山本北山

山本北山

山本北山（1752年 - 1812年）は、江戸時代中期の儒学者であり、折衷学派の代表的な人物です。名は信有、字は天禧、通称は喜六または憙六。北山は号であり、他に孝経楼主人、学半堂逸士、奚疑翁、竹堤隠逸などの別号を持っています。

生涯

北山は、江戸の裕福な武家の家庭に生まれました。幼い頃から文学を好み、鋭敏で自尊心の強い性格でした。父を早くに亡くし、母の愛情を受けて育ちます。住まいは江戸小石川の白山本念寺の近くでした。

学問の道へは、山崎桃渓に素読を学んだ後、15歳で経学を始めました。井上金峨の折衷学を躋寿館で聴講し、難解な教義もたちまち理解したといいます。その後、訓詁学、性理学、伊藤仁斎の古義学、荻生徂徠の古文辞学などを独学で修めました。資産家であったため、多くの書籍を収集し、23歳のときには『孝経集覧』を著して江戸で名を知られるようになりました。この頃、書斎を孝経楼と名付けています。

北山は、優れた才能を持つ一方で、直情的な性格でもありました。自らを「儒中の侠」と称するように、義に篤く、不正に対しては義憤を感じることがありました。徂徠の古文辞学を厳しく批判し、寛政異学の禁にも反対したため、亀田鵬斎らと共に「五鬼」とされたこともあります。天明の大飢饉の際には、救済運動を起そうとしました。

生涯、師につくことなく、また仕官することもなく、独自の学問を追求しました。しかし、久保田藩主 佐竹義和や高田藩主 榊原政令からの依頼を受け、藩政に有益な助言や指導を行い、成果を挙げています。

百家の書を渉猟し、儒学以外にも天文、兵法、医学、道家思想などを研究しました。私塾 奚疑塾を開き、多くの門人を育てましたが、その自信過剰な態度を批判する者もいました。

詩社 竹堤吟社を結び、清新性霊派の詩人を育成したことでも知られています。

妻は今川緗桃、息子に山本緑陰がいます。緑陰の子には儒者である山本学半や、酒井抱一の弟子であった山本素堂がおり、彼らの子孫もまた、学問や芸術の道に進んでいます。

文化9年（1812年）に61歳で亡くなり、墓は東京都文京区の本念寺にあります。墓碑銘は亀田鵬斎によって書かれました。

学風と詩風

北山は、井上金峨の折衷学に影響を受けつつも、独自の学問を確立しました。自らの学問を孔子学と称し、孝経を最も重要な経書と位置づけました。

詩においては、服部南郭らの古文辞格調派を批判し、明の袁宏道らの公安派を理想としました。清新で叙情的な宋詩こそが、詩人の個性を表現できる最適なスタイルであると主張し、その後の漢詩に大きな影響を与えました。北山自身の詩人としての才能は必ずしも高くありませんでしたが、彼の詩論は性霊説として、市河寛斎や大窪詩仏らに受け継がれました。

また、文章においては韓愈や柳宗元を尊びました。

門弟

太田錦城
梁川星巌
小川泰山
山中天水
朝川善庵
宮本篁村
宮本茶村
大窪詩仏
柏木如亭
雨森牛南
山本緑陰
近藤重蔵
原念斎
蒲生君平
小笠原冠山
太田全斎
柴山老山
大島無害

主な著作

『孝経集覧』
『孝経楼漫筆』
『北山先生大学説』
『北山先生論語説』
『北山先生中庸説』
『北山先生孟子説』
『古文尚書勤王師』
『三余漫筆』
『経義揶説』
『勧学治体』
『師藻行潦』
『文用例証』
『作文志彀』
『作詩志彀』
* 『孝経楼詩話』

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