風巻景次郎

風巻景次郎：明治から昭和期の国文学者

風巻景次郎(1902-1960)は、日本の国文学を代表する学者の一人です。兵庫県に生まれ、生後間もなく京都で養子となりました。生母方の祖母は林子平の妹という血縁関係を持ち、養父は横浜火災保険会社の支店長を務めるなど、恵まれた環境で育ちました。

幼少期は大阪で過ごし、のちに愛知県立第一中学校、第八高等学校を経て、1926年に東京帝国大学国文科を卒業します。大学時代はYMCAに寄宿し、石井直三郎らと歌誌『青樹』を刊行するなど、活発な活動を行いました。同級生には池田亀鑑、塩田良平、森本治吉、西下経一といった著名な学者も含まれていました。

卒業後は大阪府女子専門学校(現大阪府立大学)の教授に就任。その後、長野県女子専門学校(現長野県立大学)へと移り、1932年には大松春子と結婚します。1935年には病気のため依願退職し上京、吉祥寺に居住。この頃から埴谷雄高らとも親交を深めました。

上京後は日本大学、日本体育会体操学校(現日本体育大学)、二松学舎大学などで講師を務め、佐佐木信綱の支援により『新古今時代』を出版します。また、藤村作の助力により東京音楽学校(現東京芸術大学音楽学部)の講師にも就任しました。

1938年には東京音楽学校教授となり、西郷信綱、丸山静、角川源義ら、若い世代の学者や音楽家との交流を深めます。1942年には文部省勤務を経て、1944年には清水高等商船学校(現東京海洋大学海洋工学部)教授に就任。さらに大東亜省海外派遣教員として、奥野信太郎、阿部知二らと共に北京輔仁大学に赴任しました。敗戦により帰国後は、近藤忠義の紹介で法政大学講師を務めた後、北海道大学教授に就任します。

北海道大学では11年間、構内官舎で暮らしました。九州大学や慶應義塾大学からの誘いもありましたが、教授会の留任運動により断念。このことが高血圧を悪化させる一因となったと言われています。1957年には同大学附属図書館長に就任。1958年には関西大学教授に転任し、翌年には『新古今時代』により文学博士号を取得します。しかし、その直後に心筋梗塞で急逝しました。

風巻景次郎の業績

風巻景次郎の専門は日本中世文学です。代表作『中世の文学伝統』は、明治期以降主流であった『万葉集』重視、『古今[[和歌集]]』『新古今[[和歌集]]』軽視の風潮に反旗を翻し、鎌倉幕府時代の宮廷における和歌を中心とする文学伝統を高く評価しました。

この研究は、昭和初期における中世文芸の見直しに大きく貢献し、谷崎潤一郎『吉野葛』、保田與重郎『後鳥羽院』といった作品にも影響を与えたと言われています。また、南朝正統論とも相まって、昭和戦前の文化全体に大きな影響を与えました。風巻の『古今』『新古今』の見直しは、昭和後期の大岡信、梅原猛、菱川善夫らによって引き継がれ、現代の文学研究にも影響を与え続けています。

北海道大学では、法文学部の期成会後援会の結成に尽力し、募金活動にも奔走しました。東京音楽学校在職中から校歌や歌曲の作詞を積極的に行い、北海道の多くの公立高等学校の校歌も手掛けています。晩年には、岩波書店「日本古典文学大系29」で西行『山家集』の校注を担当しました。

著作・全集

風巻景次郎は数多くの著作を残しています。代表的な著書として、『新古今時代』『文学の発生』『中世の文学伝統』『日本文学史の構想』などがあります。また、『風巻景次郎全集』全10巻も刊行されています。これらの著作は、現在も多くの研究者によって参照され、高く評価されています。

まとめ

風巻景次郎は、学者として、教育者として、そして作詞家として、多方面で活躍した人物でした。彼の研究は、中世文学研究に大きな足跡を残し、現在もその影響は続いています。多様な才能と旺盛な活動は、後世の研究者や文化人たちに大きな刺激を与え続けるでしょう。

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