高雲

高雲（こう うん）

高雲（生年不詳 - 409年）は、五胡十六国時代の後燕の皇帝、または北燕の初代天王です。高句麗の王族の出身でありながら、後燕の混乱期に台頭し、最終的には北燕を建国するという波乱の生涯を送りました。

生涯

高雲は、前燕の慕容皝が楽浪郡を攻略した際に冊封された高句麗王族の出身です。一族は高姓を名乗り、前燕・後燕に仕えました。高雲自身も後燕の慕容宝に仕え、その才能を発揮します。

後燕の部将として

高雲は慕容宝に重用され、数々の功績を挙げます。397年、北魏の攻撃により慕容宝が龍城へ逃れると、子の慕容会が反乱を起こし龍城を包囲しました。この時、高雲はわずか100の兵で慕容会を奇襲し、鎮圧に成功します。この功績により、夕陽公に封じられ、慕容宝の養子となり慕容雲と改名しました。

しかし、慕容雲は寡黙であったため、周囲からは愚か者と見なされていました。ただ一人、馮跋だけは彼の度量を認め、親交を深めます。この馮跋こそが、後に慕容雲を擁立し、北燕を建国する人物です。

暴君として知られる慕容熙の時代になると、406年には皇后の進言により高句麗への遠征が行われましたが、失敗に終わります。慕容雲自身もこの戦で負傷し、慕容熙の残虐な性格を恐れて官を辞しました。

即位、そして暗殺

407年、慕容熙が皇后の葬儀で不在中に、馮跋・馮素弗兄弟らが反乱を計画し、慕容雲を君主に推戴します。反乱軍は難なく龍城を占拠し、慕容雲は天王に即位、元号を正始と改めました。ここに北燕が成立したのです。

ただし、高雲はあくまで後燕の皇族であり、実質的な建国者は馮跋であるため、高雲を後燕最後の皇帝とする見方もあります。慕容熙は庶民に変装して逃亡中に捕らえられ、高雲によって処刑されました。

高雲は即位後、馮跋を筆頭とする功臣たちを要職に任命し、新体制を確立します。また、妻の李氏を皇后に立て、子の高彭城を太子としました。外交面では、北魏との関係が悪化する一方で、高句麗の広開土王との関係改善に努めました。

しかし、高雲は自らの功徳不足を危惧し、身辺警護を固めますが、そのことがかえって内紛を招きます。409年、離班と桃仁という近臣によって暗殺されてしまうのです。馮跋は混乱を鎮め、衆に推されて北燕の天王となりました。高雲は恵懿皇帝と諡されています。

高雲の短い治世は、北燕の黎明期であり、馮跋による本格的な国家建設への移行期間であったと言えるでしょう。

高雲と顓頊高陽氏の関係について

中国の学界では、高雲の祖父である高和が高句麗族でありながら高姓を名乗った理由について、古代中国の伝説的な帝である顓頊高陽氏との関連性を指摘しています。

『晋書』「慕容雲載記」には、高和が高陽氏の末裔であるため高姓を名乗ったという記述があり、これを根拠に「高陽氏→高夷族→高句麗族」という系譜を想定しています。また、『逸周書』「王会解」に「高夷東北夷高句麗」という記述があることも、この説を補強するものとしています。

つまり、高句麗族の祖先は高夷族であり、さらに遡ると高陽氏にたどり着くという主張です。卵生神話や鳥羽冠の風習、鬼神思想などが共通点として挙げられています。

ただし、これは中国側の見解であり、歴史的・民族的な解釈には様々な議論があることを理解しておく必要があります。

参考文献

三崎良章『五胡十六国、中国史上の民族大移動』（東方書店、2002年2月）
『晋書』巻124「慕容雲載記」
* 『資治通鑑』「晋紀」巻114、115

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