1980年の自転車競技

1980年は、世界の自転車競技界において、いくつかの歴史的な出来事と、国内外で対照的な状況が交錯した年となりました。

国内の動向

日本では、大きな出来事として、日本体育協会理事会が決定したモスクワオリンピックへの不参加が挙げられます。これにより、自転車競技を含む多くの競技で、選手たちがオリンピックという晴れ舞台に立つ機会を失うこととなりました。この決定は、当時のスポーツ界に複雑な影響を与えました。

一方で、国内のプロフェッショナル競技である競輪では、スーパースター、中野浩一の活躍が際立ちました。12月8日には、松戸開設記念決勝での勝利により、年間獲得賞金額が1億円を突破。これは、日本のプロスポーツ史上初めての快挙であり、歴史に名を刻む出来事となりました。最終的な獲得賞金は1億1141万0600円に達し、堂々の賞金王に輝きました。

さらに、中野浩一は世界の舞台でもその強さを見せつけます。フランスのブザンソンで開催された世界選手権自転車競技大会のプロスクラッチ決勝では、同じ日本の尾崎雅彦を相手に2対0で勝利し、同種目において前人未踏の4連覇を達成しました。この大会には、アマチュア時代に数々の世界タイトルを獲得し、プロに転向して現役復帰した「カミソリ」ことダニエル・モレロンも参戦しましたが、準決勝で中野浩一に完敗し、大会直後に再び引退を表明。時代の交代を印象付ける出来事となりました。

国内主要競輪レースでは、日本選手権競輪を吉井秀仁が制し、高松宮杯競輪では藤巻昇が優勝。そして、秋のオールスター競輪と年末の競輪祭競輪王戦では中野浩一がタイトルを獲得。競輪祭新人王戦では亀川修一が優勝しています。

世界の動向

世界のロードレースでは、フランスのベルナール・イノーが輝かしい活躍を見せました。5月に行われたジロ・デ・イタリアで総合優勝を果たし、これにより史上4人目となる三大グランツール（ツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリア、ブエルタ・ア・エスパーニャ）完全制覇という偉業を成し遂げました。ツール・ド・フランスでは、オランダのヨープ・ズートメルクが総合優勝。ブエルタ・ア・エスパーニャでは、スペインのファウスティノ・ルペレスが総合優勝を飾っています。各グランツールでは、ポイント賞にショーン・ケリー（ブエルタ）、ジュゼッペ・サロンニ（ジロ）、ルディ・ペヴェナーフ（ツール）が、山岳賞にフアン・フェルナンデス（ブエルタ）、クラウディオ・ボルトロット（ジロ）、レイモン・マルタン（ツール）が輝きました。

クラシックレースにおいても、記録的な出来事が相次ぎました。4月には、ベルギーのヤン・ラースがアムステルゴールドレースで4連覇を達成。同月に開催された「北の地獄」パリ〜ルーベでは、イタリアのフランチェスコ・モゼールがオクタヴ・ラピーズ以来、史上2人目となる3連覇という快挙を成し遂げました。また、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュではベルナール・イノーが優勝。そのほか、ミラノ〜サンレモをピエリーノ・ガヴァッツィが、ロンド・ファン・フラーンデレンをミシェル・ポランティエールが、ジロ・ディ・ロンバルディアをフォンス・デ・ウォルフがそれぞれ制しました。年間を通して安定した強さを見せたベルナール・イノーは、スーパープレスティージュのタイトルも獲得しています。世界選手権プロロードレースもイノーが優勝し、この年のロードレース界の主役となりました。

トラックレースの世界選手権では、先述の中野浩一のプロスクラッチ4連覇が大きな話題となりました。また、この大会ではプロケイリンが初めて正式種目として実施され、オーストラリアのダニー・クラークが初代優勝者として歴史にその名を刻みました。これは、後に国際的なトラック競技、そして日本の競輪にも影響を与える重要な一歩でした。

シクロクロスの世界選手権プロ部門では、ベルギーのローラン・リボトンが優勝しています。

生まれ、そして去った人々

この年には、後に世界の舞台で活躍する多くの選手が誕生しました。主な選手としては、ジェローム・ピノー、ヤロスラフ・ポポヴィッチ、ダビ・アロヨ、レベッカ・ロメロ、アレハンドロ・バルベルデ、ファビアン・ヴェークマン、ファビアン・バレル、ジュリアン・アプサロン、クリストフ・ル・メヴェル、ウラディミール・カルペツ、ダニエーレ・ベンナーティ、トム・ボーネン、ミヒャエル・アルバジーニらがいます。

また、ツール・ド・フランス総合優勝経験者であるジャン・ロビック（フランス）が10月6日にこの世を去りました。

1980年は、日本のオリンピック不参加という残念な出来事があった一方で、中野浩一の歴史的な偉業や、ベルナール・イノーのグランツール完全制覇、プロケイリンの世界選手権初開催など、国内外で自転車競技の歴史に深く刻まれる様々な出来事が起こった一年でした。

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