トレーラーバス

トレーラーバスは、動力を持つトラクター（トレーラーヘッド）が客車であるトレーラーを牽引する構造を持つバス車両です。幌で繋がれた連節バスとは異なり、トレーラーバスではトラクターとトレーラーの間を移動することはできません。

概要

都市部における輸送需要の増加に対応するため、バスの輸送効率を高める方法として、車体の床面積を広げるというアプローチがあります。しかし、道路上での取り回しを考慮すると、車体の全長や全幅を無制限に拡大することは困難です。そこで、トレーラーバスのように車体を長くする、連節バスのように複数の車体を連結する、あるいは二階建てバスのように高さ方向に空間を利用する、といった解決策が生まれました。

種類

トレーラーバスには、主に以下の2つの種類があります。

セミトレーラー型

セミトレーラー型は、トレーラーの前部をトラクターの第五輪（カプラー）に載せて連結する方式です。この方式の利点として、全長に対して最小回転半径が小さく、比較的自由な後退が可能であることが挙げられます。しかし、第五輪部分にかかる客室の床が高くなるという欠点があります。貨物車とは異なり、通常はトラクターとトレーラーを分離することはありません。

日本では、第二次世界大戦後の混乱期にバスの需要が急増したため、進駐軍払い下げの軍用トレーラーを改造したセミトレーラーバスが製造されました。これらのトレーラーバスは、残念ながら現存していません。名古屋市交通局では、トロリーバスのトレーラーバスが製造されたほか、宮城バス（現・ミヤコーバス）では、ボンネット型だけでなくキャブオーバー型のトラクターを採用したトレーラーバスも使用されていました。日本の量産車としては、日野自動車のT11B型+T25型やT13B型+T26型（T26A型）などが存在しました。

2023年3月31日には、日本国内で唯一定期運行されていた西東京バスの「青春号」（武蔵五日市駅 - つるつる温泉）が、車両の老朽化と部品調達の困難さから引退しました。車両を所有する檜原村は、売却先を公募しています。

横須賀トレーラーバス火災事故

1950年4月14日、神奈川県横須賀市で京浜急行電鉄（現・京浜急行バス）が運行するトレーラーバスで火災が発生し、客車が全焼するという事故が起こりました。この事故では、乗客50人のうち17人が死亡しました。運転席と客席が分離されている構造であったため、運転士が火災に気付くのが遅れたことが被害を拡大させました。この事故を契機に、トレーラーバスの安全性に疑問が持たれるようになり、また、単車大型バスの量産化が進んだこともあり、トレーラーバスは次第に使われなくなりました。

フルトレーラー型

フルトレーラー型は、通常のバス車両にトウバー（連結棒）を用いてトレーラーを連結する方式です。閑散時にはトラクターのみで運行し、多客時にトレーラーを連結することで輸送力を調整できます。連結・開放作業が必要となりますが、限られた乗務員数や便数で柔軟な輸送対応が可能となり、運行経費の削減につながります。

日本では、鉄道省が1932年に貨客輸送を行うため、荷物用トレーラーを牽引する13人乗りバストラクターを開発し、1936年には29人乗りの附随車を牽引するバストレーラーを開発しました。戦後には、都営バスが進駐軍払い下げのGMCトラック改造バスで遊休車を牽引し、「親子バス」と呼称した例もあります。

ヨーロッパで運用されたフルトレーラー型は、「親」となるトラクターと「子」となるトレーラーが共通設計であることが多いです。「子」となるトレーラーは2軸以上で、前輪にはトウバーに連動した操向機構が備わっています。この構造上、後退時にトレーラーの向きを制御することは非常に困難です。空気ブレーキ用の圧縮空気や、室内照明、クーラー、灯火類の電源はトラクターから供給されます。トレーラーにはエンジンがないため、暖房には燃焼式ヒーターなどが装備されます。

トレーラーのみを製造するメーカーも存在し、東欧ではディーゼルバスとトロリーバスでトレーラーを共用する例も見られます。ドイツのゲッペル社製のトレーラーバスでは、連結作業がワンマン運転に対応しており、運転手がカメラとモニター画面を用いて一人で連結作業を行うことができます。また、安全対策として、トラクターとトレーラー間の歩行者の通り抜けによる事故を防止するため、「ブロッカーストリップス」と呼ばれるロールスクリーンが装備されています。

しかし、車両間の通り抜けによる事故が増加したため、西ドイツでは1960年にフルトレーラーバスの運行が禁止されました。それ以降、輸送力の増強やワンマン運転化、コスト削減などは、連節バスによって対応されています。

脚注

参考文献
省営自動車十年史刊行会『省営自動車十年史』省営自動車十年史刊行会、1940年、271頁
“車両ギャラリー都営バス”. 東京都交通局.

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