長谷川章

長谷川章（はせがわあきら、1900年 1月6日 - 1987年 8月13日）は、大正から昭和にかけて活躍した囲碁棋士です。東京に生まれ、長野敬次郎門下で方円社、後に日本棋院に所属し、名誉八段に昇りました。首相杯争奪高段者トーナメントで優勝、本因坊戦リーグに4期参加するなど、数々の実績を残しました。得意とした「目外し」の手法や、軽く足早な棋風で知られています。また、トーチカ戦法やナダレ定石の考案者としても、その名を囲碁史に刻んでいます。1975年から1978年まで日本棋院理事長を務めた後、日本棋院顧問となりました。

経歴

東京の麹町で生まれた長谷川は、旅館を経営していた父を13歳で亡くし、伊藤源次郎四段に内弟子として入門しました。1年後には方円社の長野敬次郎に入門。1917年に入段を果たしました。二段時代の1920年には、若手棋士の研究会である六華会に参加し、また近所に住んでいた本因坊秀哉とは指導碁の相手や麻雀仲間として親交を深めました。その後、三段に昇段。六華会で知り合った宍倉佳子と結婚しました。

1924年の碁界大合同で日本棋院に所属し、翌年には四段に昇段。棋正社との院社対抗戦では、雁金準一に二子で勝利し、1人抜きを達成しました。1931年に四段で大手合甲組優勝、次の大手合で五段に昇段。1939年には報知新聞社の5人抜き戦で、藤沢庫之助、木谷實、関山利一、村島誼紀、岩本薫を相手に5人抜きを達成しました。1941年に六段、1944年には七段へと昇段しました。

戦争中は伊東に疎開していましたが、戦後の1946年に大手合から復帰。同年の日本棋院新体制では理事に就任し、岩本薫、村島誼紀らと共に日本棋院の再建と新開館建設に尽力しました。長谷川の後援会長であった津島寿一が日本棋院理事長となったことも、大きな支えとなりました。1949年には第5期本因坊戦の六・七段級予選を勝ち抜き、挑戦者決定リーグ入りを果たし、4勝2敗で橋本宇太郎に次ぐ2位となりました。続く第6期の挑戦者決定リーグでも、3勝2敗で木谷実、坂田栄男と同率決戦となりましたが、坂田に敗れました。その後も、第7期、第10期の本因坊戦リーグに参加しました。1953年の最高位決定戦では、最高位リーグ順位7位で参加。1959年には首相杯争奪戦で優勝し、高川格本因坊との記念碁にも勝利しました。この年は13勝4敗という好成績を収めました。1961年には囲碁選手権戦で準決勝に進出し、高松宮賞を受賞しました。

1964年に行われた浩宮徳仁親王の深曽木の儀では、日本棋院から寄贈された碁盤を東宮御所囲碁指南役として検分する役目を務めました。

日本棋院棋士会長、審査役会常任審査役も務め、1965年3月に引退、名誉八段を贈られました。

1975年には名人戦の朝日新聞移管問題による有光次郎理事長辞任の後を受け、日本棋院理事長に就任。読売新聞との訴訟の中で、和解案である棋聖戦創設を実現しました。1978年に理事長を辞任し、顧問となりました。東宮御所での囲碁師範を務める傍ら、『週刊碁』の発行を発案するなど、その活動は多岐に渡りました。

江戸っ子らしい性格で、スポーツ、清元、洋楽などを趣味としていました。そのおしゃれな人柄から「昭和の雄蔵」とも呼ばれ、文章では「槐堂」の号を用いていました。門下には中村秀仁がおり、次女は全日本女流アマチュア囲碁選手権大会優勝者の大石久子です。

主な棋歴

日本棋院対棋正社勝継手合 1927年 1-1（二子○雁金準一、先番×野沢竹朝、臨時碁先番×雁金準一）
大手合優勝 1931年前期甲組、1941年後期甲組
呉清源対講談社総当り十番碁 1949年 ×呉清源
呉清源対七、八段棋戦 1950年 ×呉清源
首相杯争奪高段者トーナメント優勝 1959年
囲碁選手権戦高松宮賞 1962年
本因坊リーグ4期（1949-1951、1954年）

受賞等

1973年大倉賞、勲四等旭日小綬章

棋風、手法

自身は「明るい碁風」「しのぐのが得意」と語り、目外しを得意としていました。新布石には同調しませんでしたが、その影響下で一間ジマリの勢力を働かせようという工夫から、「目外しをよく打っているうちにトーチカを考え出した」と言います。目外しから3手かけて隅を固める構えで、1隅に3手かけるのは布石に遅れる可能性もありますが、田中不二男との大手合では2隅にトーチカを打って優勢となり快勝しました。

またアマチュアの発想を元に、小目の一間ガカリからのナダレ定石を研究し、実戦で採用しました。

著作

『碁の打ち方』要書房 1953年
『囲碁近代戦法（「1 一間トビ定石」、「2 近代定石」）』日本棋院 1953-54年
『筋と形』東京創元社 1956年
『星の威力』日本棋院 1964年
『定石新戦法』誠文堂新光社 1964年
『長谷川詰碁120題』金園社 1967年
『妖刀という名の定石』日本棋院 1972年
『置石の生かし方』日本棋院 1975年

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