霊太后

霊太后（胡氏）：北魏を揺るがした女性

霊太后（? - 528年）は、北魏の第7代皇帝、宣武帝の側室であり、第8代皇帝、孝明帝の生母として知られています。姓は胡氏。父は司徒の胡国珍。霊太后は、その聡明さと政治的手腕で北魏後宮から権力の頂点へと上り詰めましたが、その波乱に満ちた生涯は、北魏の政争と深く結びついています。

生涯

安定郡臨涇県（現在の甘粛省慶陽市鎮原県）出身の胡氏は、後宮に入り、その聡明さから宣武帝の寵愛を受け、充華（側室）となりました。仏教を深く信仰していたことも知られています。

当時の北魏後宮には、皇子が立太子されると、その生母に死を賜るという慣習が存在しました。そのため、妃嬪たちは皇女の出産を願うことが常でした。しかし、胡氏は自ら皇子の出産を祈願し、後の孝明帝となる元詡を産みました。その後、この悪習は宣武帝によって廃止されましたが、それが後に皇太后が権力を握り、政治を壟断するという新たな問題を引き起こすことになります。

孝明帝の即位後、胡充華は皇太妃、そして皇太后へと昇りつめ、臨朝聴政（摂政）を開始します。しかし、その政治手腕は必ずしも安定していたとは言えず、一時的に北宮に閉居させられることもありました。正光6年（525年）には、宦官が実権を掌握し、臣下間の政権争いが激化すると、再び政権を掌握しました。

父である胡国珍が亡くなると、その供養のために洛陽の永寧寺に九層の大塔を建立しました。このことがきっかけとなり、北魏の都、洛陽には寺院が乱立する事態を招きました。

武泰元年（528年）、孝明帝が急逝します。一説には、孝明帝が爾朱栄を頼ろうとしたため、霊太后が毒殺したとも言われています。孝明帝には男子がいなかったため、霊太后は帝の唯一の子であった皇女を男と偽って皇太子とし、即位させます。しかし、すぐにこの偽装が発覚し、皇女はわずか1日で廃位。代わりに孝明帝の従甥にあたる元釗を帝位に就けました。

このような目まぐるしい帝位の交代は、天下を大いに混乱させました。将軍の爾朱栄は、霊太后の欺瞞を疑い、兵を挙げて洛陽に侵攻。幼主と霊太后を捕らえ、孝荘帝を擁立しました。そして、爾朱栄は霊太后と幼主を河陰に連行し、黄河に沈めて殺害しました（河陰の変）。

死後

霊太后の遺骨は、妹である馮翊郡君胡玄輝（元叉の妻）によって双霊寺に埋葬されました。後に、高歓が爾朱氏を破った後、皇后の礼で改葬され、「霊」と諡されました。

エピソード

孝文帝の息子である汝南王元悦が、些細な事で妃嬪をしばしば鞭打つことがありました。正妻の閭氏は、元悦の暴行による傷が原因で病に伏し、別居するに至りました。霊太后はこの事を知ると、妃に対する鞭打ちを禁じ、諸王の正妃で百日以上の疾患がある場合は全て報告させることを定めました。さらに、鞭打ちを加える者は爵位を剥奪すると宣告しました。

霊太后は、その政治手腕と激しい生涯を通して、北魏の歴史に大きな足跡を残しました。彼女の行動は、後世に様々な議論を呼び起こし、北魏の政治史を語る上で欠かせない存在となっています。

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