関口隆吉

関口隆吉：激動の時代を駆け抜けた幕臣、政治家、教育者

関口隆吉（せきぐち たかよし）は、天保7年（1836年）に江戸で生まれ、幕末から明治にかけて活躍した人物です。幕臣としてだけでなく、明治維新後は政治家として、そして教育者として、多岐にわたる分野でその才能を発揮しました。初代静岡県知事、第2代山口県知事を歴任し、静岡英和女学院の創立者の一人としても知られています。字は艮輔（ごんすけ）、号は黙斎。

生涯

少年期

関口隆吉は、天保7年（1836年）、江戸本所相生町で幕臣・関口隆船の次男として誕生しました。関口家は今川氏の一族である関口氏広の子孫で、父・隆船は佐倉村の池宮神社出身でした。天保10年（1838年）、父が与力に任ぜられたことに伴い、一家は牛込赤城町へ転居します。嘉永元年（1848年）には、斎藤弥九郎の練兵館に入門し、剣術を学びました。この時の塾頭は、後に長州藩で活躍する桂小五郎（木戸孝允）でした。

幕臣時代

嘉永3年（1850年）に元服し、15歳となった隆吉は、嘉永5年（1852年）に17歳で父の跡を継ぎ、御持弓与力となります。嘉永6年（1853年）には吉原守拙の門下で兵法を学びました。安政5年（1858年）、大橋訥庵に入門し、尊王攘夷思想に傾倒。久坂玄瑞や金子与三郎らとも交流がありました。安政6年（1859年）、武家の師である稲生虎太郎の娘と結婚しますが、翌年に死別します。文久2年（1862年）、御持弓与力の職を義弟に譲ります。これは、同年の坂下門外の変で老中・安藤信正が襲撃された事件に関与した疑いを避けるためでした。文久3年（1863年）には、山田宗弥の娘・睦（後に綾と改名）と再婚しました。

慶応3年（1867年）、開国論者である勝海舟の暗殺を企てますが、未遂に終わります。しかし、この事件をきっかけに海舟と親交を深め、海舟から「鐙斎（とうさい）」というニックネームを与えられ、親友となりました。同年の大政奉還を幕臣として迎えます。

明治維新

慶応4年（1868年）、徳川慶喜の警護役を務め、江戸城明け渡しにも立ち会いました。その後、市中取締役頭に就任し、勝海舟や山岡鉄舟らと協力して、徳川慶喜を駿河へ移すなど、幕末の混乱を収めるために尽力しました。明治3年（1870年）には、慶喜がいた遠州城東郡月岡村に移住し、金谷開墾方頭取として旧幕臣たちと共に牧之原台地の開墾と大茶園造成事業に着手しました。隆吉は月岡から牧之原まで馬で通っていたと伝えられています。

県令時代

明治4年（1871年）、廃藩置県に伴い明治政府に出仕し、三潴県権参事、置賜県参事を経て、第2代山形県権令（明治6年 - 明治8年）、第2代山口県県令（明治8年 - 明治14年）を歴任しました。山口県県令時代には、萩の乱を鎮圧し、「山口の賢県令」と称されました。明治14年（1881年）には、元老院議官に就任し東京へ移住。地方巡察使として一府五県の調査を行い、高等法院陪席判事を務めました。明治17年（1884年）から明治19年（1886年）には、第3代静岡県県令に就任。当時、出自に関わる県の県令には就任できないというルールがありましたが、隆吉の静岡県県令就任は異例のことでした。静岡県令時代は、治山治水事業に尽力し、遠州社山の隧道工事、沼川石水門の建築などを進めました。また、図書館「久能文庫」の創設も企画しました。

静岡県知事時代と最期

明治19年（1886年）、地方官官制公布により、初代静岡県知事に任命されました。為政者として図書活用の重要性を認識していた隆吉は、私費図書館である久能文庫の構想を打ち出しました。明治20年（1887年）には、静岡教会牧師の平岩愃保と共に、静岡県内初の女子教育機関である私立「静岡女学校」（現静岡英和女学院中学校・高等学校）を開校しました。初代校長はミス・M・J・カニンハムでした。

明治22年（1889年）4月11日、名古屋で行われた招魂祭への列席のため、自身が敷設に尽力した東海道線開通試運転の工事用貨物列車に併結された客車に乗車中、列車事故に遭遇し重傷を負いました。医師の所見では右足の切断を要する程の重症でしたが、隆吉はこれを拒み、感染症により同年5月17日に亡くなりました。

死後

隆吉の功績を称え、2020年1月17日にはJR菊川駅前に銅像が建立されました。また、静岡英和女学院は現在も静岡県内で女子教育を担う名門校として、その歴史を紡いでいます。

栄典

位階

1872年（明治5年）11月10日 - 従六位
1874年（明治7年）2月18日 - 正六位
1876年（明治9年）1月25日 - 従五位
1881年（明治14年）3月25日 - 従四位
1886年（明治19年）11月16日 - 正四位
1889年（明治22年）4月17日 - 従三位

勲章

1877年（明治10年）12月18日 - 勲四等
1882年（明治15年）2月10日 - 勲四等旭日小綬章
1882年（明治15年）10月28日 - 勲三等旭日中綬章
1887年（明治20年）7月21日 - 銀製黄綬褒章

親族

妻：睦（のちに綾と改名） - 茶道宗徧流正伝庵六世の山田宗弥の娘
長男：関口壮吉 - 浜松高等工業学校初代校長
二男：新村出 - 言語学者・文献学者。『広辞苑』編者
三男：加藤周蔵
四男：関口鯉吉 - 天文学者・気象学者
長女：関口操
次女：関口万寿
三女：関口八千
四女：関口比那
五女：関口伸子
六女：関口機子
七女：関口すゑ
* 操の聟養子：関口隆正 - 静岡女学校第3代校主・漢学者

逸話

静岡女学校創立の際、東洋英和女学院を視察した際、次女の万寿が同校の生徒であったことを知らずに訪問したという逸話が残っています。

関口隆吉は、幕末から明治という激動の時代を生き、政治家、教育者として日本の近代化に大きく貢献しました。その功績は、今もなお多くの人々に語り継がれています。

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