慕容皝

慕容皝（ぼよう こう）：前燕を築いた英傑

慕容皝（297年 - 348年）は、五胡十六国時代の前燕の初代王であり、鮮卑（せんぴ）慕容（ぼよう）部の族長です。父・慕容廆（ぼよう き）の後を継ぎ、内乱を鎮め、周辺諸国との戦いを制して遼西（りょうせい）・遼東（りょうとう）地方を統一しました。東晋（とうしん）から燕王（えんおう）に封じられ、前燕建国の基礎を築きました。

生涯

慕容廆の世子として

297年、慕容部の大人（たいじん、部族長）である慕容廆とその妻・段（だん）夫人の間に生まれます。兄に慕容翰（ぼよう かん）がいましたが庶子であったため、慕容皝が世継ぎとされました。幼い頃から聡明であり、父・慕容廆から厚い信頼を受けていました。

317年、東晋朝廷より冠軍将軍（かんぐんしょうぐん）に任じられます。当時、慕容部は東晋に従属する立場であり、その傘下の地方政府という位置づけでした。

321年、慕容廆が東晋朝廷より遼東公（りょうとうこう）に冊封されると、慕容皝は世子（せいし、後継者）に立てられます。儒学を重んじた慕容廆は、劉賛（りゅうさん）を東庠祭酒（とうしょうさいしゅ、皇太子の学校の長官）に任じ、慕容皝は彼から儒学を学びました。

322年、左賢王（さけんおう）を拝命し、望平侯（ぼうへいこう）に封じられます。326年、東晋朝廷より平北将軍（へいほくしょうぐん）に任じられ、朝鮮公（ちょうせんこう）に進封されました。

戦功を重ねる

慕容皝は将軍としての才能に恵まれ、自ら軍を率いて周辺諸部族を討伐し、数々の戦功を挙げました。

319年、宇文（うぶん）部の宇文遜昵延（うぶん そんじつえん）が侵攻してくると、慕容皝は先鋒として出撃し、これを大破しました。
322年、段部の本拠地である令支（れいし）へ侵攻し、多くの民と財宝を略奪しました。
325年、宇文部の宇文乞得亀（うぶん きつとくき）が襲来すると、慕容皝は総大将としてこれを迎え撃ち、大勝しました。

位を継ぎ、前燕を建国

333年、父・慕容廆が亡くなると、慕容皝は大人位を継承し、平北将軍・行平州刺史（へいほくしょうぐん・こうへいしゅうしし）となりました。東晋朝廷に父の喪を報告し、領内に大赦を下しました。

しかし、兄弟間の対立が表面化します。兄の慕容翰は慕容皝を恐れて段部へ亡命し、弟の慕容仁（ぼよう じん）は反乱を起こしました。慕容皝はこれらの反乱を鎮圧し、勢力を拡大しました。

337年、慕容皝は燕王を自称し、官僚制度を整えました。これは前燕の事実上の建国とみなされています。しかし、東晋との従属関係は解消されませんでした。

後趙との抗争

前燕は、華北（かほく）を支配する後趙（こうちょう）との間で激しい抗争を繰り広げました。

337年、慕容皝は後趙に称藩（しょうばん、臣下の礼をとる）し、段部討伐の協力を要請しました。後趙の石虎（せきこ）はこれに応じ、共同で段部を滅ぼしました。

しかし、338年になると、石虎は前燕への侵攻を開始しました。慕容皝は籠城策をとり、後趙軍を撃退しました。

国家体制の強化

後趙との抗争が一段落すると、慕容皝は国家体制の強化に力を注ぎました。

341年、東晋朝廷から正式に燕王に封じられました。また、龍城（りゅうじょう）へ遷都し、宮殿を建設しました。

周辺諸国との関係

慕容皝は、周辺諸国との関係にも配慮しました。

代（だい）を支配する拓跋（たくばつ）部とは婚姻関係を結び、友好関係を築きました。また、高句麗（こうくり）を討伐し、服属させました。

344年、宇文部を滅ぼし、遼西・遼東地方の統一を完成させました。

死去

348年、慕容皝は狩猟中に落馬し、それが原因で亡くなりました。52歳でした。子の慕容儁（ぼよう しゅん）が後を継ぎました。

人物

慕容皝は、龍顔（りゅうがん、天子のような高貴な顔つき）を持ち、身長は七尺八寸（約179cm）あったと伝えられています。勇猛果敢で策略に長け、多芸多才な人物でした。また、文学を好み、学問を奨励しました。

業績

慕容皝は、内乱を鎮め、周辺諸国との戦いを制して遼西・遼東地方を統一し、前燕建国の基礎を築きました。また、農業・養蚕を奨励し、経済を発展させました。漢族を始めとした多くの流民を受け入れ、人口を増加させました。学問を奨励し、人材を育成しました。

慕容皝の功績により、前燕は五胡十六国時代において有力な国家の一つとなりました。

怪異譚

慕容皝の時代には、数々の怪異譚が伝えられています。例えば、棘城（きょくじょう）の黒石谷（こくせきこく）にある大きな石がひとりでに移動した、龍山（りゅうざん）に黒龍と白龍が現れたなどという話があります。

宗室

后妃

文明皇后段氏（正室）
拓跋夫人 - 代王拓跋翳槐の娘
蘭淑儀 - 慕容垂の生母
公孫夫人 - 慕容納と慕容徳の生母
高夫人 - 慕容恪の生母

子女

慕容儁 - 次男、前燕の皇帝
慕容恪 - 四男、太原王
慕容垂 - 五男、呉王、後燕の皇帝
慕容友 - 范陽王
慕容宜 - 廬江王
慕容桓 - 宜都王
慕容遵 - 臨賀王
慕容徽 - 河間王
慕容龍 - 歴陽王
慕容納 - 北海王、慕容超の父
慕容秀 - 蘭陵王
慕容嶽 - 安豊王
慕容徳 - 梁公、范陽王、南燕の皇帝
慕容黙 - 始安公
慕容僂 - 南康公
慕容宙 - 章武王、楽浪王
慕容氏 - 代王拓跋什翼犍にとついだ（北魏において昭成皇后と諡される）
慕容氏 - 夫余王余玄にとついだ
新城公主 - 蘭審にとついだ

脚注

参考文献

『晋書』（成帝・康帝紀、穆帝・哀帝・海西公紀、慕容廆載記、慕容皝載記）
『資治通鑑』巻90 - 巻99
『十六国春秋』巻24 - 巻25
* 『魏書』（列伝第83）

もう一度検索