阿児町立神

三重県志摩市阿児町立神

阿児町立神（あごちょうたてがみ）は、三重県志摩市に位置する地域です。この地域は、真珠と海苔の養殖が盛んな漁業地域として知られていますが、かつては農業を主とし、大工を兼業する人々も多くいました。複雑な海岸線と豊かな自然環境が特徴で、独特の文化と歴史を今に伝えています。

地理

志摩市の中部に位置し、英虞湾に面したリアス式海岸が広がっています。海岸沿いには真珠養殖の作業場が点在し、陸地部は隆起した海食台地と谷が複雑に入り組んだ地形を形成しています。かれ松島、天童島などの島々や、西山半島、中山半島といった半島が特徴的です。集落は中央の台地から南に向かって広がり、農村のような景観が広がります。各戸の敷地は広く、マキの木に囲まれているのが特徴です。集落は北配、南配、西配、東配の4つに分かれ、さらに9つの組に分かれています。北は阿児町神明、東は大王町畔名、南は大王町波切と隣接しています。

岬としては、赤崎、ありヶ渡鼻など多数の岬が本土や島々に点在しています。これらの岬は、複雑な海岸線を作り出すとともに、豊かな漁場を形成しています。

歴史

古代から近世

天童島や土井ヶ原島からは縄文時代の遺跡が発見されており、古くから人が生活していたことがわかります。『神鳳鈔』には「立神御厨」とあり、鎌倉時代には伊勢神宮の神領でした。戦国時代には九鬼嘉隆による志摩国平定後、立神村は川面氏と青山氏の支配下に置かれました。江戸時代には鳥羽藩の支配下に入り、立神村は農業と漁業を基盤とした生活を営んでいました。村からは布施田村への移住もあったと記録されています。また、大工を兼業する人が多く、大和国の長谷寺観音堂修築の際には、立神村出身の長谷川忠左衛門が棟梁を務めました。漁業では、近隣の村と漁場争いをしながらも、多様な魚介類を獲っていました。

近代以降

1889年の町村制施行により立神村として独立しましたが、真珠養殖の導入が大きな転機となりました。1905年には御木本幸吉との間で、真珠養殖に関する契約が結ばれましたが、後に漁業権を巡る対立が生じました。村民は一致団結して御木本側と交渉し、最終的には漁業権を取り戻しました。この闘いは、立神村の強い結束力を示す出来事として知られています。

第二次世界大戦後、真珠養殖はさらに発展しましたが、乱立による漁場環境の悪化や不況に見舞われました。その後、ノリ養殖も導入され、漁業は多角化しました。2018年には、長年地域に貢献してきた立神小学校が閉校しました。

文化

円空と仏教文化

仏師の円空は、延宝2年（1674年）に立神村を訪れ、薬師堂に滞在しました。滞在中、円空は鉈彫り観音像を制作し、仏画を描き、村に伝わる大般若経を写経しました。円空の作風は、この滞在を機に変化したと言われています。

自治組織と祭り

1960年代には、東西南北の各配から選出された「九人衆」が中心となり、自治が行われていました。祭りは15歳から28歳の男性「青年」が中心となり運営され、宮座ごとに選出された祷屋が祭りを取り仕切っていました。

祭り

立神では、ひっぽろ神事、浅間祭、ささら踊りなど、独特の祭りが受け継がれています。ひっぽろ神事は、宇気比神社の獅子舞行事で、豊作を祈願する神事です。浅間祭は、立石に竹を奉納し、五穀豊穣を祈る祭りです。ささら踊りは、三重県指定無形民俗文化財であり、竹製の楽器を使った独特の踊りです。これらの祭りは、地域の伝統と文化を今に伝える重要な役割を担っています。

産業

立神の主な産業は漁業で、特に真珠と海苔の養殖が盛んです。農業は自給的なものが中心で、小売業やサービス業も地域住民の生活を支える程度に行われています。近年は、建設業従事者も比較的多く、これはかつて大工として出稼ぎに出ていた伝統の名残と考えられます。2015年の国勢調査によると、就業者の多くが漁業、医療・福祉、卸売業・小売業に従事しています。

農業

立神の農業は小規模で、米やサツマイモ、茶などが主な農産物です。自給用の生産が中心で、大規模な農業は行われていません。

漁業

立神の漁業は、沿岸漁業と海面養殖業が中心です。特に、ノリ養殖と真珠養殖が盛んで、漁船の多くは沿岸での漁業や養殖に使われています。漁業就業者は144人で、地域経済を支える重要な産業です。

地名の由来と立石

地名の由来は、海中に立つ大きな石を神として祀ったことに由来します。この石は立石明神と呼ばれ、皮膚病治癒の信仰があります。立石は、高さ2mと0.6mの2つの石からなり、立石神社の神体として、毎年注連縄が張り替えられます。この立石は地域の人々にとって、特別な存在です。

人口の変遷

近代の立神村では、村内分家を許さなかったため、戸数は大きな変動がありませんでした。近年は、志摩市全体の人口減少傾向と同様に、立神の人口も減少していますが、減少率は市平均よりも低い状況です。高齢化率は市平均よりも高く、地域社会の高齢化が進んでいます。

交通

立神は、幹線道路からやや離れた場所に位置しており、公共交通機関は路線バスが利用できます。最寄りの鉄道駅は近鉄志摩線志摩神明駅で、そこからバスでアクセスすることになります。主要道路は国道260号で、集落へのアクセス道路として志摩市道中学校が利用されています。

施設

立神には、立神ふれあいセンター、立神保育所、立神郵便局などの施設があります。また、企業としては、クリーニング業のイーストブルーや椅子製造のサンコウの本社、太陽光発電所のソフトバンク三重志摩阿児ソーラーパークなどが立地しています。

史跡

宇気比神社は、立神の鎮守であり、多くの神様が合祀されています。見性山少林寺と正宝山本福寺は、歴史ある寺院で、円空作の鉈彫観音像が安置されています。

まとめ

阿児町立神は、真珠養殖と豊かな自然に恵まれた地域であり、歴史と伝統文化が色濃く残っています。独自の祭事や地域文化、住民たちの強い結束力が、この土地の魅力を形作っています。今後もこの文化と伝統が受け継がれていくことが期待されます。

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