ベルギーの歴史

ベルギーの歴史は、現在のベルギーの領域、そこに住む人々、そしてこの地を支配してきた政権の変遷を包括的に扱います。その始まりは、ベルギーが建国された1830年よりもはるか昔に遡ります。

先史時代からローマ帝国時代

この地に最初に住み着いた人々は、紀元前5500年から紀元前60年頃まで、文字も統一された民族も持たないまま、原始的な生活を送っていました。この地域は、刻線帯文土器文化や縄目文土器文化、鐘状ビーカー文化、骨壺墓地文化といった様々な古代ヨーロッパ文化が交錯する場所でした。紀元前58年、ローマの将軍ユリウス・カエサルが著した『ガリア戦記』は、この地に関する最初の文献史料となり、ベルギーはローマ帝国の支配下に入り、ローマ文化の影響を受けることになります。

中世の動乱

4世紀にはローマ帝国が衰退し、ゲルマン民族の一派であるフランク人がこの地に現れ、主要な住民となります。フランク人はベルギーを中心に、周辺のフランスやドイツの地域を征服してフランク王国を築きます。しかし、その後1500年もの間、ベルギーは自らの国を持つことなく、フランク王国、フランス王国、神聖ローマ帝国、スペイン王国、オーストリア帝国、オランダ王国といった大国の間で支配が繰り返されます。

ベルギーの独立と連邦制

19世紀の1830年、ベルギーはオランダ王国から独立し、ついにベルギー人自身の国家を築くことができました。しかし、長年のフランスとオランダによる統治の影響で、「フランス語を話す国民」と「オランダ語を話す国民」という二つの言語グループに分かれ、「言語戦争」とも呼ばれる深刻な対立が生じました。1993年、ベルギー政府は全国一律の「単一制」を廃止し、フランス語圏のフランデレン地域、オランダ語圏のワロン地域、そして二言語が通じる首都ブリュッセル地域、少数のドイツ語地域に分割し、地域ごとに異なる運営を行う「連邦制」へと移行しました。

ヨーロッパの戦場

ベルギーの歴史は、隣接するオランダ、フランス、ドイツ、ルクセンブルクの歴史と深く絡み合い、「ヨーロッパの闘鶏場」と呼ばれるほどの混乱を極めました。現在のベルギーにあたる地域は、その歴史の大半において大国の一部（例えばカロリング帝国）であったり、ブラバント公国、フランドル伯領、リエージュ司教領、ルクセンブルク伯領などの小国に分裂した状態が続いていました。戦略的に重要な位置にあるため、数多くの軍隊が領土内で戦いを繰り広げ、「ヨーロッパの戦場」と呼ばれるようになりました。

ベルギーの成立

ベルギーの成立は、ベネルクス全体と同じく、ブルゴーニュ領ネーデルラントのネーデルラント17州を起源としています。これらはヴァロワ＝ブルゴーニュ家の元で統一され、神聖ローマ皇帝カール5世の1549年の国事詔書により一つの実体に集約されました。1568年から1648年までの八十年戦争によって、北部がネーデルラント連邦共和国として独立し、南部はスペイン領ネーデルラントとして残りました。この南部地域が、現在のベルギーとルクセンブルクとなります。

ルイ14世時代のフランスの侵攻により、現在のフランス領ノール＝パ・ド・カレー地域圏にあたる地域が失われましたが、残りはオーストリア領ネーデルラントとして発展しました。フランス革命戦争によってベルギーは1795年にフランス領となり、カトリック教会領の半自治も終焉を迎えました。1814年にフランスが敗れると、ネーデルラント連合王国が成立しますが、1830年から1839年にかけてのベルギー独立革命によって分裂し、現在のベルギー、オランダ、ルクセンブルクの3か国が成立しました。

近代のベルギー

ベルギーの港と紡績業は中世から重要であり、近代のベルギーは産業革命が始まった最初の国の一つとなりました。産業革命のおかげで19世紀に繁栄しましたが、同時に自由主義的な実業家と社会主義的な労働者という政治的な二分も生み出しました。レオポルド2世はベルギー領コンゴを私有植民地として設立しましたが、スキャンダルにより1908年に政府に接収されました。外交では中立を維持しましたが、フランスへの通り道として戦略的に重要であったため、1914年と1940年にドイツの侵攻を受け、いずれも厳しい占領期を経験しました。戦後はヨーロッパ統合の先駆者となり、欧州連合の創設メンバーとなりました。ブリュッセルには現在、北大西洋条約機構の本部があり、欧州連合の実質的な首都としての役割も担っています。一方、コンゴ植民地は1960年代初頭に独立しました。

政治的には、当初は宗教問題で二極化し、その後は言語の違いと経済発展の不均衡によって分裂しました。この分裂によって1970年代から大規模な国家改革が始まり、ベルギーは連邦制国家へと生まれ変わりました。現在ベルギーは、北部のフランデレン地域（オランダ語圏）、南部のワロン地域（フランス語圏）、そして中央のブリュッセル（両言語が使用される）の3つの地域に分かれています。またドイツとの国境地帯には、ドイツ語を母語とする人々もいます。

独立以前

先史時代

ベルギーでは、1829年から1830年にかけてアンジスでネアンデルタール人の化石が発見されており、その一部は紀元前10万年以前のものでした。新石器時代、ヨーロッパ北部における最初の農業技術、いわゆる刻線帯文土器文化はヨーロッパ南東部を起源とし、北西に伝播していき、ベルギー東部にまで到達しました。しかし、この文化はベルギーで定着せず、次の農業文化であるミヒェルスベルク文化が現れるまで長い年月がかかりました。

青銅器時代と鉄器時代

青銅器時代後期になると、ベルギーの人口は増加し、骨壺墓地文化、ハルシュタット文化、ラ・テーヌ文化といったヨーロッパの3つの文化が相次いで流入しました。これら3つの文化はインド・ヨーロッパ語族との関連があり、特にラ・テーヌ文化はケルト語派との関連が指摘されています。紀元前500年以降、ケルト人の部族が定住し始め、地中海沿岸地域との貿易を行うようになりました。

ケルトとローマ時代

『ガリア戦記』によると、ガイウス・ユリウス・カエサルがこの地に到着したとき、ベルギー、フランス北西部、ラインラントの住民はベルガエと呼ばれていました。ベルガエの住む地域はガリアの北部とされ、現在のベルギーとルクセンブルクの地域にはトレウェリ族が居住していました。カエサルはベルガエをケルト人とは別の民族とみなし、ゲルマン人の祖先を持つとしましたが、言語学的には彼らの言語はケルト語、ゲルマン語両方と関連するものの独立した言語であった可能性も指摘されています。

ローマの支配下に入ったベルギーでは、属州がキウィタス（civitas）に分割され、それぞれ首都が置かれました。キリスト教はローマ時代後期にベルギーに伝来し、同地域の最初の司教とされるセルヴァティウスは4世紀中期のトンゲレンで活躍しました。

中世前期

西ローマ帝国が衰退すると、ゲルマン民族が支配権を握り、王国を形成するようになりました。フランデレン海岸は「ザクセン海岸」の一部となり、ベルギー内陸部ではフランク人が移住しました。フランク人はメロヴィング朝を築き、後にカロリング朝を築き、その国王のカール大帝は800年にローマ教皇レオ3世より「新しい神聖ローマ帝国の皇帝」として戴冠しました。

フランク王国は分裂と再統一を繰り返した後、フランス王国と神聖ローマ帝国に分かれました。中世前期には、ベルギー北部がゲルマン語圏、南部がロマンス語圏となり、異なる言語を話す地域に分かれました。

11世紀から12世紀にかけて、神聖ローマ皇帝もフランス王も支配力を失う中、ベルギーにはフランドル伯領、ナミュール伯領、ブラバント公領、エノー伯領、リンブルフ公領、ルクセンブルク伯領、リエージュ司教領といった封建国家が自立しました。中でもフランドル海岸部は貿易で栄え、文化の中心地となりました。モザン美術が栄えたのもこの時期です。

13世紀から16世紀

この時代、イーペル、ブルッヘ、ヘントなどの都市が都市権を獲得し、ハンザ同盟が地域の貿易を促進しました。13世紀から神聖ローマ皇帝の権威が低下すると、ネーデルラントはフランスとイングランドの影響力を拡大するための競争の場となりました。フランス王フィリップ2世がブーヴィーヌの戦いでフランドル伯を破ると、フランスの支配が強化されました。1302年には、市民が金拍車の戦いでフランス騎士を破りましたが、最終的にはフランスに有利な和議が結ばれました。

その後、フランドルは百年戦争勃発までフランスの属国となりました。フランドルは政治的にはフランスに属しつつも、経済的にはイングランドとの貿易に依存していました。1433年までには、ベルギー、ルクセンブルク、そしてネーデルラントの大半がブルゴーニュ公国の領地となり、その後ハプスブルク家の支配下に入りました。1549年、神聖ローマ皇帝カール5世は、ネーデルラント17州（ベルギカ・レギア）を成立させました。

ブルゴーニュ公国は経済発展と芸術の繁栄をもたらしましたが、シャルル突進公の死後、ハプスブルク家の影響下に入り、その独立は終わりを迎えました。カール5世は1555年にベルギカ・レギアの君主を退位し、息子フィリップに譲りました。

オランダ反乱

ベルギカ・レギアの北部7州はプロテスタントのカルヴァン派に傾倒し、南部10州はカトリックのままでした。この宗教的な分裂から反乱が発生し、八十年戦争が始まりました。1581年、北部諸州がネーデルラント連邦共和国を建国しましたが、南部はスペインの支配下にとどまり、戦争は1585年のアントウェルペン陥落で終結しました。

17世紀と18世紀

17世紀の間、アントウェルペンは封鎖されたままながらも、ヨーロッパの工業と美術の中心地となりました。しかし、ルイ14世時代のフランスは拡張政策を追求し、特にベルギーはその影響を受けました。スペイン王カルロス2世が後継者問題を抱えたまま亡くなると、スペイン継承戦争が勃発、オーストリアら同盟軍が勝利した結果、ラシュタット条約でベルギーとルクセンブルクはハプスブルク帝国に割譲されました。

1789年から1790年にかけて、ブラバント革命が起こり、オーストリア統治からの独立を求めましたが、これは鎮圧されました。

フランス支配

フランス革命戦争によって、1795年にベルギーはフランスに占領され、併合されました。フランスはベルギーを9県に分けて、フランス本土の一部としました。ベルギー人は重税を課せられ、男子は徴兵されました。しかし、フランスの法制が採用され、身分制度が廃止されました。また、フランスの支配はオランダ語の弾圧をさらに進める結果にもなりました。

1814年、ナポレオン・ボナパルトが失脚すると、フランスによるベルギー統治は終わりを迎えました。

ネーデルラント連合王国

ナポレオン失脚後、ウィーン会議でベルギーとオランダは合併し、ネーデルラント連合王国が建国されました。国王にはプロテスタントのウィレム1世が就任しました。しかし、カトリックの多い南部では不満が募り、1830年の七月革命がベルギー独立革命の引き金となりました。

ベルギーの独立

1830年、ベルギー独立革命が勃発、ベルギーはネーデルラント連合王国から独立を宣言しました。ロンドン会議の結果、独立したベルギー王国が成立し、レオポルド1世が初代国王に即位しました。ベルギーは立憲君主制を採用し、中立政策をとることが定められました。

独立から第一次世界大戦まで

ベルギーは独立後、産業革命を推し進め、ヨーロッパで最も工業化が進んだ国の一つとなりました。しかし、宗教問題、言語問題による対立も深刻化しました。1870年から1871年までの普仏戦争では中立を保ちましたが、1909年の改革で徴兵制が義務付けられました。また、1885年にはベルギー労働党が成立しました。1893年には、男子普通選挙を求めるゼネラルストライキが起こりました。

19世紀末にはベルギーのアール・ヌーヴォー様式が花開き、ヴィクトール・オルタやポール・アンカールといった建築家が活躍しました。また、ベルギーはコンゴ自由国を植民地として設立しました。

第一次世界大戦

第一次世界大戦が始まると、ドイツは中立国であるベルギーに侵攻しました。ベルギー軍はドイツ軍に抵抗しましたが、ベルギーはドイツ軍に占領されました。ベルギーは戦争で甚大な被害を受けましたが、終戦後には回復を果たしました。

戦間期

第一次世界大戦後、ベルギーはオイペン＝マルメディなどを領土に加えました。1923年から1926年まで、ベルギー軍はドイツに賠償金の支払いを迫るためにルール地方を占領しました。1925年には、ルアンダ＝ウルンディを委任統治領としました。戦間期には、ジェームズ・アンソール、ルネ・マグリットといった画家が活躍しました。

第二次世界大戦

第二次世界大戦が始まると、ナチス・ドイツ軍がベルギーに侵攻、ベルギーは再び占領されました。ユダヤ人が虐殺されたほか、多くのベルギー人がレジスタンス活動を行いました。

戦後のベルギー

終戦後、国王レオポルド3世の復位問題が起こり、1951年に退位しました。ベルギーは欧州石炭鉄鋼共同体、欧州経済共同体の原加盟国となりました。1960年にはベルギー領コンゴが独立し、コンゴ危機が発生しました。1960年代から1970年代にかけて、言語戦争が激化し、ベルギーは連邦制へと移行することになりました。1993年にベルギーは連邦制国家となりました。2010年から2011年にかけて、ベルギーは組閣に535日を要するという政治危機に見舞われました。

史学史

現代のベルギーの史学史は、18世紀後半に学者が特定の州や都市ではなく、データ蓄積に頼るようになったことから始まりました。19世紀には、ベルギーがなぜベルギーであるのかという、国民としての定義を巡って議論が重ねられました。

20世紀には、アンリ・ピレンヌがベルギーの史学史を国際的な名声に高めました。

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