バルバロス・オルチ

オルチ・レイス

オルチ（Oruç Reis、あるいはウルージとも。1474年頃 - 1518年）は、16世紀初頭の地中海で活動した高名なバルバリア海賊です。その生涯を通じて、彼はオスマン帝国からアルジェの軍司令官（ベイ）や地中海の最高提督（ベイレルベイ）といった地位を与えられました。オスマン海軍を再編し、皇帝の信頼を得て「フズール」から「ハイレッディン」の名を与えられたバルバロス・ハイレッディンは、彼の実弟にあたります。

オルチは、ヨーロッパ諸国からは「バルバロッサ」（トルコ語でバルバロス）の異名で呼ばれました。この異名については、彼が蓄えていた特徴的な赤ひげに由来するという説と、部下たちが彼を「ババ・オルチ」（オルチの親父）と親しみを込めて呼んだのが訛って伝わったという説があります。

現在のギリシャ領であるエーゲ海のミディッリ島（かつてのオスマン帝国領）で生まれた彼は、晩年、アルジェリアのトレムセンでスペイン軍と激しい戦闘を繰り広げ、その戦いの中で1518年に命を落としました。

出自

オルチの出身については諸説あり、同時代の史料によってギリシャ人、トルコ人、またはアラブ人であると様々に伝えられています。

ヤークープ・アーガーの子として、オルチは1470年代にエーゲ海のミディッリ島で生を受けました。父ヤークープは、イスラームに改宗したギリシャ人またはトルコ人の騎兵（スィパーヒー）であったとされています。1462年のミディッリ島遠征にヤークープは従軍し、ジェノヴァ共和国との戦いで功績を立て、その褒賞としてレスボス島のボノヴァ村を与えられました。ヤークープはその後、ギリシャ正教会の修道士の寡婦であるミティリーニのギリシャ人女性カテリナと結婚しました。二人の間には、オルチを含む4人の息子（イリヤース、イスハーク、フズール）と2人の娘が生まれました。オルチの若年期や、なぜ彼が海賊稼業に足を踏み入れたのかについては、多くの異なる説が存在しています。

生涯

若年期と海賊業の始まり

オルチは、オスマン帝国の皇子であり、アンタルヤの総督を務めていたコルクトの支援を受け、エーゲ海を拠点とする聖ヨハネ騎士団と戦いました。しかし、ある時、聖ヨハネ騎士団のガレー船への襲撃が失敗に終わり、この戦いで兄弟のイリヤースが戦死し、オルチ自身も騎士団に捕らえられてしまいます。幸いにも、オスマン帝国のパシャが保釈金を支払ったことで彼は解放され、再び海へと戻ることができました。その後、オスマン帝国海軍の活動によって行動が制限されがちなエーゲ海から、比較的妨害の少ない西地中海へと活動の拠点を移します。

しばらくの間、オルチは当時エジプトを支配していたマムルーク朝に仕えていましたが、オスマン帝国とマムルーク朝の対立が深まったことから、エジプトの西にあるチュニスへと移動することが賢明であると考えました。

チュニスでの活動

1504年頃、オルチは2隻の小型ガレー船（ガリオット）を率いてチュニスに到着しました。彼はチュニスを統治していたハフス朝のスルターンと交渉を行い、港湾施設の利用を許可される代わりに、獲得した戦利品の5分の1を献上するという取り決めを交わしました。

チュニスの外港ラ・グレットを新たな本拠地としたオルチは、そのガリオットを使ってローマ教会が所有する大型ガレー船を奪うという大胆な戦果を上げ、これはチュニスだけでなくヨーロッパ諸国にも大きな衝撃を与えました。彼は船舶襲撃で得た木材を利用してさらに8隻の船を建造し、これによって弟のフズールとイスハークも海賊稼業に加わるようになります。また、必要な時にオスマン帝国からの援助を得る見返りとして、定期的に贈物を送っていました。

オルチの一団は、ジェルバ島などを拠点としてイタリアの海岸地域を襲撃しました。1512年には、スペイン軍によって領地を追われたベジャイアの領主からの救援要請に応じ、西へと進軍します。この時のオルチの兵力は、12隻の大砲を備えたガリオット、1,000人のトルコ人海賊に加え、キリスト教からの改宗者やムーア人なども含む大規模なものでした。

アルジェリアでの活動

1512年8月、オルチはベジャイア近郊に上陸し、スペイン軍が守る稜堡への砲撃を開始しました。しかし、この攻城戦の最中にオルチは銃弾を受けて左腕を失う重傷を負い、指揮官を失った海賊団は退却を余儀なくされました。チュニスに戻って療養中のオルチに代わり、弟のハイレッディンがラ・グレットを守りました。一方、海賊団に船を奪われたジェノヴァは、アンドレア・ドーリア率いる追討艦隊を派遣し、攻撃を受けたハイレッディンはチュニスへと逃亡します。船の半分を失った敗戦にオルチは憤慨しましたが、翌1513年にはハフス朝のスルターンによってチュニスを追放され、ジェルバ島へと拠点を移しました。

1514年、オルチは再びベジャイアを攻撃しましたが、今度も攻略は失敗に終わりました。そこで彼は、ベジャイアの東に位置するジジェルを新たな本拠地として選びました。

ジジェルに拠点を移した後、長年にわたりスペインの圧力を受けていたアルジェの市民から救援の依頼を受けると、オルチは援軍を率いて海陸からアルジェに進軍しました。当初、アルジェの市民はオルチを歓迎しましたが、海賊団の粗野な振る舞いはアルジェの名家の人々に失望を与えました。さらに、オルチは自分たちに援軍を頼んだアラブ人の首長サーリムを殺害してしまいます。アルジェ市民はスペイン軍と結託して反乱を企てましたが、オルチはこれを鎮圧し、さらにアルジェに迫っていた7,000人規模のスペイン艦隊を撃破しました。オルチはその後、アルジェに進攻してきたティンニスの軍も破り、1517年にはティンニスを占領しました。ザイヤーン朝の首都トレムセンも彼の支配下に入り、スペインが支配するオラン、ベジャイア、ペニョンを除き、当時のアルジェリアの大部分がオルチの勢力圏となりました。

最期

イタリアの商船が海賊団の襲撃を受けたという報告を受けたスペイン王カルロス1世は、オルチを討伐するために10,000人の大軍を派遣しました。当時1,500人の海賊とともにトレムセンにいたオルチは、部下を引き連れてアルジェへ退却する途中、スペイン軍との激しい乱戦の中で命を落としました。

オルチを深く慕っていた多くの海賊や奴隷たちは、彼の死を悼み悲しみました。彼の死によって海賊団は瓦解するかに見えましたが、跡を継いだ弟のハイレッディンはオスマン帝国に忠誠を誓い、その援助を受けてスペインへの反撃を開始します。そして、海賊団の指揮とともに「バルバロス」の異名もまた、ハイレッディンへと受け継がれることとなりました。

人物像

オルチは、身長はそれほど高くなかったものの、頑強な体つきをしていたと伝えられています。外見的な特徴としては、燃えるような赤色の髪と豊かな赤ひげを生やしていたとされます。

彼の性格は、無益な殺傷を好まない人物であったと言われています。反抗する相手に対しては容赦ありませんでしたが、それ以外の状況では戦場での残虐さを見せることはありませんでした。オルチが亡くなった時、彼には子供がいませんでした。

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