鵜飼幸吉

鵜飼幸吉：幕末の尊攘運動に殉じた水戸藩士

鵜飼幸吉（うがい こうきち）は、文政11年（1828年）に生まれ、安政6年8月27日（1859年9月23日）に没した幕末期の水戸藩士です。父は鵜飼吉左衛門知信、母は佐々木氏。諱は知好から知明へと改め、幼名は菊次郎と称しました。

若き日の修練と才能

幸吉は幼少の頃より、砲術師範である福地政次郎から神発流砲術を学び、その才能を開花させました。那珂川で行われた武芸大会では、神発流砲術における卓越した技量により、徳川斉昭から賞賛されるほどでした。また、剣術においても神道無念流の達人として名を馳せました。武芸に秀でる一方、禅にも造詣が深く、臨済宗相国寺の大拙承演に師事し、精神修養にも励みました。

京都での活躍と国事に奔走

安政3年（1856年）、幸吉は京都留守居役手添に抜擢され上洛し、翌年には京都留守居役助役へと昇進しました。安政5年（1858年）に将軍継嗣問題が勃発すると、一橋派を支持し、朝廷工作を通じて日米修好通商条約（安政五カ国条約）の締結阻止に奔走しました。父と共に攘夷派の志士たちと交流を深め、鵜飼家累代の人脈を駆使し、鷹司家や近衛家などの公卿に対し、攘夷の必要性を積極的に説きました。老中・堀田正睦が通商条約締結の勅許を得るために参内した際には、尊攘派公家八十八人による座り込み（廷臣八十八卿列参事件）を主導し、勅許下賜の阻止に成功しました。しかし、幕府内では堀田失脚後、南紀派の井伊直弼が大老に就任し、第十四代将軍に徳川家茂が就任したことで、将軍継嗣問題は一橋派の敗北に終わりました。

戊午の密勅と安政の大獄

事態打開のため、朝廷から水戸藩へ戊午の密勅が下されると、病床の父に代わり、幸吉は小瀬伝左衛門と変名し、密使として東海道を東下、江戸の藩邸に密勅を届けました。藩主・徳川慶篤は沐浴し、謹んで密勅を拝受しました。この密勅は『水戸内勅』とも呼ばれます。密勅降下後、水戸藩内では内訌が生じ、諸藩への回送が滞りました。そのような状況下、幸吉は朝廷からの綸旨を出すよう働きかけるなど、活発な活動を展開しましたが、老中間部詮勝が上洛し安政の大獄が始まると、父と共に捕縛され、京の六角獄舎に投じられました。その後、江戸に檻送され、高田藩邸に拘禁されました。

獄中での不屈の精神

評定では、戊午の密勅発出の経緯を巡り、斉昭に脅迫されて已む無く勅諚を発出したと主張する鷹司家諸大夫・小林良典と激しく対立しました。幸吉は、自己保身のために幕府寄りの証言を繰り返す小林に対し、激しい口調で反論し、一歩も譲りませんでした。幕府側は、水戸陰謀論を実証する上で都合の良い小林の主張を採用し、安政の大獄の根拠としました。安政6年（1859年）、幸吉は戊午の密勅への斉昭の関与を一貫して否認し続け、安政の大獄における最重刑である獄門を言い渡され、伝馬町牢屋敷にて斬首、小塚原刑場で梟首されました。享年32歳でした。

死後の名誉回復

死後、幸吉は和宮降嫁の際に、父・吉左衛門と共に赦免されました。明治24年（1891年）には、正四位を追贈されています。その忠義心は後世に称えられ、靖国神社に合祀されています。墓所は茨城県水戸市の常磐共有墓地、東京都荒川区南千住の回向院、京都市長楽寺、同市徳円寺にあります。

鵜飼幸吉の生涯は、幕末の激動期における一人の水戸藩士の姿を鮮やかに描き出しています。彼の尊皇攘夷への信念と、それに殉じた生き方は、今もなお多くの人々に感銘を与え続けています。

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