高安寺 (東京都府中市)

高安寺

東京都府中市片町に静かに佇む高安寺は、曹洞宗に属する古刹です。この寺院は、室町幕府を樹立した初代将軍、足利尊氏によって開かれたと伝えられており、室町幕府によって武蔵国における安国寺の一つとして位置づけられた歴史を持ちます。創建当初は臨済宗の寺院でしたが、江戸時代の初期に曹洞宗へと改宗しています。寺の敷地内に残る数々の面影は、長い歴史を物語っており、多摩地域を代表する寺院の一つとして親しまれています。

沿革

高安寺の起源は、平安時代にさかのぼります。時の武将、藤原秀郷が武蔵国府の近くに構えた居館を改築し、市川山見性寺として出発したのが始まりとされています。平家が滅亡した後、源頼朝から鎌倉入りを許されなかった源義経もこの寺に立ち寄ったと伝えられ、その供を務めた武蔵坊弁慶がここで大般若経を書き写したという伝説も残っています。

武蔵国の政治の中心であった国府に近い立地は、国衙が衰退した後に戦略上の要衝として注目を集めるようになります。南北朝時代には、新田義貞が分倍河原の合戦に際し、この寺に本陣を置いた記録があります。相次ぐ戦乱の中で、見性寺は幾度となく炎上するなどして荒廃が進みました。

寺が荒廃した状況を憂慮した足利尊氏は、暦応年間（1340年頃）になると、建長寺の高僧であった大徹禅師を開山として招き、寺の再興に着手します。この際、寺は臨済宗の禅寺として新たに生まれ変わりました。尊氏が進めていた安国寺建立計画の一環として、高安寺はこの計画に組み込まれ、その名称も尊氏の旧名である「高氏」に由来して「龍門山高安護国禅寺」と名付けられました。これにより、高安寺は室町幕府の手厚い保護を受け、一時は塔頭10、末寺75を数えるほどの大規模な寺院へと発展を遂げます。

しかし、幕府や鎌倉公方の強い影響下にあったことは、同時に寺が軍事的な側面を帯びることを意味しました。永徳元年/弘和元年（1381年）には、第2代鎌倉公方足利氏満が小山義政討伐の途上でこの寺に陣を構え、応永6年（1399年）には、応永の乱に呼応して足利義満に対抗しようとした第3代鎌倉公方足利満兼も同様にここに陣を置きました。

軍事拠点としての役割は第4代鎌倉公方足利持氏の時代にも続きました。応永30年（1423年）、持氏は常陸国の小栗満重を討伐した帰路に高安寺に入り、ここに仮の政庁を設置しました。しかし、翌年には不慮の火災により寺は焼失し、再建を余儀なくされます。さらに永享11年（1438年）、持氏は関東管領上杉憲実を討伐するため、再び高安寺に陣を構えました。ところが、持氏の反幕府的な姿勢に怒った当時の将軍足利義教は、持氏討伐のために軍を派遣します。持氏は急いで高安寺を退避しましたが、各地で持氏方の敗北が続き、最終的に持氏は滅亡することになりました（永享の乱）。

一方で、康正元年（1455年）に行われた二度目の分倍河原の合戦（享徳の乱の緒戦）では、第5代鎌倉公方足利成氏が高安寺に籠城し、攻め寄せた上杉軍を打ち破るという出来事もありました。

その後も、その地理的な重要性から、上杉氏や後北条氏といった戦国大名によって軍事的に利用されることが多く、度重なる戦乱によって寺院は衰退・荒廃を重ねました。江戸時代初期には、青梅市の海禅寺の末寺となり、この時期に宗派を曹洞宗へと改めました。

現在の本堂は、寛永元年（1624年）の火災で失われた後、およそ180年後の享和3年（1803年）に再建されたものです。本堂の正面には「等持院」と書かれた扁額が掲げられており、これは寺の開基である足利尊氏の法名に由来します。また、明治5年（1872年）に建てられ、左右に迫力ある仁王像を配する山門、そして安政3年（1856年）に建てられた鐘楼は、本堂と共に東京都選定歴史的建造物に指定されており、古刹としての風格を今に伝えています。

所在地・交通

高安寺は東京都府中市片町2丁目4番地の1に位置しており、京王線またはJR南武線の分倍河原駅から徒歩およそ7分と、訪れやすい場所にあります。

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