村（現鹿屋市輝北町）
南西：肝属郡百引郷竹下村（現鹿屋市輝北町）、肝属郡高隈郷下高隈村（現鹿屋市）
南：諸県郡大崎郷持留村（現大崎町）、諸県郡志布志郷蓬原村（現志布志市有明町）、肝属郡串良郷細山田村（現鹿屋市串良町）

主要地までの距離・方角

『日向地誌』によると、野方村から主要地までの距離と方角は以下の通りでした。

北西：霧島市福山町 - 約30km
北：曽於市大隅町岩川 - 約6km
北：都城市 - 約24km
北東：日南市飫肥 - 約56km
南：大崎町役場付近 - 約8km
南東：志布志市志布志町 - 約12km
東：串間市 - 約26km

歴史

近世以前

廃藩置県までは、日向国諸県郡大崎郷野方村でした。中世以降、肝付氏、新納氏、島津氏、肝付氏を経て、天正期に島津氏の領地となりました。江戸時代には大崎郷（外城）内の一村でした。

荒佐の開拓

荒佐集落は、元禄期に摂津国・和泉国から約240人が移住し開拓したのが始まりです。この時、伊勢神社（現在の照日神社）が勧請されました。

近現代

廃藩置県後、野方村は鹿児島県、都城県、宮崎県、そして再び鹿児島県に所属が変わりました。1883年の宮崎県再置により、諸県郡が南北に分割されました。

1889年4月1日、町村制施行に伴い、大崎郷内の10村が合併して南諸県郡大崎村が成立しました。野方村は大崎村の大字「野方」として残されました。

大崎村からの分立

1891年2月または8月8日に、野方村は大崎村から分立し、単独の自治体となりました。これは、大崎村が広大であったことや、麓集落の士族による支配への反発が理由でした。特に、照日神社の社掌職を巡る対立が分立のきっかけとなりました。1895年、瀬戸貞行が5代村長に就任し、真の意味で野方村が独立しました。

分割・3町村への編入

昭和の大合併で、野方村は他の3村と合併する計画がありましたが、村内の小学校区ごとに意見が分かれました。荒谷小学校区は大隅町へ、山重小学校区は西志布志村へ、野方小学校区と立小野小学校区は大崎町への合併を希望しました。1955年3月8日、村議会は3地区への分割・編入を決定し、同年4月1日に野方村は廃止されました。

また、野方村の分割に伴い、鹿児島県は飛地の解消を提案しましたが、各地域の強い反対により実現しませんでした。

平成の大合併では、大崎町は単独で町制を維持し、有明町は周辺2町と合併して志布志市となり、大隅町も周辺2町と合併して曽於市となりました。

交通

道路

1955年当時は、村内を通過する国道はありませんでした。1963年に主要地方道都城鹿屋線が二級国道指宿宮崎線（国道269号）に昇格し、1965年に一般国道269号となりました。

国道269号
鹿児島県道64号大崎輝北線
鹿児島県道72号垂水大崎線

脚注

当項目で「1880年ごろ」と記載されている事項については、注釈がない限り『日向地誌』（平部嶠南、1884年）によるものです。

参考文献

平部嶠南 『日向地誌』 1884年。
澤田久雄・編 『日本地名大辞典 第1巻（ア-エ）』 日本書房発行、平凡社発売、1937年。
鹿児島県総務部参事室編『鹿児島県市町村変遷史』 鹿児島県、1967年。
大崎町役場『大崎町史（明治百年）』1975年。
* 『角川日本地名大辞典 46 鹿児島県』 角川書店、1983年。

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