高千穂鉄道高千穂線

高千穂線の概要

高千穂線は、宮崎県延岡市の延岡駅から西臼杵郡高千穂町の高千穂駅を結んでいた、かつての高千穂鉄道の鉄道路線です。この路線は、旧国鉄の特定地方交通線を転換して開業し、五ヶ瀬川に沿って延岡市と神話の里・高千穂町を結ぶ役割を担っていました。

特に、深角 - 天岩戸間に位置する高千穂橋梁は、水面からの高さが105mもあり、日本一高い鉄道橋として知られていました。旧国鉄時代から、この橋梁上では乗客に眺望や高さを楽しんでもらうため、徐行運転が行われていました。

しかし、2005年9月の台風14号による豪雨で、第一五ヶ瀬川橋梁と第二五ヶ瀬川橋梁が流失。これにより、路線全体が甚大な被害を受け、運行が休止されました。復旧には多額の費用がかかることから、宮崎県や沿線自治体が復旧費用の負担に難色を示し、高千穂鉄道は復旧・運行再開を断念、全線廃止という決断に至りました。2007年9月には延岡 - 槇峰間が、翌2008年12月には槇峰 - 高千穂間も廃止され、全線がその役割を終えました。

復活への動きと現状

廃止後、民間の企業や団体による復旧・運行再開の検討が行われました。高千穂町の観光・商工関係者らが「神話高千穂トロッコ鉄道」を設立し、部分的な運行再開を目指しましたが、鉄道事業としての再開は断念。その後、廃線跡を公園として活用し、保存鉄道を運営する方針に転換し、会社名を「高千穂あまてらす鉄道」と改称しました。

現在、高千穂あまてらす鉄道は、高千穂駅 - 高千穂橋梁間（高千穂町内）で、スーパーカート（軌道自転車）による遊具としての定期運行を行っています。これにより、高千穂線の遺構を活かした観光資源としての活用が図られています。

車両の保存と活用

高千穂線で使用されていた車両の一部は、解体されましたが、多くの車両が静態保存されています。高千穂駅構内には2両、日之影温泉駅には2両、高千穂線未成区間のトンネルの駅には2両が保存されています。また、JR九州に売却された2両は特急「海幸山幸」として、阿佐海岸鉄道に譲渡された1両はASA-300形として活用されました。高千穂駅では、現在TR-202を利用した運転体験も行われています。なお、阿佐海岸鉄道に譲渡された車両は2020年に運行を終了していますが、2022年時点でも廃車解体されず留置されています。

路線データ

路線距離（営業キロ）：50.0 km
軌間：1067 mm
駅数：19駅（起終点駅含む）
複線区間：なし（全線単線）
電化区間：なし（全線非電化）
閉塞方式：特殊自動閉塞式

運行形態

運行はすべて線内折り返し運転で、ワンマン運転が実施されていました。2両編成の場合は車掌が乗務することがありましたが、ほとんどが1両での運転でした。

国鉄時代には、日豊本線に乗り入れ、宮崎駅まで直通する列車も存在しました。1991年からは、前面展望車両の指定席車と一般車の自由席車を連結した快速「たかちほ号」が運行されていましたが、2003年3月からはトロッコ列車の「トロッコ神楽号」に代わりました。

運行停止時点では、1日13往復の列車が運行しており、毎時1本程度の運行でしたが、2時間以上間隔が空く時間帯もありました。第三セクター転換後は、高千穂駅と延岡駅で車両の夜間滞泊が設定されていました。

歴史

高千穂線は、元々改正鉄道敷設法で「熊本県高森ヨリ宮崎県三田井ヲ経テ延岡ニ至ル鉄道」として定められた路線の一部でした。延岡から三田井（高千穂）を経て、高森線（現在の南阿蘇鉄道高森線）の高森駅までの延伸が計画されていましたが、国鉄時代に延岡 - 高千穂間が開業したにとどまりました。

高千穂 - 高森間27.0 kmの建設は、トンネル掘削中の異常出水事故により中断され、1980年に工事が凍結されました。

主な開業・廃止の歴史
1935年（昭和10年）2月20日：日ノ影線の延岡 - 日向岡元間が開業。
1936年（昭和11年）4月12日：日向岡元 - 川水流間が延伸開業。
1937年（昭和12年）9月3日：川水流 - 槇峰間が延伸開業。
1939年（昭和14年）10月11日：槇峰 - 日ノ影間が延伸開業。
1957年（昭和32年）2月1日：細見、吐合、上崎、亀ヶ崎、吾味の各駅を新設。
1972年（昭和47年）7月22日：日ノ影 - 高千穂間が延伸開業し、高千穂線と改称。
1974年（昭和49年）4月1日：延岡 - 日ノ影の貨物営業を廃止。
1975年（昭和50年）2月：高森トンネル坑内で異常出水事故発生。
1980年（昭和55年）：国鉄再建法成立により、高千穂 - 高森間の鉄道建設が凍結。
1984年（昭和59年）6月22日：第2次特定地方交通線として廃止承認。
1987年（昭和62年）4月1日：開業区間を九州旅客鉄道が承継、未開業区間は日本国有鉄道清算事業団が承継。
1989年（平成元年）4月28日：高千穂鉄道に転換。
2005年（平成17年）9月6日：台風14号による増水で全線運行休止。
2007年（平成19年）9月6日：延岡 - 槇峰間が廃止。
2008年（平成20年）12月28日：槇峰 - 高千穂間が廃止。

未開業区間

高千穂線には、高千穂から高森までの未開業区間が存在します。この区間の建設は、トンネル工事中の異常出水事故により中断され、その後、モータリゼーションの進展などにより、建設が再開されることはありませんでした。この未開業区間の建設用地は、沿線自治体に無償譲渡され、一部は解体されたり、転用されたりしています。

鉄道敷設の背景

高千穂線の計画は、日清戦争後に軍事産業路線として九州横断鉄道敷設の気運が高まったことに端を発します。国鉄が宇土 - 延岡間を計画したり、熊延鉄道が設立されたりしましたが、いずれも実現には至りませんでした。その後、改正鉄道敷設法により、熊本 - 立野 - 高森 - 高千穂 - 日ノ影 - 延岡という鉄道計画が最終案となりました。

工事中止後の状況

未成線となった建設用地は、そのほとんどがどこか分からなくなっていますが、ところどころに境界標や封鎖されたトンネル、橋脚の跡などが残っています。高千穂町内の葛原トンネルは、現在「トンネルの駅」として整備され、無料で見学することができます。また、異常出水により工事が中断された高森トンネルは、高森町が親水公園として整備し、「高森湧水トンネル公園」として開放されています。

代替輸送

高千穂線廃止後、延岡 - 高千穂間は宮崎交通の路線バスが運行されており、これらのバス路線が増発されることで、鉄道の代替輸送が行われています。また、都市間連絡バス「あそ号」「たかちほ号」が、延岡 - 高千穂 - 五ヶ瀬町 - 高森 - 熊本空港 - 熊本間を結んでいます。

脚注

民鉄主要統計『年鑑日本の鉄道』1992年-2007年

関連項目

日本の[[鉄道路線一覧]]
未成線
国道218号
国道325号
九州中央自動車道

外部リンク

高千穂鉄道
神楽酒造 - トンネルの駅
国土交通省九州運輸局 廃止公示 (PDF)
甦れ高千穂線！高千穂あまてらす鉄道株式会社 公式ホームページ
宮崎交通 路線バス時刻表

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