WORST (アルバム)

聖飢魔IIの金字塔『WORST～聖飢魔II極悪集大成教典（ベスト）～』：オリコンチャート制覇と制作秘話

1989年、日本のヘヴィメタルシーンに衝撃が走った。聖飢魔IIの6枚目のアルバム『WORST～聖飢魔II極悪集大成教典（ベスト）～』が、オリコンアルバムチャートで堂々の1位を獲得。ヘヴィメタルバンドとして初の快挙であった。このアルバムは、単なるベスト盤に留まらず、バンドの集大成であり、新たな境地を開いた作品として、その制作過程や背景には多くの興味深いエピソードが隠されている。

前作からの転換とベストアルバム制作の背景

前作『THE OUTER MISSION』でイメージを一新した聖飢魔IIだったが、世間への大きな反響はなかった。そこで、サザンオールスターズの「いとしのエリー」のようなバラードで世間に認知されるという案が浮上。「白い奇蹟」や「BAD AGAIN～美しき反逆～」といった楽曲が制作される中、「白い奇蹟」が8枚目のシングルとして先にリリースされた。しかし、レコード会社からはバンドイメージを考慮し、コミカルな「怪力熊男」をA面にしたいという提案があり、聖飢魔IIメンバーは辟易していたという。この頃のレコード会社との交渉は、後のSEX MACHINEGUNSの先駆けとなるような提案もあったと小暮は振り返っている。バンドは本格的な楽曲制作を目指していたため、コミカルな要素を含む楽曲は敬遠されていたのだ。

『THE OUTER MISSION』のミサツアー終了後、山中湖でのレコーディング合宿で「白い奇蹟」が完成したが、そのシングルはオリコンシングルチャート最高12位、売上枚数8.5万枚という結果に終わった。

ベストアルバム制作決定とニューヨークでのレコーディング

『THE OUTER MISSION』の高みに満足していた聖飢魔IIは、次のアルバム構想がなかなかまとまらなかった。それに加え、松元浩一のテレビ番組への出演増加なども重なり、集中してアルバム制作に取り組む雰囲気ではなかった。こうした状況から、ベストアルバムの制作が決定した。ルーク篁は、前作で完成形を示したものの、似たような路線の楽曲を作ることに苦戦し、ハードロックへの回帰を望んでいた。また、『THE OUTER MISSION』のプロデューサー不在も影響したと語っている。

アルバムタイトルは「WORST」「ホワイト・ミラクルズ」「白い奇蹟」などが候補に上がり、最終的に「WORST」に決定した。「ホワイト・ミラクルズ」は「白い顔の悪魔たちが創ってきた奇跡の集まり」、「白い奇蹟」は「白い顔の悪魔たちの活動の足跡」という意味が込められていたという。

選曲段階では、メンバーとスタッフの間で意見が対立。松元は自身の好みで数曲をリクエストしたところ、メンバーから「こいつ物事考えてる奴なんだ」と認識されたというエピソードも。ミックスダウンはニューヨークで行われたが、日本側のエンジニアがボーカル入りのテープを忘れるというハプニングが発生。小暮はビールを飲んだ後、急遽ボーカル録音をこなすことになった。完成した音源について、メンバーは賛否両論あったものの、全体的には満足のいくものとなった。

選曲と楽曲解説

アルバムには代表曲から隠れた名曲まで、聖飢魔IIの歴史が凝縮されている。楽曲は、再録音やリミックス、新たなアレンジが施され、当時の最先端技術を駆使したサウンドに仕上がっている。

SIDE-A: 「悪魔組曲作品666番ニ短調より序曲：心の叫び」は、聖飢魔IIの代表曲だが、元の楽曲が長いため「序曲」のみが収録された。「THE END OF THE CENTURY」はリミックスされ、ベースはゼノン石川が新たに演奏。「BIG TIME CHANGES」は勢いを重視して選曲、「RATSBANE」はハードロックからジャズへの展開が特徴的。「STAINLESS NIGHT」と「NEVER ENDING DARKNESS」は、聖飢魔IIの代表的なバラード曲として収録。「EL・DO・RA・DO」は新録音され、篁が初めてギターソロを担当。
SIDE-B: 「アダムの林檎」はボーカル録音をやり直すことになった楽曲。「ROCK IN THE KINGDOM」は新録バージョンで、ミサでの雰囲気を再現。「RENDEZVOUS 60 MICRONS'」はリミックスが施され、ベースのチョッパー奏法が導入。「蠟人形の館」はリミックスに加え、小暮によるシャウトが追加。「WINNER!」は小教典バージョンがそのまま収録。「白い奇蹟」はロングバージョンで収録され、アルバムのフィナーレを飾る。

リリースとアートワーク

1989年9月21日、CBS・ソニーのFITZBEATレーベルよりCDとCTでリリースされた。ジャケットはベートーベンのデスマスクを模した石膏の顔で、7つはメンバーのフェイスペイントが施されている。帯コピーは「地球デビュー4周年記念盤! ニューヨークにて新たにリミックス＋ニューバージョンの全13曲。豪華な写真集付きのスペシャル・大サービス盤!! 今、甦る聖飢魔II名曲集! 聴きのがすなよ!」

チャート成績とメンバーのコメント

オリコンアルバムチャート1位を獲得し、売上枚数は15.2万枚に達した。ヘヴィメタルバンドが1位を獲得するのは史上初であった。メンバーは、この結果を冷静に受け止めつつ、バンドのピークに達した時期であったと振り返っている。

まとめ

『WORST～聖飢魔II極悪集大成教典（ベスト）～』は、聖飢魔IIの音楽性と商業的な成功を両立させた象徴的な作品である。ニューヨークでのレコーディングやハプニング、メンバーの葛藤や創造性、そしてその結果としてのオリコン1位獲得など、様々な要素が絡み合い、このアルバムを伝説的なものにしたと言えるだろう。このアルバムは、聖飢魔IIの歴史において、そして日本のヘヴィメタル史においても、重要な位置を占める作品だ。

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