大熊朝秀

大熊 朝秀（おおくま ともひで）

戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した武将。越後上杉氏、そして後に甲斐武田氏の重臣として知られます。越後国中頸城郡の箕冠城主を務めました。現在の新潟県上越市板倉区にあたる地域を拠点としていた人物です。

生涯

大熊氏の出自については諸説ありますが、室町時代の寛正4年（1463年）、越後守護上杉房定の軍勢が信濃に侵攻した際に敗退した出来事が関連すると考えられています。この戦いの原因の一つとして、信濃の高梨政高が、大熊郷と新野郷の領主であった大熊氏と新野氏を追放し、その所領を押領したことが挙げられています。歴史研究家の片桐昭彦氏は、後に上杉家に仕えた大熊氏と新野氏は、この時没落した両氏の子孫であろうと推測しています。

朝秀の父である政秀の代から、大熊氏は越後守護上杉氏のもとで段銭収納などの財政に関わる重要な職務を担っていました。政秀の活動は享禄年間（1528年〜1532年）頃に史料から途絶え、この頃に朝秀への家督継承が行われたとみられています。朝秀もまた、父と同様に上杉家中で段銭方などの要職を歴任し、その手腕を発揮しました。越後守護上杉氏が衰退・滅亡していく前後からは、守護代であった長尾氏に仕えるようになります。そして、後の上杉謙信となる長尾景虎の擁立にも尽力し、その家臣団の中で重要な地位を占めるに至りました。

しかし、弘治2年（1556年）には、家中における派閥対立が激化します。上杉家成と下平吉長という家臣同士の領地争いがきっかけとなり、家中は混乱に陥りました。この状況に嫌気がさした景虎は、突如出家騒動を起こし、家臣団は動揺します。この混乱に乗じる形で、朝秀は景虎に対し反旗を翻すことを決意します。かねてより敵対関係にあった甲斐の武田信玄に内通し、さらに会津の蘆名盛氏とも連絡を取り合いました。同年8月23日、朝秀は越中の一向一揆勢を率いて越後国へと攻め込みます。これに対し、景虎は上野家成や庄田定賢らを派遣して迎撃させました。朝秀は頸城郡駒帰での戦いで上野家成に敗れ、越中国へ逃れることとなりました。

越後を追われた朝秀は、永禄6年（1563年）に武田信玄からの招聘を受け、武田家中に仕えることとなります。当初は譜代家老である山県昌景の与力として活躍しましたが、やがてその能力が認められ、信玄の直臣として取り立てられました。足軽大将として、騎馬30騎、足軽75人を率いる地位を与えられました。武田勝頼の時代になってもその地位は揺らぐことなく、遠江国の小山城代に任じられるなど、引き続き重用されました。

外交面でも重要な役割を果たしました。天正7年（1579年）には、かつての主君であった上杉家と、現在の主君である武田家との間に甲越同盟が締結されますが、朝秀はこの同盟の成立に貢献した一人とされています。越後情勢に通じていた彼の存在が、交渉において有利に働いたと考えられます。

天正10年（1582年）3月、織田信長・徳川家康連合軍による甲州征伐が開始されると、武田家中では多くの重臣が織田・徳川方に寝返るなど、崩壊が進みました。しかし、朝秀は最後まで主君である武田勝頼と行動を共にしました。そして、武田家滅亡の舞台となった天目山の戦いで討死しました。これは、越後時代に裏切る形となった長尾（上杉）家とは対照的に、武田家への恩義に報いる行動であったと言えるでしょう。

朝秀の子孫は、後に真田家に仕えることによって存続したと伝えられています。

人物

大熊朝秀は武勇に優れた人物として知られています。武田信玄の命を受けて上野国の長野業盛を攻めた際、日本剣術史上高名な剣豪である上泉信綱と一騎討ちを演じたという逸話があります。この戦いでは、互いに傷を負うことなく引き分けたと伝えられており、朝秀の武芸の高さを示すものとして語られています。また、武田家に仕えてからは、信玄の時代から上杉氏との外交交渉の一端を担っていたとも言われており、武勇だけでなく、交渉術にも長けた人物であったと考えられています。

関連作品

NHK大河ドラマ『武田信玄』（1988年） - 演：勝野洋
東映角川映画『天と地と』（1990年） - 演：成瀬正孝
* NHK大河ドラマ『風林火山』（2007年） - 演：大橋吾郎

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