長坂光堅

長坂虎房（ながさか とらふさ）

長坂虎房は、戦国時代から安土桃山時代にかけての武将で、甲斐武田氏の家臣でした。譜代家老衆として、武田家中で重要な地位を占めました。小笠原氏の庶流にあたり、出家後の名は釣閑斎（ちょうかんさい）です。別名として頼広（よりひろ）とも呼ばれ、「釣閑斎光堅」と名乗ることもありました。ただし、「長閑斎」という表記は、同時代の別人である今福長閑斎を指すとする説が有力です。

生涯

永正10年（1513年）に生まれたとされる長坂虎房は、武田信虎から晴信（後の信玄）へと当主が代わる頃から史料に登場します。当初は足軽大将として、天文12年（1543年）には諏訪郡代の板垣信方を補佐し、上原城（長野県茅野市）に入城しました。天文17年（1548年）の上田原の戦いで板垣信方が戦死すると、後任として諏訪郡司となり、翌年には諏訪支配の拠点となる高島城（長野県諏訪市）へ移りました。

北信地域を巡る上杉氏との争いが激化すると、長坂虎房は跡部信秋らとともに、現地の国衆である香坂氏のもとへ派遣されました。また、この頃には、嫡男の昌国（源五郎）と真田幸綱（幸隆）の娘との縁組も行われ、武田家臣団との関係を深めています。外交面でも活躍し、遠江の国衆である天野景泰への使者を務めるなど、武田家の重要な外交官としても活躍しました。

弘治3年（1557年）の第三次川中島の戦いでは、越後上杉謙信の侵攻に備えて北信地域の探索を命じられ、奉行人としても活動しています。永禄2年（1559年）に武田晴信（信玄）が出家すると、これに倣い長坂虎房も出家し、釣閑斎と称しました。永禄5年（1562年）には、信玄の四男である勝頼が高遠城主となると、そのことを武田家嫡男である武田義信に伝える使者も務めています。

信玄の死後、勝頼が跡を継ぐと、長坂虎房は武田信豊や跡部勝資とともに、勝頼に重用されました。

『甲陽軍鑑』によれば、長篠の戦いにおいて、長坂虎房（頼広）は、他の宿老たちが撤退を進言する中で、攻撃を主張し、武田軍が惨敗する原因を作ったとされています。しかし、長篠の戦いの前日付けで、「長閑斎」宛の勝頼書状が存在しており、この「長閑斎」は別の人物である可能性が高いとされています。この書状からは、長坂虎房が長篠の戦いに参陣していなかった可能性が指摘されています。

また、『軍鑑』では、上杉謙信の死後、御館の乱で勝頼が上杉景勝から資金援助を受けた際、釣閑斎がその一部を横領したという記述があります。しかし、当時の上杉氏との交渉は、小諸城将の武田信豊が担当しており、この記述には信憑性が低いとする見解もあります。

天正10年（1582年）の織田信長・徳川家康連合軍による武田領侵攻（甲州征伐）の際、勝頼は新府城を放棄し、小山田信茂を頼るも、信茂の裏切りにあい、自害して武田家は滅亡します。長坂虎房は甲府に残留し、息子の昌国とともに織田信忠に捕縛され処刑されたとされています。『信長公記』では、勝頼に従い戦死したとも伝えられています。

享年は70歳とされています。

人物像

長坂虎房は、武田家中で重要な役割を担い、その生涯は武田氏の盛衰とともにありました。外交や軍事、内政にも関与し、武田家を支える重要な人物であったと言えるでしょう。

脚注

1. 『高白斎記』
2. 『戦国遺文武田氏編』
3. 『甲陽軍鑑』
4. 『甲乱記』
5. 『信長公記』

参考文献

* 丸島和洋「長坂虎房」柴辻俊六・平山優・黒田基樹・丸島和洋編『武田氏家臣団人名辞典』東京堂出版、2015年

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