TOI-175

太陽系外惑星TOI-175系は、地球からおよそ34.5光年離れた、とびうお座の方向にある恒星TOI-175とその周囲を公転する惑星から構成されます。TOI-175は、太陽の約0.32倍の質量と約0.29倍の半径を持つ、比較的小さなスペクトル分類M型の恒星です。この恒星は、ルイテン98-59やTIC 307210830といった別名でも知られています。TOI-175系には、少なくとも5つの太陽系外惑星が発見されており、そのすべてが地球型惑星であると考えられています。

惑星系の発見と多様な惑星たち

TOI-175系の惑星は、主にNASAのトランジット系外惑星探索衛星TESSによる観測と、その後の地上望遠鏡による精密な観測によって発見されました。2019年のTESSの観測データから、恒星の手前を惑星が横切る際に生じる周期的な減光（トランジット）が捉えられ、TOI-175.01、TOI-175.02、TOI-175.03という3つの惑星候補が特定されました。これらの候補は、誤検出の可能性が排除された後、追跡観測を経てTOI-175 b、c、dとして正式に惑星として確認されました。これらの惑星の発見を示す論文は、Veselin Kostovらによって2019年 3月19日にarXivに投稿されました。

初期に発見された3つの惑星の中で、最も主星TOI-175に近い軌道を公転しているのがTOI-175 bです。この惑星は地球半径の約80%というサイズを持ち、約2.25日という非常に短い周期で恒星を一周します。主星に非常に近いため、TOI-175 bは地球が太陽から受け取るエネルギーの約22倍もの強い恒星からの放射を受けています。TOI-175 bは、TESSによる観測で確認された当時としては最も小さな太陽系外惑星でした。ただし、これまでに発見された全ての系外惑星の中で最小のものは、運用を終了したケプラー宇宙望遠鏡が発見したケプラー37b（月の約1.2倍の大きさ）です。

次に、TOI-175 cは約3.7日の公転周期を持ち、主星から地球の約11倍の放射エネルギーを受けています。最も外側を公転するTOI-175 dは、約7.5日の公転周期で恒星を一周し、地球の約4倍のエネルギーを受け取っています。惑星cとdの公転周期は、およそ2:1という軌道共鳴に近い関係にあることがわかっています。さらに、惑星cとdの間には、これまでの観測では検出されていないものの、動的に安定した軌道を持つ別の惑星が存在する可能性も理論的に指摘されています。もしこの惑星が存在するならば、トランジットを起こさないタイプである可能性が高く、初期に発見された3つの惑星と複雑な軌道共鳴（5:8:12:16）を形成している可能性も考えられています。ただし、このような未発見惑星の存在は、その軌道がほぼ円形である場合にのみ可能とされています。

2021年7月には、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTを用いたドップラー分光法という別の観測方法により、4番目の惑星TOI-175 eが新たに発見されました。この観測では、恒星の揺れを精密に測定することで惑星の存在が明らかになります。TOI-175 eは約12.8日の公転周期を持っています。また、同じ観測によって、さらに外側に位置する惑星候補TOI-175 fの存在も示唆されました。TOI-175 fは約23.2日の公転周期を持つ可能性があり、主星TOI-175のハビタブルゾーン内に位置する地球型惑星である可能性が指摘されています。惑星eとfは、トランジットを起こさないため、TESSのようなトランジット法による観測では検出されませんでした。

ハビタブルゾーンと水の可能性

初期に発見された惑星b、c、dは、主星TOI-175のハビタブルゾーン、すなわち液体の水が存在しうる領域よりも内側に位置しています。これらの惑星が位置する領域は、時に「Venus zone」とも呼ばれ、恒星からの強い放射エネルギーによって暴走温室効果が発生し、金星のような高温で乾燥した環境になっている可能性が考えられています。しかし、TOI-175系の惑星を詳しく調べることは、地球と金星がなぜこれほど異なる環境になったのかという、惑星科学における重要な謎の解明につながる可能性があります。

VLTによるドップラー分光観測からは、惑星b、c、dの大気に水が含まれている可能性が示唆されています。特に惑星dについては、その総質量の最大30%が水で占められている可能性も指摘されており、もしそうであれば、惑星dは広大な海を持つ海洋惑星である可能性も考えられます。

TOI-175系は、スペクトル分類がM型の恒星の周囲で、質量と半径の両方が精密に測定された複数の惑星を持つ数少ない惑星系の一つです。これまでにそのような系は、TOI-175系を含めて7つしか知られていません。他の6つの系としては、TRAPPIST-1系、TOI-732系、TOI-1266系、LHS 1140系、K2-146系、ケプラー138系が挙げられます。TOI-175系は、これら7つの系の中でも、主星が最も明るく、地球からの距離も最も近いという特長を持っています。このため、他のM型恒星系と比較して、より詳細な観測を行いやすいターゲットとなっています。

将来の観測への期待

TOI-175系は、その主星の明るさと地球からの比較的近い距離（約34.5光年）という条件から、将来の観測において非常に有望な研究対象と見なされています。ハッブル宇宙望遠鏡やジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡といった次世代の高性能宇宙望遠鏡によるフォローアップ観測の重要なターゲットとなる可能性が期待されています。特に、トランジットを起こす内側の3つの惑星（b, c, d）については、これらの宇宙望遠鏡を用いて複数回のトランジットを精密に観測することで、それぞれの惑星の大気成分を詳細に調べることが可能になります。大気中に水蒸気、メタン、二酸化炭素などの分子が存在するかどうかを分析することは、これらの惑星の環境がどのようなものかを理解し、さらには生命が存在しうる条件を満たしているかどうかを探る上で、極めて重要な情報をもたらすでしょう。TOI-175系は、地球に近いM型恒星系の多様な惑星環境を理解し、生命探査の可能性を探る上で、今後の天文学研究における鍵となる存在と言えます。

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